伝統産品の升で欧州市場を開拓-パートナー探しに取り組む大橋量器-

(欧州)

欧州ロシアCIS課

2018年01月30日

木製升や升づくりの技術を生かした木製収納などを生産する大橋量器(岐阜県大垣市)は、2015年から欧州の展示会に毎年出展し、欧州での販売拡大とパートナー探しに取り組んでいる。代表取締役の大橋博行氏と、営業部チーフの清水和紀子氏に同社の海外展開について聞いた(2017年12月22日)。

製品の背景にある伝統が評価される欧州に展開

大垣市によると、現在、同市内で木製升を生産する企業は5社で、日本全体の生産量の8割を占める。大橋量器は日本で唯一海外展開に取り組んでいる企業だという。定番の升(酒器)だけでなく、升づくりの技術を生かしたデザイン性の高いインテリア雑貨や収納ボックスなどを製造・販売している。従業員30人のうち、海外営業を担当するのは2人だ。全売上高に占める海外の割合は、2017年は今までで最高の5%に達する見込みだ。海外の売上高の半分を米国が、残り半分を欧州とアジアが占める。欧州で特に販売量が多い国は、ドイツとフランスだ。

写真 升づくりの技術を生かした収納ボックス(大橋量器提供)

海外展開ではまず米国を目指し、ニューヨークで市場調査を行ったり、ジェトロのジャパンパビリオンに参加したりするかたちで展示会に出展した。米国で流通させてから国内に戻すことでブランディングした。しかし、「米国市場では当社製品の背景にある日本の文化・歴史などは評価されない。カッコ良くて安いものを求める傾向がある」ことから、文化的価値を評価してくれる欧州市場に目を向けるようになったと大橋氏は語る。

欧州最大級の2つの見本市、「メゾン・エ・オブジェ」(フランス、デザイン・インテリア関連)」と「アンビエンテ」(ドイツ、国際消費財)に2015年から毎年出展しており、2018年には4度目を迎える。展示会での知名度も徐々に上がってきた感覚があるという。「出展1年目は無視されるといわれていたが、そのとおりだった。1年目は信頼の置ける企業かどうか、みられている段階だ。年数を重ねるにつれ、訪れるバイヤーや受注件数は増えていった」と大橋氏は話す。

欧州のデザイナーとコラボレーションした製品開発も行っている。2016年と2017年は英国の世界的デザイナー、セバスチャン・コンラン氏とコラボレーションした製品を出展し、好評を得た。他方、別のデザイナーとコラボレーションした際には、デザイナーの求めるデザインのレベルが升の製造技術となじまず、うまくいかなかったこともあったという。

定番の方法がないパートナー探しに苦慮

欧州と米国の展示会を比べると、欧州では小売店のバイヤーが多く、大手企業のバイヤーが同社のブースを訪れたことはあまりない。一方、米国では家族経営の商店から大手小売店、ミュージアムショップまでさまざまなバイヤーが訪れるという。展示するパネルも、欧州では製品の背景などを中心とするのに対し、米国では使い方の説明を中心にする。欧州では製品の良さを評価するセレクトショップから受注することを目指すが、米国ではより大規模の受注を目標に据えている点も異なる。

欧州進出に当たって狙っていたとおり、「欧州では伝統や作り手のことも評価される」と大橋氏は語る。しかし、欧州にない「升」を取り扱っていることによる難しさもある。デザイン性の高さのほか、用途にバリエーションがあるため、現在、売り出していく製品は絞らず幅広く扱っているという。欧州では升の技術を活用したキッチンやデスク収納が高評価を受けており、升にバスソルトを入れた製品も好評だ。一方で、欧州に進出している日系企業や日本食レストラン向けには、普通の升の需要がある。欧州で知名度を上げている日本酒と併せた販売も視野に入れている。升を内装材として使用する事例もあり、内装専門の展示会への出展も検討したいという。また、2017年12月に最終合意した日EU経済連携協定(EPA)については、現在3~4%課されている関税が削減・撤廃されることに期待を寄せている。

 写真 升を内装に使用するレストラン(大橋量器提供)

欧州展開での課題は、パートナー企業を見つけられていないことだという。「パートナー探しには定番の方法がなく、展示会に出展する中で探しているのが現状だ。展示会後に売っていく手段がないため、パートナーを早急に見つけたい」と大橋氏は話した。

写真 代表取締役の大橋博行氏(右)と、営業部チーフの清水和紀子氏(左)(ジェトロ撮影)

(田中晋、深谷薫)

(欧州)

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