関税支払い手続きの透明化で課題改善に期待

(ミャンマー)

アジア大洋州課

2018年01月15日

ミャンマーでは税関での通関手続きにおいて、関税の課税評価査定・分類認定基準に不満を抱える企業の割合が高い。2016年11月には日本政府の支援により電子通関システムが導入されており、税関手続きの透明化に伴って課題が徐々に改善されることが期待されている。ミャンマーにおける税関手続きに関して報告する。

電子通関システムの申告納税方式を導入

表はジェトロが実施する「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、ジェトロ調査)において、「関税の課税評価査定・分類認定基準が不適切」と回答した企業比率の推移を2010年度から示したものだ。2016年度については48.6%と、全体平均を約30ポイント上回り、進出日系企業が大きな課題を抱えている状況がうかがえる。

表 「関税の課税評価査定・分類認定基準が不適切」と回答した企業比率の推移(単位:%)
日系企業 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度
全体平均 16.4 17.3 18.5 19.8 20.5 19.4 18.2 17.8
ミャンマー 20.0 28.6 22.2 50.0 34.0 41.9 48.6 34.2

(注)北東アジア、ASEAN、南西アジア、オセアニア地域の計20カ国・地域を対象に調査。ただし2010年度のみ18カ国・地域。
(出所)アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(2010~2017年度)

ミャンマーでは、税関が独自に定める評価額リストによって課税額を決める賦課課税方式が取られていることが一般的で、「インボイス上の申告額よりも高額に評価され、関税が想定額を上回り決済に支障が生じた」と訴える進出日系企業は後を絶たない。こうした税関でのトラブルを避け、少しでもスムーズに輸入通関を行うために、サンプルとして少量を税関に持ち込み、課税評価額について税関と事前に協議し、その後、航空便などでコマーシャルベースでごく少量を輸入し、実績をつくってから本格的な輸入をするなど、ステップを踏むことが重要とされている。

こうした中、国際協力機構(JICA)による支援の下で、電子通関システム「マックス」(MACCS:Myanmar Automated Cargo Clearance System)が2016年11月、ミャンマー国内の主要港および空港で稼働した。マックスの導入に伴い、関税の支払い方式が取引価格をベース(CIFベース)とする申告納税方式に変更された。

ミャンマー初の税関による事後調査も実施

ただし、ミャンマーの税関ではこれまで長年、賦課課税方式が取られていたため、税関が申告納税方式に切り替えるには、まだ多くの時間を要すると予想される。ヤンゴン税関支局の植野修平JICA専門家は「ミャンマーの税関はインボイス単価の正当性を信用しない」と指摘する。現地企業の間では、課税逃れのために、本来の輸入商品とは異なる商品名をインボイスに記載し、単価を安く設定するなどの手法が一般的に行われている。こうした不正を見つけ、適正な関税評価を行うためにも、ミャンマーの税関では長年、独自の評価額リストに基づいた課税評価を行ってきたというわけだ。加えて、ASEAN地域では複数の国にみられる、企業による不正を指摘した職員に報奨が支払われる制度がミャンマーでも導入されており、こうした背景もあり、税関による課税評価は一般的に実際よりも高くなりがちだ。

2011年に民政移管を果たしたミャンマーでは、現在さまざまな法律や制度が改変されており、今回の申告納税方式の導入も、WTOの関税評価協定に基づいたものだ。2017年9月には、関税評価はインボイス単価に基づいて行うよう、あらためて大臣通達が出された。

現在、タイとミャンマーの国境地帯のミャワディ税関にもマックスを導入しようと、JICAによる支援が引き続き進められている。植野専門家は「2017年10月にはミャンマー初の税関による事後調査も行われた」と話す(2017年12月時点のヒアリング)。2017年度のジェトロ調査において、「関税の課税評価査定・分類認定基準が不適切」と回答した企業比率の割合は、2016年度の48.6%から34.2%に低下し、改善の兆しがみられる。マックスの導入により、今後、ミャンマーの税関手続きの透明性が大いに高まることが期待される。

(水谷俊博)

(ミャンマー)

ビジネス短信 a860d0e79594bf22