5%のVAT導入、釣り銭で混乱も

(アラブ首長国連邦)

ドバイ発

2018年01月19日

アラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビアは1月1日、他の湾岸協力会議(GCC)諸国に先駆けて付加価値税(VAT)を導入した。UAEでは制度への理解不足、釣り銭に必要な小額硬貨の不足もみられ、しばらくは混乱が続きそうだ。

サウジでも同率のVAT導入

UAEは1月1日から5%のVATを導入した。GCC加盟6カ国が2019年1月1日までに導入することで合意したのを受けたもので、適用除外と認められた医療、教育に関する商品・サービスなどを除き、輸入品を含めほぼ全ての商品・サービスに5%のVATがかかる。この中には、当初除外することが検討されていた基礎食品約100品目も含まれる。なお、サウジアラビアでも同率のVATが導入された。

VATは間接税なので、納税者は最終消費者だが、事業者には消費者が払ったVATを政府に納める義務がある。導入に先駆け、UAEでは2017年10月から連邦租税庁(FTA)への事業者登録が開始された。売上高が37万5,000ディルハム(約1,125万円、1ディルハム=約30円)以上の企業には登録義務があり、18万7,500~37万5,000ディルハム未満の企業は任意登録が可能だ。最終商品・サービスの5%が納税額となり、FTA登録事業者は売り上げにかかるVATから仕入れ時に支払ったVATを差し引いて納める。FTAに登録していない場合は、売り上げにVATをかける必要はないが、仕入れにかかるVATの還付は受けられない。

指定地域で一時保管後の再輸出は課税対象外

輸入商品にもVATは課され、国際貿易取引の基本条件を定めたインコタームズ上、輸入国側で通関後に指定地で所有権が移転するDDP(関税込み持ち込み渡し)以外の場合は輸入者がVATを払う必要がある。

UAEに40以上あるフリーゾーンの所在企業は会社法の対象外と見なされ、外資出資制限の非適応など特典が認められているが、VATに関してはUAE企業と見なされ、上述の条件にて義務登録または任意登録が求められている。ただし、指定地域とされたフリーゾーンの場合、UAE国内企業(指定地域内の企業を含む)との取引はVAT対象となるが、国外との取引にはVATは適用されない。そのため、指定地域内の倉庫などに一時保管され、そのまま再輸出されるような商品にはVATはかからない。1月9日にはUAE政府が日系企業も多く集積するドバイのジュベル・アリ・フリーゾーン、ドバイ空港フリーゾーンなどUAE全体で20カ所を指定地域として認定した。

事業コストや人件費の上昇が懸念

VATの導入により、多くのUAE企業は既存の契約やサプライチェーンの見直し、ITシステムの入れ替えや請求書フォームの見直しなど、対応にコストがかかっている。

さらに企業経営者は、VAT導入により賃金上昇率以上のインフレが予想されるため、従業員から給料のインフレ調整を求められる可能性があることを懸念しているという(在ドバイ人事コンサルタント)。

消費者の購買意欲の減退も懸念されており、UAEの消費者1人当たりの購買力は2018年3.3%減、2019年3.1%減と予測している調査会社もある。毎年12月末から1月末まではドバイショッピングフェスティバルと呼ばれるドバイ最大のセール期間で、各店でバーゲンセールが行われるが、2018年1月はVAT導入により需要低下が懸念される高価格商品のさまざまなキャンペーンが行われており、自動車ディーラーや金・宝飾店などでは「VAT導入後も価格据え置き」キャンペーンを行っているところもある。

制度の理解不足などによるトラブルも

スーパーマーケットなどでは釣り銭が問題になっている。消費者からの苦情を受け、連邦経済省消費者保護局は事業者に対し、正確な額を消費者に渡すよう通知した。しかし、UAEで発行されている最小単位の硬貨は25フィルズ(0.25ディルハム)であるため、アブダビ経済開発局は、VAT込みの請求額を25フィルズ単位で切り上げてもよいとの通知を出した。例えば、1.5ディルハムの商品の場合、VAT込みで1.575ディルハムになるが、通貨は0.25ディルハム刻みなので、現金払いの消費者は1.75ディルハムを支払うしかない。これは消費者の日常生活に関わる問題だとして、小額硬貨の発行を求める声が出ている。

そのほか、FTA未登録事業者によるVATの徴収や対象外商品・サービスへの課税など、制度の理解不足によるトラブルなども報告されており、政府機関のウェブサイトや新聞などには、企業や消費者からの質問に対する回答が毎日のように掲載されている。

(山本和美)

(アラブ首長国連邦)

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