メキシコ政府、米国のセーフガード発動に強い不満を表明-NAFTAに基づく対抗措置も検討-

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2018年01月31日

米国政府が発表した大型家庭用洗濯機と太陽光発電製品に関するセーフガード措置について、メキシコ政府は強い不満を表明している。特に、米国際貿易委員会(USITC)がトランプ政権に提出したレポートで、洗濯機に関するセーフガードについてはメキシコとカナダを対象から外すべきと提言されていたにもかかわらず、トランプ大統領の判断でメキシコにも適用されたことを問題視している。メキシコ政府はこの決定に対し、あらゆる法的措置を使って対抗する構えをみせている。

洗濯機はカナダが対象外もメキシコは対象に

米国の大統領布告(1月23日)によると、大型家庭用洗濯機および関連部品、太陽光発電製品などの輸入急増で国内産業に深刻な影響を与えているとして、同国はセーフガードを適用することを発表した(2017年1月29日記事1月30日記事参照)。米国際貿易委員会(USITC)がトランプ政権に提出したレポートでは、太陽光発電製品についてはカナダ、韓国を除く自由貿易協定(FTA)締結国をセーフガード対象外とするよう提言されていた。また、洗濯機についてUSITCは、「北米自由貿易協定(NAFTA)実施法311条(注1)に基づき、メキシコとカナダからの輸入量は、輸入全体量に占める相当量の割合を占めておらず、両国からの輸入が重大な損害を与えているとは断定できない」とし、メキシコとカナダをセーフガードの対象外とするよう提言していた。

しかしトランプ大統領は、洗濯機についてはカナダを対象外としたものの、メキシコを対象国とし、太陽光発電製品については全ての国を対象国としている。

セーフガード発動の影響は必至か

今回のセーフガード措置の対象品目(HSコード6桁)の輸出統計をみると、2016年において米国への輸出量が増加しているのは全自動洗濯機(HS8450.11)の前年比19.64%増が最高で、品目によっては前年より減少している。しかし、どの品目も直近の対米輸出比率は50%を超えており、セーフガードの影響を強く受けることが予想される。モンテレイ工科大学メキシコ州校のエリック・オルテガ経済学部長は「メキシコでは近年、洗濯機関連の直接投資が大きく伸びており、特にメキシコ北部に投資が行われている。洗濯機や冷蔵庫などをメキシコから米国に輸出するためのプラットフォームとしての投資だ」と指摘している(「エル・フィナンシエロ」紙1月23日)。

表 セーフガード措置対象品目の対米輸出額と対米輸出依存度(単位:1,000ドル、%、△はマイナス値)
品名 HSコード 2014年 2015年 2016年 前年比 2017年
(1~10月)
対米
依存度
全自動洗濯機(1回の洗濯容量が10キログラム以下のもの) 8450.11 27,846 26,167 31,304 19.6 26,521 80.3
洗濯機(1回の洗濯容量が10キログラム超のもの) 8450.20 259,590 247,631 240,877 △2.7 188,852 56.4
洗濯機部品 8450.90 7,189 8,228 8,515 3.5 8,620 83.4
光電性半導体デバイス(光電池を含む)および発行ダイオード 8541.40 571,565 895,215 823,903 △8.0 62,929 54.1
出力が750ワット以下の発電機 8501.31 609,424 794,480 694,099 △12.6 988,222 79.6
出力が75キロボルトアンペア以下の交流発電機 8501.61 32,580 23,885 23,168 △3.0 11,005 97.1
その他の鉛蓄電池 8507.20 252,933 225,813 228,048 1.0 184,307 95.6

(出所)国立統計地理情報院(INEGI)

メキシコはあらゆる法的措置を検討

メキシコ経済省は1月22日付のプレスリリースで、「米国への洗濯機の輸入に関してメキシコ製品にもセーフガードが適用されたことは非常に残念だ」とし、「米国はメキシコから洗濯機を2億7,800万ドル輸入しているが、メキシコからの輸入が米国に損害を与えているわけではない」と反論した。また、太陽光発電製品についても「メキシコからの輸入は化石エネルギーの消費を減少させ、再生可能エネルギーへの促進と発展を促している」とし、米国の環境保全に貢献していると主張している。

NAFTA第802.2条は、国内産業保護の目的で実施される一般セーフガードにおいて、特定の事由に相当する場合に限り、NAFTA加盟国を除外しない(対象に含めることができる)ことを認めている(注2)。しかし、経済省はメキシコに対してセーフガードを適用する明確な根拠がUSITCのレポートに示されていないことを考慮し、「米国に国際的なルールを順守させるため、NAFTA第802.6条に基づく相殺措置をはじめ、あらゆる法的措置を取るだろう」(経済省プレスリリース)としている。

一方の米国は、現在行われているNAFTA再交渉において、セーフガードの加盟国適用の原則除外措置の廃止を求めており(2017年7月21日記事参照)、今後のNAFTA再交渉の動向にも影響を与える可能性がある。

米国がNAFTAの規定を履行しないことによる対抗措置として、メキシコが対米関税引き上げ(NAFTA特恵の停止)を行った例に、両国間のトラック相互乗り入れ紛争がある。輸送の効率性やコスト削減から、トラックの相互乗り入れ自由化を求める声が両国で上がっていたことを受け、NAFTAでは2000年から加盟3カ国全域のトラック相互乗り入れを規定していた。しかし、メキシコ側のトラックの安全・環境基準が米国側の基準に満たないとして、米国政府が乗り入れ自由化を先延ばしにしていた。メキシコは2001年にNAFTAの紛争解決メカニズムに基づく仲裁パネルで乗り入れ自由化の執行を提訴して勝訴し、ようやく2007年9月に両国で各100社までの乗り入れを認める試験プロジェクトが開始された。しかし、米国が2009年に同プログラムを一方的な判断で停止したことを受け、メキシコは米国政府によるNAFTA紛争処理パネルの裁定不履行への対抗措置として、NAFTA第2019条に基づく「特恵の停止」に相当する報復関税を米国において対メキシコ輸出の割合が高い品目を狙って課し、最終的にトラック乗り入れの再開に導いた(2011年10月26日記事参照)。

(注1)NAFTA実施法311条は、カナダあるいはメキシコからの輸入が輸入全体の大部分を占め、産業に重大な損害あるいはその恐れをもたらしている場合を除いて、両国からの輸入にセーフガード措置を適用してはならないと規定している。

(注2)セーフガードの対象製品について、NAFTA加盟国からの輸入が直近3年間の輸入シェアで上位5位以内である場合などの場合には、加盟国に対してもセーフガード措置の発動が可能。

(岩田理)

(メキシコ、米国)

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