越境eコマース貨物の増加に税関も苦慮-「東海岸トレードシンポジウム」がアトランタで開催-

(米国)

ロサンゼルス発

2018年01月04日

米国税関国境保護局(CBP)主催の「東海岸トレードシンポジウム」が12月5~6日に、ジョージア州アトランタで開催された。国土安全保障省(DHS)のエレーン・デューク長官代行やCBPのケビン・マカリーナン局長代行らから、物流セキュリティーの現状や安全保障、取り締まり、貿易促進に向けた政府の取り組み方針などについて説明があり、参加した貿易関係者と意見交換が行われた。

外国郵便の輸入審査で課題

CBPは関税・通関業務のほか、テロ阻止などセキュリティー対策、麻薬や輸入禁止品の水際での取り締まりを実施しており、CBPのマカリーナン局長代行は「特に航空貨物によるテロ攻撃と薬物の密輸を防ぐことが輸入検査の大きな課題だ」と述べた。米国では、2010年に航空貨物から爆発物が見つかったことや、越境eコマースの急成長などに伴い国際郵便小包が増加していることなどから、輸入貨物検査の重要性が指摘されている。最近では、違法薬物を菓子や食品に混ぜる悪質なケースもある。

米国は、国連の専門機関である万国郵便連合(Universal Postal Union、参加192カ国)が進める、郵便当局、税関、航空会社が貨物の情報を事前に共有する電子事前データ(EAD:Electronic Advance Data)を活用し、輸入検査時間の削減やリスク貨物の流入阻止に努めている。ただし、米国郵政公社(USPS)のデビッド・ボウアーズ検査官は「現在、約24カ国がUSPSを通じて事前データを税関に送っているが、郵便の全ての情報が送られているわけではない」と指摘した上で、「CBPとUSPSが連携して税関検査官を諸外国に派遣し、米国税関がリスクとする貨物についての研修を行うなど、知識の共有も行っている」と取り組みを紹介した。

またCBPは、フェデックス(FedEx)やUPSといった航空運送業者に対しても、2019年から適用されるパイロットの新たな資格要件やリスク貨物を運んでしまった場合を想定したトレーニング基準を定めている。

DHSのデューク長官代行は「クリスマス商戦の初日となるブラックフライデー(2017年)のオンラインショッピングの売り上げは全米で50億ドルに達した。これは前年の17%増だ」と発表した。今後もオンラインショッピングの需要拡大により外国からの貨物の増加が予想される。しかし、国際郵便小包は個人消費目的であることから米国の輸入安全規制の対象にならず、政府当局の規制の対象に含まれない。デューク長官代行は「外国郵便小包は目隠し状態だ。どのように作られたか、どこから送付されているか分からないため、消費者の安全を確保するのは難しい」と指摘した。

強制労働や模倣品摘発などの重要性を議論

貿易円滑化・貿易執行法(TFTEA)は、通商上の権利行使の強化を主な目的とした法律で、CBPに対して水際での執行措置を強化することなどが定められている。シンポジウムのTFTEAに関するセッションでは、強制労働によって製造された製品の米国への輸入禁止、模倣品の摘発と知的財産権の保護、アンチダンピングや相殺関税の執行の重要性などが議論された。CBP担当者からは、アジアや南米で多くみられる児童労働を含む強制労働への対応として、輸入者は原産地証明書や強制労働による製品ではないことを示す書類の提出義務があることや、法令順守のため輸入者は資格を持った通関士など専門家の助言を受けるべきことなどについて言及があった。

なお、TFTEAによって2016年3月10日以降、米国向け輸入貨物の非課税基準額(De Minimis)が1出荷につき200ドルから800ドル未満に引き上げられた。これにより、迅速な通関や、通関コストの削減などが見込まれている。

写真 シンポジウム会場の様子(ジェトロ撮影)

陸上の輸入審査はカナダ、メキシコと連携

CBPは陸上貨物の輸入審査の最新状況として、カナダ国境での輸入審査強化の可能性と、メキシコ国境で導入している新プログラムの状況を説明した。カナダでは2018年7月1日から嗜好(しこう)用大麻が合法化される見込みで、米国国境ではさらなる輸入審査の強化が予想される。CBPフィールドオペレーション室のトッド・オーウェン局長補佐は「荷主はこれらの変化に注目すべきであり、より厳重な検査や通関の遅延もあり得る」と述べた。国境審査の強化としては、トラック運転手の薬物使用歴の有無の確認を行うことなどが考えられる。また、「テロ行為防止のための税関・産業会パートナーシップ(C-TPAT)」参加企業には、FASTプログラム(注)の認可を失わないための事前準備を勧めている。

米国とメキシコ間では、2017年10月にユニファイドカーゴプロセスプログラムが開始された。これはCBPとメキシコ国税庁(SAT)が連携し、重複した検査を避けるため両国の検査官が共同で貨物検査を行うもので、2016年7月にアリゾナ州で試験的に開始されていた。

同プログラムの開始に加え、トラック貨物スクリーニング機械にも新技術を導入する。新技術はトラックの貨物部だけのスクリーニングが可能なことから、運転手がトラックから降りる必要がなく、検査時間を短縮できるという。CBP担当者によると、従来は1時間で約7台のトラックをスキャンしていたが、新技術では70~80台を検査できるようになるという。これらはテキサス州などメキシコ国境のほかの地域にも導入される見込みだ。

 写真 メキシコおよびカナダの税関当局者とのパネルディスカッション(ジェトロ撮影)

1月から魚介類規制を完全施行

関係省庁や輸入監督を行う政府当局と意見交換を行うセッションでは、全米エクスプレス協会や全米輸出入者協会(AAEI)をはじめ多くの貿易関係者がCBPへの要望や輸入実務に関する課題を提示するなど、活発な意見交換が行われた。特に、輸入水産物トレーサビリティープログラムの完全施行が2018年1月1日に控えていることもあり、輸入業者などは海洋大気庁(NOAA)に対して規制緩和の要請を行った。ロサンゼルスの水産輸入業者は「1月1日は祝日でオフィスに人がおらず、通関に必要となる情報がそろっていないなどの連絡を受けても対応できないケースが多発する恐れがある。1月は中国系米国人向けの旧正月用貨物の増加も見込まれており、対応策を求める」とした。

(注)C-TPATとは、セキュリティー面のコンプライアンスに優れた輸入業者などに対し、検査を減らすなどの優遇処置を施す制度。FASTプログラムとは、C-TPAT参加企業がカナダ、米国、メキシコ間の国境を通過する際に、優遇レーンを利用できるプログラム。通関時間の短縮のために活用されている。

(サチエ・ヴァメーレン、北條隆)

(米国)

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