カナダの自動車原産地規則の提案を米国は拒否-NAFTA再交渉第6回会合が終了-

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2018年01月31日

北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の第6回会合が1月29日に終了した。米国政府は、自動車の原産地規則などに関してカナダが示した提案を拒否した。加盟国は2018年第1四半期までの合意を目指してきたが、交渉は3月以降も続く公算が高くなった。ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、トランプ大統領が大統領貿易促進権限(TPA)の延長を議会に求める考えであることを明らかにしている。

米通商代表は交渉のスピードに不満

1月23日からカナダのモントリオールで開かれていたNAFTA再交渉の第6回会合が29日に閉会した。ライトハイザーUSTR代表は「われわれはついに幾つかの核心的な問題について議論を開始した。その点では今回の会合は前進といえるが、交渉のスピードはとても遅い」と不満を示した。

今回の会合では、自動車の原産地規則などに関してカナダ側から提案が示された。ライトハイザーUSTR代表によると、カナダ政府は自動車の原産地比率の積算に研究開発費や販売促進費などを加味する案や、特定製品を域内生産品に限定する「現代的なトレーシングリスト」(注1)の導入を提案したもようだ。北米域内での事業拡大を促す制度に変えることで、対米投資の拡大を目指すトランプ政権の要求を満たそうとしたとみられる。

しかし、米国政府はカナダの提案を拒否した。ライトハイザーUSTR代表は「(カナダから)提示された案は、われわれの付加価値比率を現在より下げ、米国とカナダ、そして恐らくメキシコにおいても雇用減少につながる可能性がある」とし、「これはわれわれが実現したいと考えていることと反対だ」と批判した。米国政府は、乗用車と軽トラックに適用されている62.5%の原産地比率を85%まで引き上げ、そのうち最低50%は米国製品とすることを要求している。また、鉄鋼など全ての自動車部品をトレーシングリストに追加することを求めている。

ライトハイザーUSTR代表はまた、「カナダは、他国と新たに協定を結んだ場合、米国とメキシコをそれらの国より不利に扱う権利を留保した」と批判した。米国がサービス貿易の自由化を制限し、カナダが対抗措置として他国と締結している自由貿易協定(FTA)でサービス貿易の自由化を拡大すると、米国とメキシコは不利になるとの趣旨だ。カナダのフリーランド外相によると、米国政府はカナダのサービス輸出に対する規制強化を提案し、これに対してカナダ政府は、そうした措置が導入されればカナダも米国に対して同様の措置を取るとしている。フリーランド外相は、上記のライトハイザーUSTR代表の発言はこうしたカナダ政府の主張を批判したものとの見方を示した(「トロントスター」紙電子版1月29日)。

「現代化」分野の交渉は進展

腐敗防止に関する章については合意が成立した。これにより、既に合意している中小企業の活用促進章と競争政策章を含めた3つの章の交渉は妥結したことになる。

報道によると、そのほかにも通関、国有企業、衛生植物検疫措置(SPS)、貿易の技術的障害(TBT)、デジタル貿易などの分野は合意が近い状態にあるという。規定を現在の経済活動に合ったかたちにアップデートするこれら「NAFTAの現代化」に関する交渉分野については、加盟国間の意見の相違は大きくない。ただし、各国とも自国の交渉材料として残しておくため、それぞれの立場を維持しているとみられている(通商専門誌「インサイドUSトレード」1月27日)。

米大統領は議会にTPA延長求める意向

加盟国は2017年中の合意を断念して以降、2018年第1四半期まで交渉を続けると公表していた。今回の交渉後に公式に新たな期限を示すことはしていないが、交渉は3月を過ぎても引き続き行われる公算が高くなった。フリーランド外相は、今後の再交渉会合を2月下旬にメキシコ市で、4月にワシントンで行うと発言している(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版1月29日)。

ライトハイザーUSTR代表は、トランプ大統領がTPA(注2)の延長を議会に求める意向であると発言した(「ワシントン・ポスト」紙電子版1月29日)。オバマ前政権下で環太平洋パートナーシップ(TPP)協定などを視野に大統領に貿易交渉の権限を付与した「2015年TPA法」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、6月末に延長期限を迎える。大統領が署名した貿易協定はTPAに基づき議会の修正を受けない賛否のみの採決に付すことができ、トランプ政権はNAFTAの再交渉もこのTPAの手続きにのっとり行っている。しかし、TPAが失効すればこの審議プロセスを活用することはできない。TPAは大統領が更新を要請し、議会がそれを拒否する決議を可決しなければ2021年7月1日まで延長できる。

(注1)NAFTAの完成車(大型バス・トラックを除く)の域内比率の算定においては、「トレーシングルール」と呼ばれる特別なルールが用いられている。トレーシングルールの下では、定められた関税番号リスト(Annex403.1)に該当する品目(トレーシング対象品目)が域外から輸入されている場合にのみ、当該品目の輸入時点までさかのぼって「非原産材料価額」に含めることが求められる。Annex403.1に該当しない品目については、たとえ域外から輸入したとしても「非原産材料」扱いにはならない。トレーシング対象品目に鉄鋼製品が追加される場合の影響については、2017年7月18日記事参照

(注2)米国憲法では外国との通商関係は議会が管轄しているが、TPA法は、この通商交渉に関する権限を大統領に一時的に付与するもの。議会に対する報告・相談義務など、同法に定められた目的や手続きにのっとって政権がまとめた通商協定法案は、議会で修正を受けずに賛否のみの採決に付すことができる。

(鈴木敦)

(米国、カナダ、メキシコ)

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