製造現場での中核人材確保に向けた試み-ヤマハ発動機チェンナイ工場の日本式ものづくり学校(1)-

(インド)

チェンナイ発

2018年01月04日

ヤマハ発動機は、インド南部タミル・ナドゥ州チェンナイに2017年7月、日本式ものづくり学校「YAMAHA MOTOR NTTF Training Center」を開校した。転職文化が根強いインドにおいて優秀なインド人社員を育成し、安定的に雇用するための新たな試みだ。同校の取り組みを2回に分けて報告する。前編は、日本式ものづくり学校設立の背景と教育プログラムの特徴について紹介する。

日本式ものづくり学校の第1号として7月に開校

日印両政府は、モディ首相が推進する政策「メーク・イン・インディア」および「スキル・インディア」の実現に向け、日本水準のものづくり人材を今後10年間で3万人育成することを目標に掲げる。その柱の1つに日本式ものづくり学校(JIM:Japan-India Institute for Manufacturing)の設立が挙げられ、日系企業がインドの若者に対して、日本式の労働倫理や技能を直接指導し、製造現場の中核人材の育成を目指している。2017年7月21日には、JIMの第1号として、ヤマハ発動機がインド現地法人India Yamaha Motor(IYM)のチェンナイ工場にYAMAHA MOTOR NTTF Training Center(YNTC)を開校し、44人が入学した。

同校のプログラムについては、IYMが技能スキルを担当し、YNTCを共同で運営するネトゥール技能訓練基金(NTTF:Nettur Technical Training Foundation)が非技能スキル(英語や数学など)を受け持つ。NTTFは産業人材育成を目的に、インドの若者に倫理・知識・技能教育を施す職業訓練機関だ。入学後1カ月間のNTTFによる導入教育を経て、生徒は週6日(月曜日~土曜日)のプログラムに入り、月曜日はNTTFによる座学教育を受け、火曜日から土曜日は、IYMがチェンナイ工場の製造ラインに生徒を配置しOJT教育を行っている。二輪車の組み立てや部品管理、塗装、溶接といった計9工程に生徒を5人ずつ配置し、半年ごとに担当を変え、二輪車製造に関する幅広いスキルの習得を目指している。

写真 NTTFによる座学教育の様子(IYM提供)
 写真 IYMチェンナイ工場でのOJT教育の様子(IYM提供)

NEEMスキームを活用し、自社での人材育成に取り組む

IYMの川島理生司チェンナイ工場長はYNTC設立のきっかけについて、「地元で優秀な人材を雇用し育成したいという想いがあった」と話す。「インドでは人件費が年々高騰し、『安価な労働力』というメリットが薄れ始めている。これからは、スキルが必要なコア業務を任せられる、質の高い人材を育てていく必要がある」と強調する。人材育成への取り組みを模索する中で、当初は既存の職業訓練学校との協力などを検討したというが、NTTFが採用している国家雇用可能性拡大ミッション(NEEM:National Employability Enhancement Mission)スキームを知り、同社は自社でのものづくり学校設立を決めたとのことだ。NEEMスキームとはインド政府認可の教育制度で、家庭の事情で教育を受けられない若者に実践的な教育を施し、雇用を促進することを目的としている。学びながら稼ぐという形式「Learn and Earnモデル」を特徴とし、同スキームの認可を取得した教育機関と企業が共同でものづくり学校を運営することで、生徒は実践的なスキルを習得しながら、手当を得ることができる。さらに、規定のプログラムを修了した生徒には、教育内容に準じたディプロマ(高等専門学校の卒業資格に相当)が与えられる。

既に多くのインド地場企業はNEEMスキームを活用し、人材育成を行っている。川島氏は他社の教育施設を視察し、同スキームによって自社でものづくり学校を設立することが、IYMの目指す人材育成に最も適していると感じたとのことだ。

YNTCでは、卒業後の進路(就職先の選択)は基本的に生徒の判断に委ねているが、もしIYMへ入社するのであれば、将来的には製造ラインの基幹社員やマネジャーになる道も用意しているとのことだ。川島氏は「当社の中核人材となってくれることを期待している」と語った。

(森史行)

(インド)

ビジネス短信 af090d7e01e48297