トランプ大統領、ダボス会議で特別講演-米国は孤立主義でないとし、TPPについても言及-

(米国)

米州課

2018年01月29日

トランプ大統領は1月26日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会で特別講演を行った。政権発足(2017年1月20日)後1年間の成果として、米国経済が好調なこととともに大型減税や規制緩和を行ったことをアピールし、今が米国で事業や投資を行うのに最適な時期と述べて米国への投資を促した。また、米国第一主義は孤立主義ではないと説明し、通商政策では全ての国と相互に有益な2国間貿易協定を交渉する用意があるとし、環太平洋パートナーシップ(TPP)についても言及した。

米国の現職大統領の出席は18年ぶり

トランプ大統領は1月26日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で特別講演を行った。米国の現職大統領が年次総会に出席するのは、2000年のビル・クリントン大統領以来、18年ぶりとなった。トランプ大統領は年次総会参加の理由として、米国民の利益を代表するため、そしてより良い世界を築くための米国の友好や協力関係を確認するためと述べた。

トランプ大統領は政権発足後1年ついて、「米国は1年間で並外れた進歩を遂げた」と発言し、具体例として、大統領選挙後から米国株式市場の時価総額が7兆ドル以上増加し、240万人の新規雇用が創出され、黒人失業率が1972年以降で最低水準(6.8%)を記録したことなどを挙げた。さらに、米国経済は世界最大であるとともに、米国史上最大の減税や税制改革を成し遂げたとアピールし、聴衆に伝えたいメッセージとして「米国はビジネスのために開かれており、再び競争力を高めている」と述べた。法人税が35%から21%に引き下げられ、アップルは米国外で保有する2,450億ドルの利益を米国に還流させ、今後5年間で3,500億ドル以上の投資を米国内で行うと発表したことを紹介した。また、規制緩和については、トランプ大統領は各省庁に対し、新たに1つの規制を導入する際には2つの既存の規制を撤廃するよう大統領令で指示していたが、実際には1つの規制の導入につき22の規制を撤廃したとし、「今が米国で事業や投資を行うのに最適な時期」とし、米国への投資を促した。

「米国第一主義は孤立主義ではない」と説明

トランプ大統領は、常に米国を第一に考えているが、それは他の国々の指導者が自国を第一に考えるのと同じで、「米国第一主義は孤立主義ではない」と説明した。米国の繁栄は世界中で無数の雇用創出をもたらし、米国の卓越性、創造性、革新性の推進は、世界中の人々がより豊かで健康的な生活を送るための重要な発見につながり、米国の成長は世界に波及すると述べた。

トランプ大統領は通商政策について、米国は自由貿易を支持するが「公正かつ相互主義的でなければならない」とし、大規模な知的財産権の侵害や産業補助金、国家主導の経済計画などの不公正な経済慣行を見逃すことはできないとして、米国、企業、労働者の利益を守るために貿易法を執行し、通商システムの機能を回復させると発言した。トランプ大統領は1月22日、家庭用大型洗濯機や太陽電池、太陽電池モジュールに対する通商法201条に基づく緊急輸入制限(セーフガード)を発動しており(2018年1月29日記事参照)、中国を念頭に置いた発言とみられている。

通商政策ではTPP参加国との交渉について言及

トランプ大統領は通商協定について、米国は全ての国と相互に有益な2国間貿易協定を交渉する用意があるとし、米国を除く環太平洋パートナーシップ(TPP)参加11カ国「TPP11」の国々についても同様だと述べた。米国はTPP11のうち、オーストラリア、カナダ、シンガポール、チリ、ペルー、メキシコの6カ国とは既に自由貿易協定(FTA)を締結しており、残りの国々とも個別、または米国の利益にかなうのであれば、グループとの交渉も検討すると発言して注目を集めた。

トランプ大統領はエネルギー政策について、米国民や企業に手頃な電力を供給するとともに、友好国のエネルギーの安全保障を促進するために、エネルギー規制に関する自主的規制を除去したと述べた。安全保障政策については、「ならず者」政権やテロリズム、修正主義国家から世界をより安全にするために、友好国や同盟国に対し、防衛力を強化するとともに、財政的義務を果たすよう求めた。さらに、朝鮮半島の非核化に向けて「最大限の圧力」をかけるために、トランプ大統領は国連安全保障理事会などを率いていることを誇りに思うと述べ、同盟国などに対し、イランのテロリスト支援や核兵器保有阻止に向けて対峙(たいじ)するよう求めた。

また、米国の安全・経済保障のために移民制度を見直すとして、家族呼び寄せ制度による連鎖移民を制限し、経済的に自立し、米国経済に貢献する者を優先する「メリットベース制」に置き換える必要があると主張した。

小麦生産者協会などはTPP11に危機感を示す

TPP11の首席交渉官会合でのTPP交渉妥結を受けて、米国小麦連盟(USW)と全米小麦生産者協会(NAWG)は1月23日に連名で声明を発表し、米国を除くTPPにより米国産小麦の海外需要は深刻なリスクにさらされるとの危機感を示した。USWによると、日本は毎年約310万トンの小麦を米国から輸入しているが、TPPが完全に実施されると、カナダ産とオーストラリア産の小麦の関税は1トン当たり65ドル下落するとしている。USWのベン・コナー政策ディレクターは「TPPだけで米国の小麦生産者は年間2億ドル以上の不利益を被る」と指摘し、「大統領が(TPP離脱を)発表した際に農業界が警告したように、TPP離脱は近視眼的で不必要であり、米国の小麦農家が打撃を受けることになる」と、トランプ政権の対応を批判した。また、カルロス・クルーベル連邦下院議員(共和党、フロリダ州)は1月24日に声明を発表し、「わが国がTPPに参加しないことは、世界の経済大国としての地位を低下させる重大な過ちだ。このような重要な自由貿易協定に参加しないことで、米国の利益が進展することを確実にする大きな機会を大統領は逃した」と批判し、トランプ政権に決断の再考を促した。

「ウォールストリート・ジャーナル」紙(1月26日)は、トランプ大統領の演説はTPPに対する新たな立場を示したとし、デービッド・マルパス財務次官(国際問題担当)の「2017年に幾つか状況の変化があり、米国の労働者にとって良いかどうか判断する機会を作った」とのコメントを紹介した。同紙は、トランプ大統領のTPPへの論調が和らいだ要因の1つとして、中国政府への対応がより重視されるようになった「米国第一」の通商政策の進化を挙げている。また、米国商工会議所副会頭兼国際担当責任者のマイロン・ブリリアント氏がトランプ大統領の発言について、「これは革命ではないが、トランプ大統領の通商、とりわけTPPへのメッセ―ジについての進化で、注目すべき点だ」と述べたことを紹介した。

(中溝丘)

(米国)

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