定期購入型、サプライズ効果で利用者数は570万人に-米国のサブスクリプションビジネス(1)-

(米国)

サンフランシスコ発

2018年01月05日

米国では近年、「サブスクリプションビジネス」と呼ばれる定期購入型のビジネスが人気を集めている。スタートアップ企業のほか、ギャップなど大手アパレル企業の参入もみられる。2017年に入ってからは、自動車メーカーが自社車両を定額料金で利用できるサービスを開始した。米国のサブスクリプションビジネスについて4回にわたって連載する1回目は、定期的に商品を配達する「サブスクリプション・ボックス」について。個人に似合う商品を選んで発送するサービスは、何が送られてくるか分からないプレゼントを受け取るようなサプライズ効果によって消費者を引きつけている。

事業数は6,000以上、専門検索サイトも

サブスクリプション・ボックス(SB)とは、利用者の好みやニーズに合わせた商品を定期的に届け、定額料金を徴収するビジネスモデルを指す。米国には、ファッションから化粧品、食材、書籍、手芸キット、玩具に至るまで、6,000以上のSBサービスが存在する(2017年12月上旬時点)。これら以外にも、ビーフジャーキー、日本の菓子、海外のインスタントラーメン、コケの鉢植えなど、特定のカテゴリーの商品に限定したサービスもある。そんなSBサービスの利用者数は、電子商取引(eコマース)の分析調査などを行うヒットワイズによると570万人に上るといわれる(「フォーブス」誌電子版8月10日)。

SBへの消費者の関心が高まるにつれて、ハロー・サブスクリプションやマイ・サブスクリプション・アディクションなどの専用の検索サイトも開設されているほか、通常の販売機能を備えるクレイトジョイも登場している。

年商9億8,000万ドルのスタイリストサービス

SBには、2つのタイプが存在する。1つは、同じ商品を定期的に発送するサービスだ。これはせっけんやかみそりの替え刃のような生活消耗品が常備された状態を保つために利用される。もう1つは、利用者の身体的な特徴や嗜好(しこう)に合わせて毎回違う商品を選び、それらを詰め合わせて発送するものだ。より多くの消費者の人気を集め、目覚ましい成長を遂げているのは後者のタイプに多い。最近特に好調さが際立つ、サンフランシスコ・ベイエリアに本社を置く2つの企業を紹介する。

スティッチ・フィックス(本社:サンフランシスコ)は、独自のアルゴリズムを活用し、利用者の体形や好みに合わせて洋服や靴をスタイリングするサービスを行っている。利用者が登録する際に体形や好みのファッションなどを入力すると、アルゴリズムがそれに合うファッションを絞り込む。その情報を使い、プロのスタイリストが商品を選定する。利用者は届いた商品の中から気に入らなかった物を返送し、手元に残した商品代とスタイリング料の20ドルを支払うシステムだ(2016年4月6日記事参照)。

2011年の設立当初は、女性の利用者のみを対象としていた同社だが、2016年に男性向けのサービスを開始したほか、高級ブランドやマタニティーウエア、大きなサイズの衣料品のみでのスタイリングも行っている。同社の利用者(アクティブユーザー)は2015年の86万7,000人から現在では219万人に増え、収益は2015年度の3億4,280万ドルから2017年度には9億7,710万ドルに達した。SBの成功例ともいえる同社は2017年10月、米国証券取引委員会に新規株式公開(IPO)を申請している(オンラインアパレルニュースメディア「ラックト」10月19日)。

化粧品試供品をカスタマイズ

サンフランシスコとシリコンバレーの中間地点に位置するサンマテオに本社を置くイプシーは、化粧品やスキンケア製品のサンプルの定期購入サービスを提供している。動画サイトでメーク姿を公開して人気者となったミッシェル・ファン氏が設立に参加した同社は、利用者の肌や瞳の色、肌の悩みなどに合わせた商品を毎月5品発送している。

使用したことのない商品や、自身では選ばない色味の商品を毎月提案してくれるとあって、若い女性を中心に関心を集めている。月額10ドルと良心的な価格設定にもかかわらず、毎回デザイン性の高い化粧ポーチが同封されるほか、サンプルには通常サイズのものが含まれていることも多々あり、充実した内容が値段以上だと満足する利用者も多い。同社は、2年前は100万人強だった利用者数を、2017年秋に300万人にまで増加させたと報じられるなど、好調さが見て取れる(スタートアップ企業やテクノロジーに関するニュースメディア「テッククランチ」9月21日)。

商品のサプライズ効果が市場を後押しか

こういったSBサービスが支持される理由について、スティッチ・フィックスのカトリーナ・レイク最高経営責任者(CEO)は、欲しい商品や必要としている商品を時間をかけずに効率よく入手できることだと指摘する。ショッピングモールで商品を長時間探し回ったり、オンラインショップでの商品検索に時間をかけたりしても、欲しいものが見つからないというのはよくあることだ。しかしSBを利用すれば、利用者が買い物をする必要がないため、購入を迷うこともない。そのため、同氏によると、商品の選択肢が多過ぎて購入の決断が難しくなる状況、いわゆる「選択のパラドックス」(注)に陥ることもないのだという(「ラックト」10月19日)。

SBが好調な要因として「フォーブス」誌(電子版8月10日)は、商品が「サプライズ」で届けられる点を挙げている。SBサービスは、利用者に商品の詳細を事前に明かすことはない。そのため、届いた箱を開けるまでは中身を知ることはできない。プレゼントと同様に、内容を知らないことが箱を開けた瞬間の興奮へとつながるのだという。これは小売店やオンラインショップでの買い物では体験できない。さらに同誌は、eコマースの普及が進み、インターネット上でいつでも簡単に商品が購入できてしまう現在、「消費者が求めるモノを販売するだけでは消費者は満足しない。小売りは(サプライズプレゼントのような)消費者が予期しない状況を提供する必要がある」とし、「SBはそれを提供するための理想的な手法だ」と分析している。

(注)選択のパラドックス(Choice of Paradox)とは、選択肢が多くなるとかえって決断を下すのが難しくなり、決断したとしてもそれに対して不満を感じやすくなり、ストレスになりやすいという概念。

(高橋由奈、永松康宏)

(米国)

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