地域社会と共に成長するブランドを目指す-ヤマハ発動機チェンナイ工場の日本式ものづくり学校(2)-

(インド)

チェンナイ発

2018年01月05日

ヤマハ発動機がチェンナイに設立した日本式ものづくり学校「YAMAHA MOTOR NTTF Training Center」は、地域社会への貢献という観点からCSR活動としての側面も有する。その副産物として、工場のワーカーも含めた社員のモチベーション向上にも貢献しているという。連載の後編は、ものづくり学校設立の際の留意点なども含めて報告する。

教育・就職支援を通じて地域社会に貢献

日本式ものづくり学校「YAMAHA MOTOR NTTF Training Center(YNTC)」は、ヤマハ発動機の社会的責任(CSR)活動にも重要なメリットをもたらすという。同社のインド現地法人India Yamaha Motor(IYM)の川島理生司チェンナイ工場長は「インド市場で成功するには、地域社会と一緒に成長するという姿勢が大切だ。地場二輪車メーカーと競合しても、品質や価格で大きく差別化することは難しい。ブランド力の差も日系メーカーが地場メーカーとの競争に苦戦する理由だ」と話す。長期的な視点で、地域の人々に認知され、愛され、尊敬されるブランドをつくるために、CSR活動は欠かせないという。第1期生として入学した44人の選抜についても、チェンナイ工場を構えるタミル・ナドゥ州への社会貢献を念頭に、(1)意欲・ポテンシャルは高いものの、貧困によって十分な教育を受けられなかった若者、(2)産業がない地方の出身で、農家の次男・三男などで稼ぎ口がないこと、などを条件に州全土から生徒を募ったという。「来年度以降は、女性の自立支援のため、より多くの女子生徒(現在は44人中5人)の入学を期待している」とのことだ。

YNTCの設立で工場全体のモチベーションが向上

開校から約4カ月が経過したYNTCの状況について、川島氏は「誰も辞めておらず、どの生徒も非常にモチベーション高く働いている」と語る。研修中の生徒からは、「難しい作業もあるが、YNTCのプログラムはとても充実している」と笑顔が見られた。

IYMのチェンナイ工場で働くインド人社員のほとんどがタミル・ナドゥ州の出身だ。地域社会への貢献を目指すYNTCの運営は、地元出身社員にとってやりがいのある仕事だ。人材採用・育成を担当する社員のみならず、OJT教育を施す製造ラインのワーカーまで含めて、自分たちが生まれ育った地元に役立つ仕事ができることによって、モチベーションが向上し、チェンナイ工場全体の士気が高まるという二次的な効果も出ているという。

ものづくり学校の設立のハードルは必ずしも高くない

ものづくり学校(JIM)の設立が人材育成やCSRの面でのメリットをもたらす点を踏まえ、川島氏は「今後、より多くの日系企業がJIMを設立することを期待している」と話す。その際の留意点として、「当社と同様にNTTFとの共同でJIMを立ち上げる場合は、最低採用人数が40人となる。簡単な数ではないが、必ずしも単独で40人を集める必要はない。近隣の複数の会社と協力してJIMを設立し、合計で40人を確保することも可能だ」と説明する。

また、設立に当たって校舎の建設などの大規模な投資をイメージしがちだが、YNTCのケースでは、IYMチェンナイ工場内の既存の会議室1部屋をYNTCに割り当てることで対応したため、初期投資は抑えられたとのことだ。加えて、手当や研修費などを含む生徒1人当たりにかかるコストは、派遣社員1人を雇用する人件費と大きく変わらないことも分かったという。派遣社員は欠勤率が高い上に、契約期間も原則240日までと限られるほか、契約期間中に無断で来なくなる派遣社員も一定数いるとのことだ。同氏は「YNTCの生徒であれば、月曜日は座学教育のために44人全員が製造ラインから外れるものの、火曜日から土曜日にかけては、派遣社員よりも勤勉に業務(OJT)に取り組むことを期待できる」と語る。また研修に時間を要する工程は短期間でやめてしまう可能性がある従業員には任せ難いが、4年間が前提のYNTCの生徒には任せられるという。

なお、経済産業省からJIMに認定された際には、専用のソフトスキル教育資料が提供されるほか、日本からJIM設立に関わる講師(自社教育プログラムの策定など)を呼ぶ際には資金補助を受けられる。

川島氏は最後に、「『学校設立』という言葉に、ハードルの高さを感じる企業が多いかもしれないが、JIMは、優秀な人材を育成し、継続的な雇用を可能にする、非常に意義のある取り組みだ」と話した。「インドでの人材育成の重要性を理解し、今後、JIM設立を真剣に考える企業があれば、相談にも乗れる。また、人数が集まれば見学会を開くことも可能」とのことだ。

(森史行)

(インド)

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