自動車メーカー、乗り換え自由なサービスを続々開始-米国のサブスクリプションビジネス(3)-

(米国)

サンフランシスコ発

2018年01月10日

米国では、サブスクリプションビジネスの人気の波は自動車にまで及んでいる。以前からさまざまなメーカーの車種を定額料金で提供する企業は存在していたが、2017年には自社車両を使ったサービスを開始する自動車メーカーが相次いでいる。

利用者の負担は燃料代のみ

自動車メーカーの中で、いち早くサブスクリプションサービスに乗り出したのは、ゼネラルモーターズ(GM)だ。同社は2017年1月、高級車ブランドのキャデラックの最新モデルを定額料金で利用できる「ブック・バイ・キャデラック」を開始した。これは、利用者が専用アプリなどで希望する車種を選択すると、専門のスタッフが自宅やオフィスなど指定した場所に自動車を届けてくれ、その自動車を利用している間に次回利用する車種を選んでおくと、毎月のサービス更新の際に自動車を交換してくれるといったシステムだ。

料金は月額1,800ドルで、車両登録料、税金、保険料、メンテナンス、修理、24時間対応の緊急サポートなどが含まれる。このほかに、500ドルの初回登録料が必要となる。月額料金で走行できる距離は1カ月当たり2,000マイル(約3,200キロ)で、それを超える場合には追加料金が課せられる。対象車種は2017~2018年モデルで、スポーツ用多目的車(SUV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、高性能スポーツカーなど5モデルで、最多で年間18回の車両交換ができる。つまり利用者は、アウトドアレジャーの予定がある時はSUV、長距離移動の時は高性能スポーツカーといった使い方や、夏季は燃費の良いセダン、冬季は四輪駆動のSUVといったように、余暇やニーズに応じて自動車を乗り分けることができるというわけだ。また、自動車所有に付き物の、エンジンオイルの交換や修理を手配する必要がなく、これらのコストが省ける。

同社は当初、ニューヨークでのみサービスを展開していたが、2017年11月からロサンゼルスとテキサス州ダラスでもサービスを開始している。

ポルシェは乗り放題プランを導入

米国でも人気の高い高級車メーカーのポルシェも、2017年にサブスクリプションサービスを開始した自動車メーカーの1つだ。同社は10月、自動車のサブスクリプションサービスを提供するクラッチテクノロジーズと提携し、ジョージア州アトランタでサブスクリプションの試験プログラム「ポルシェ・パスポート」を開始した。このサービスは、GMのブック・バイ・キャデラックとほぼ同様の内容で、500ドルの初回登録料と月額料金を支払い、毎月違う車種のポルシェを利用できるシステムとなっている。

ポルシェは、月額2,000ドルで4シリーズから8車種を利用できる「ローンチ」、3,000ドルで7シリーズから最多22車種を利用できる「アクセレレート」の2つのプランを設けている。月額料金で走行できる距離に制限は設けておらず、実質乗り放題となる。

リース後の中古車を活用するフォード

フォードは、グループ傘下のキャンバス(本社:サンフランシスコ)を通じて、2017年5月からサンフランシスコ・ベイエリアでの車両サブスクリプションサービスを提供している。キャンバスのサービスシステムは、GMやポルシェのそれと同様のものだが、手頃な料金設定が特徴だ。初回登録料が99ドル、月500マイル走行可能なプランであれば月額429ドルからと利用しやすい料金を設定している。対象車種には大衆車「フォーカス」や「フュージョン」のほか、高級車ブランドの「リンカーン」、人気スポーツカーの「マスタング」なども含まれている。ロイター(2017年6月8日)によると、車両にはフォードのディーラーで短期リースに使われていたものを活用しており、自動車メーカーに新たな収入源をもたらしているという。

さらに、オンラインメディアのテッククランチ(同年11月1日)は、キャンバスのサンフランシスコ・ベイエリアでの非常に肯定的な反応を受け、ロサンゼルスへも事業展開を拡大したと伝えている。

ボルボ・カー・USAも11月に、サブスクリプションサービス「ケア・バイ・ボルボ」を発表し、2018年春からサービス提供を開始するとしている。

自動車購入の「煩わしさ」がサブスクリプション拡大の一因

自動車メーカーが続々とサブスクリプションビジネス市場に参入する背景には、自動車の購入やリースに対する消費者の意識の変化があると指摘されている。ボルボのヘイカン・サミュエルソン社長兼最高経営責任者(CEO)は「消費者にとって(動画ストリーミングのような、料金体系の)透明性の高い定額制サービスが当たり前になっている今、(維持費がどれだけかかるか分からない)車両購入やリースが煩わしいと考える消費者もいる」との見解を示している。

こうしたサブスクリプションサービスについて、キャデラックのウーイ・エリングハウス最高マーケティング責任者は「手間をかけずに、個人のニーズに合わせてさまざまな車種を利用できる」と述べ、ポルシェ・カー・ノースアメリカのクラウス・ゼルマー社長兼CEOは「指先ひとつの操作で利用できる、シンプルで柔軟性の高いサービス」だとし、ボルボ・カー・USAのレックス・カースメイカーズ社長兼CEOは、消費者の生活を「より楽にする」と語っている。

ブック・バイ・キャデラックのグローバルディレクターを務めるメロディー・リー氏は、サブスクリプションサービスには、レンタカーや近年人気のカーシェアリングにはない魅力があると主張する。同氏は「必要に応じて借りるよりも、実際に所有していると感じていたい消費者は多い。しかし、(所有することで生じる)自動車保険料を支払う気はないようだ」と自動車情報サイト「ザ・ドライブ」(11月13日)で述べており、サブスクリプションサービスが自動車の購入やリース、レンタカーやカーシェアリングでは満たされない需要に対応するとの見方を示している。

(高橋由奈、永松康宏)

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