財政負担軽減に向けた年金改革法案が可決-議会で野党が反発、議会外ではデモが先鋭化-

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2018年01月05日

アルゼンチン下院は12月19日、年金改革法案を可決した。公的支出を削減して財政赤字からの脱却を目指すマクリ政権における改革法案の1つで、上院では既に可決していた。しかし、本法案によって高齢者への年金支給額が減るとして、野党は反発した。議会外では社会活動団体が抗議活動を先鋭化させるとともに、有力労働組合は24時間ゼネストを決行。12月18日には国会議事堂周辺でデモ隊と警察が衝突し、多数の負傷者が出た。

財政再建策のマイナス面に野党は反発

12月19日早朝、下院は前日夜から12時間の審議を経て、年金改革法案を賛成127票、反対117票で可決した。アルゼンチンは2008年の左派政権時代から国家社会保障庁(ANSES)を通じて年金制度に公的資金を投入しており、財政赤字の改善に不可欠な改革といわれている。同改革法案は被雇用者の定年延長と、年金支給額の計算方法の変更を盛り込んでいる。前者に関しては、民間正規被雇用者に限り、本人が希望すれば男性は65歳から70歳まで、女性は60歳から70歳まで延長が可能となるというもの。現行法では、例えば男性被雇用者の場合、65歳時点で納付期間が30年に達していれば、雇用者側は同人に対して定年退職を求めることができる。

今回の法案改正では、後者が議論の焦点となった。現行制度下の計算方法では半年ごとに給与上昇率などの変動に基づいて年金支給額が調整されるが、改革法案ではインフレ率分7割と給与上昇率分3割で構成され、四半期ごとに調整が行われることとなる。これにより、一部の高額年金受給者や納付期間が30年未満の場合に受給額が実質目減りするとの指摘がある。財政負担の軽減および財政赤字の解消に向けた取り組みとなるが、同法案によって1,700万人近くに影響が生じるとも報じられており、下院の審議が大詰めを迎えるにつれて、野党を中心に反発が起きた。

労組や社会活動団体が抗議のデモやゼネスト

議会の外においては、労働組合や社会活動団体が抗議を先鋭化させ、12月13日ごろから社会活動団体が首都ブエノスアイレス各所の道路を占拠してデモ活動を行い、特に国会議事堂前では警官隊に向かって投石などを行った。一部は暴徒と化し、18日だけでも100人弱の警官が負傷した。また、国内で最も有力な労働組合である労働総同盟(CGT)は、18日正午から24時間ストを敢行した。アルゼンチンでは年末の12月に政情が不安定になる傾向があり、2001年には警官隊とデモ隊との衝突によって死者が出たことから市内各所で暴動が発生し、当時の政治・経済の混乱に拍車を掛ける結果につながったこともある。

与党には、10月に行われた議会中間選挙の勝利を受けて、年金改革だけではなく税制改革や労働制度改革でも矢継ぎ早に新たな制度設計を進めることで、外国からの投資誘致に向けた環境整備を整えたい意向があった。また、既に上院では同法案が可決した後で、議会内における野党、議会外における労組や社会団体による抗議が先鋭化したことは、中間選挙での与党勝利以降のマクリ政権の楽観的な見通しとは異なり、複雑な政情を映し出すかたちとなった。

同法案が可決した直後の12月19日午前、マクリ大統領は大統領府で記者会見を開き、今回の改革がインフレ率の抑制につながり、中長期的には年金受給者にとっても望ましい改革になるとの考えを示した。また、同法案審議の終盤に国会議事堂前で発生したデモについては、自然発生的な抗議活動というよりも、組織化された暴動だと批判した。

(紀井寿雄)

(アルゼンチン)

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