ブルガリア議長国が優先事項を説明-西バルカン諸国への関心が高まる-

(EU、ブルガリア)

ブリュッセル発

2018年01月24日

駐EUブルガリア代表部のディミテル・ツァンチェフ大使は1月8日、記者会見を行い、2018年上半期のEU理事会(閣僚理事会)における議長国であるブルガリアの優先事項を説明した。理事会の議長国は各加盟国が輪番制で半年ごとに担当しており、ブルガリアが担当するのは2007年のEU加盟以来初めてだ。

優先分野は「西バルカン諸国」など4つ

ブルガリア議長国は2017年末に、優先分野として「欧州の将来と若者」「西バルカン諸国」「安全保障と安定」「デジタル経済」の4分野を挙げていた。

○欧州の将来と若者:ブルガリア議長国は、EU経済の成長の加速とともに、雇用や投資、政府の財政にも改善がみられるが、高水準の公的債務残高や賃金の伸び悩みなど課題も残っていると指摘。加盟国の経済成長の持続と、ユーロ圏の改革に関するユーロ未導入国も巻き込んだ議論の重要性を強調した。また、域内の格差是正に向けた社会的結束の強化の継続を強調。世界経済の変化に対応し、さまざまな課題を克服するには財源が必要だとして、新旧のEU基金の間のバランスと、資金調達の手段と助成金の間のバランスに配慮しつつ、2021年以降を対象とする新たな多年度予算の枠組みづくりに積極的に取り組む意向だ。

○西バルカン諸国:ブルガリア議長国は、西バルカン諸国(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、マケドニア、モンテネグロ、セルビア)の平和と安全保障、繁栄を目標に、それぞれの国について、実現不可能な過度の期待を抱かせることのない、具体的な行動計画を策定することを目的に据えた。また、西バルカン諸国とEUの間の運輸や空路、エネルギーインフラの接続と、教育とデジタル分野における連携強化を重視。例えば、デジタル分野においては、移動体通信のローミングやブロードバンド・インターネットへの接続など、EUのデジタル政策への統合を前進させたい意向だ。

○安全保障と安定:ブルガリア議長国は、(難民の)保護政策の長期的かつ公正な解決と、効率的な送還・再入国政策、発生した難民だけでなくその原因に対する短期・長期の対策の必要性を指摘。EUの価値観の実現には市民の安全と安定が必要だとして、域外国境管理体制の強化や関連機関の間での情報交換、安全保障上の問題の予防体制の強化に注力する意向だ。また、効率的で迅速かつ公平な司法の重要性も強調した。

○デジタル経済:ブルガリア議長国は、同分野における競争力と、デジタル単一市場およびイノベーションの促進、教育と労働市場とのつながりの重要性を強調。検討が必要な分野として、電気通信や著作権、eプライバシー(電気通信におけるプライバシー)、サイバーセキュリティーを挙げ、若者の教育を「将来のためのスキル」の習得につなげることがEUの競争力と柔軟性、成功につながると指摘した。特に、若者を対象とする施策を重視し、幼児教育や域内の教育制度とカリキュラムの近代化、公的・非公的な学習を通じた社会的包摂(注)に言及した。

ロシアやトルコなどの影響力拡大に懸念も

ツァンチェフ大使の記者会見に関する報道では、西バルカン諸国に関心が集中したもようだ。EUは2000年代前半から、将来のEU加盟を見据えた旧ユーゴスラビア諸国およびアルバニアの欧州統合を進めてきた。しかし、2014年に就任した欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長が任期中の新規加盟国を受け入れない方針を打ち出す一方で、西バルカン諸国におけるロシアやトルコ、中国などによる影響力の拡大に対する懸念が高まっている。

報道によると、ツァンチェフ大使は西バルカン6カ国のEU加盟の見通しについて、「EU加盟国およびこれら6カ国の加盟に向けた取り組みの進捗による」と述べるにとどまり、具体的な日程には言及しなかった。なお、西バルカン諸国については、欧州委が2月に新戦略の発表を予定しており、5月17日にはブルガリアの首都ソフィアでEU加盟国と西バルカン6カ国の首脳会議が予定されている。

(注)一人ひとりの市民を社会の構成員として取り込み、支え合う社会をつくること。

(村岡有)

(EU、ブルガリア)

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