苦戦するアパレル企業、定期購入型市場への参入相次ぐ-米国のサブスクリプションビジネス(2)-

(米国)

サンフランシスコ発

2018年01月09日

米国のサブスクリプションビジネス市場では、スタートアップ企業に加えてギャップなど大手アパレル企業の参入もみられるようになった。連載の2回目は、eコマースに押され、苦戦が続くアパレル業界からの相次ぐ参入を紹介する。

ギャップは子供服でサービス開始

大手衣料品小売りのギャップは2017年10月、2つの子供向け衣料品のサブスクリプション・ボックス(SB、定期購入型)サービスを開始すると発表した。1つは、ベビーギャップブランドの「ベビーギャップ・アウトフィットボックス」、もう1つは、グループ傘下の低価格帯ブランドのオールドネイビーの「スーパーボックス」だ。利用者が専用ウェブサイトで、洋服のサイズ、好きなファッション、性別、支払い方法を登録すると、その情報を基にスタイリングされた衣類6点が届けられる。気に入った商品以外は返送することができ、21日以内の返送であれば支払った料金を返金してもらえる。「ベビーギャップ・アウトフィットボックス」が70ドル、「スーパーボックス」が69.99ドルだが、いずれも100ドル以上の価値のある商品が入るほか、発送・返送の送料とスタイリング料も含まれる。

「ベビーギャップ・アウトフィットボックス」は、子供の成長に合わせて衣類のサイズも自動的に更新される。現在は0~2歳児向けだが、今後3~4歳児向けのサービスも開始する予定だ。なお、「スーパーボックス」は、5~12歳児向けとなっている。

全商品購入で割引するブランドも

スポーツウエア小売りのアンダーアーマーも、同月にSBサービスを開始した企業の1つだ。同社のSBサービス「アーマーボックス」もギャップと同様に、洋服のサイズや好きなスタイルなどを選択すると4~6品が届き、利用者はその中から気に入った商品のみを手元に残す仕組みだ。利用者は、30日、60日または90日ごとのいずれかの商品発送頻度を選ぶことができ、手元に届いた全商品を購入する場合は20%の割引価格が適用される。ギャップのSBサービスとは違い、購入したい衣類への支払いのみで、定額料金はかからない。

2社は従来型の店舗販売に課題を抱える点で共通する。ギャップは2017年9月にグループ傘下を含め約200店舗の閉鎖を決めたばかりで、アンダーアーマーも売り上げが伸び悩む。このほかにも、グループ企業を含めると250店舗を数年以内に閉店すると発表した婦人服販売のアン・テーラーが、洋服のレンタルと販売を行うSBサービスを開始している。厳しい状況が続くアパレル業界にとって、SBサービスが無視できない存在となっている状況がうかがえる。

カスタマイズで顧客との関係強化を狙う

アパレル小売りがSBサービスの参入に乗り出す目的には、継続的な収益が見込める点や、利用者の嗜好(しこう)や消費動向に関する情報収集などが考えられる。それらに加えて、SBサービスの特徴の1つである「パーソナライゼーション(個々向けにカスタマイズする)」を提供することで、顧客と関係をより強固なものにする狙いがあるとみる専門家の意見もある。

コンサルティング会社のアクセンチュア・ストラテジーでマネジング・ディレクターを務めるアル・サンバー氏は、オンライン市場情報サイト「マーケット・ウォッチ」のインタビュー(10月20日)で、SBサービスのパーソナライゼーションが顧客との関係に与える影響について語っている。同氏は、洋服のサイズや好きなファッションスタイルなど、「パーソナライゼーションに必要な情報を顧客から提供してもらうことで、企業から一方的に情報を発信するこれまでの関係から、顧客が企業側に意見をフィードバックする、相互にコミュニケーションを取る関係が構築でき、顧客との結び付きがより強くなる」との見解を示している。そういった利点から、「アパレル企業にとって、何らかのかたちで顧客と個人レベルでの関係を持つことはもはや避けて通れない道だ」と述べ、パーソナライゼーションの重要性を強調している。

会員制ビジネスに関する著書で知られるロビー・ケルマン・バクスター氏も、パーソナライゼーションの影響力の大きさを実感する専門家の1人だ。マーケティングに関するコンサルティングを行うペニンシュラ・ストラテジーズの設立者でもある同氏は「個人のニーズを理解したスタイリストを見つけるのは難しい。しかし、そういったスタイリストによるパーソナライゼーションが確実に提供されるならば、利用者は永遠に(その会社の)固定客になる」としている。

(高橋由奈、永松康宏)

(米国)

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