FTAと投資協定締結、2019年1月にも発効-香港は「一帯一路」戦略への積極参画を狙う-

(香港、ASEAN)

香港発

2017年12月05日

香港特別行政区政府(以下、香港政府)は11月12日、フィリピン・パサイ市でASEANとの自由貿易協定(FTA)と投資協定に調印した。これまで香港は中国へのゲートウエーとして活用されてきたが、早ければ2019年1月と見込まれるこれらの協定の発効により、企業による香港活用の幅がさらに広がるかが今後の注目点だ。

ASEANは物品貿易2位、サービス4位の貿易相手

香港とASEANが調印したのはFTAと投資協定で、物品貿易に加え、サービス貿易、投資・経済・技術協力、紛争解決メカニズムなどの内容が含まれる。主な内容は表1のとおり。

表1 香港ASEAN・FTAと投資協定の主な合意事項
分野 内容
物品貿易
  1. ASEAN加盟国は香港原産品に対する関税を漸進的に削減・撤廃する。ASEANの個別加盟国の許諾状況は以下のとおり。
    • シンガポール:協定発効時に全品目の関税を撤廃。
    • ブルネイ、マレーシア、フィリピン、タイ:10年以内に約85%の品目の関税を撤廃。14年以内にその他約10%の品目の関税を撤廃。
    • インドネシア、ベトナム:10年以内に約75%の品目の関税を撤廃。14年以内にその他約10%の品目の関税を撤廃。
    • カンボジア、ラオス、ミャンマー:15年以内に約65%の品目の関税を撤廃。20年以内にその他約20%の品目の関税を撤廃。
  2. 協定が定める原産地規則を満たす香港の輸出業者は、ASEANへの輸出時に当該FTAに基づく優遇関税待遇を享受。
  3. 香港は、協定発効時に、全ASEAN加盟国原産品に対する関税を全て撤廃。
  4. 香港とASEANは、衛生・植物衛生措置、貿易の技術的障壁や税関などの分野での協力を強化。
サービス貿易
  1. 特定の優遇策を除き、香港・ASEAN双方のサービス提供者は、相手方市場において以下の優遇措置を付与される。
    • 内国民待遇の付与。
    • 香港、ASEAN双方は、サービス貿易に関する制限措置を撤廃・緩和(経営モデル、取引額、雇用人員などの面の制限を撤廃・緩和)。
    • ASEAN諸国は、香港のサービス提供者のビジネス出張・滞在に対し、滞在期間などの面で便宜を付与。
    • ASEAN諸国の中では、個別に香港のサービス提供者に対する市場を開放〔例:マレーシア:都市計画・景観建築サービス、海運(貨物)代理サービスを開放。タイ:仲裁サービス・電子メールサービスを開放、インドネシア:レストランサービス、エネルギー関連分析サービスを開放、シンガポール:技術テスト・分析サービス、成人教育サービスを開放〕。
  2. 香港も、サービス分野における広範な領域でASEAN諸国に対しコミット。
投資協定 サービスセクター以外の産業分野の投資に対し、差別的な待遇を付与しない。主に以下の項目について合意。
  • 投資家に対する公正で公平な待遇の供与。
  • 投資主体の保護・保障。
  • 投資後の収用などに対する補償については、合意した基準に基づき補償を行う。補償に際しての通貨は、IMFが定義する自由取引通貨を用いることとする。
  • 戦争、武力衝突、内乱や関連する事態の発生により被った投資損失について非差別的な保障待遇を供与。
  • 投資・収益の自由な移転の容認。
その他 税関協力、プロフェッショナルサービス、中小企業協力、貿易の円滑化・物流、電子商取引協力の5つを重点分野として、協力に向けた活動を推進。

(出所)香港政府発表資料

FTAおよび投資協定の発効は、最も早くて2019年1月1日となる。域内手続きが終了している締結国・地域間で有効となるが、香港とASEAN加盟国のうち最低4カ国が域内手続きを完了していることが発効の条件となる。

香港にとってASEANは、貿易上重要なパートナーだ。物品貿易では中国に次いで2位(2016年時点)、サービス貿易では4位(2015年時点)となっている。

2016年の香港の対ASEAN貿易総額は8,333億1,400万香港ドル(約11兆6,663億9,600万円、1香港ドル=約14円)で、うち輸入は5,694億4,300万香港ドルだった(表2参照)。輸出は、香港原産品が79億4,700万香港ドル、他地域から香港を経由する再輸出は2,559億2,400万香港ドルとなった。香港の対ASEAN輸出額のうち、FTAによる関税撤廃・引き下げの対象となる香港原産品の割合は3.0%にとどまり、香港原産品に対する関税撤廃・引き下げ効果は限定的と見込まれる。

表2 香港の対ASEAN貿易額(2016年、加盟国別)(単位:100万香港ドル、%)
順位
(注)
貿易総額 輸入額 香港原産品
輸出額
再輸出額
1 シンガポール 322,979 261,694 2,647 58,638
2 タイ 130,535 82,586 1,041 46,908
3 ベトナム 126,437 54,264 1,953 70,221
4 マレーシア 117,857 90,584 1,235 26,038
5 フィリピン 85,169 59,768 479 24,922
6 インドネシア 38,718 17,796 483 20,440
7 カンボジア 9,106 2,083 59 6,964
8 ミャンマー 2,131 599 15 1,517
9 ラオス 192 41 11 140
10 ブルネイ 190 29 24 137
ASEAN合計 833,314 569,443 7,947 255,924
世界貿易に占めるASEANの割合 11.0 14.2 18.5 7.2
対世界合計 7,596,631 4,008,384 42,875 3,545,372

(注)貿易総額順。
(出所)香港工業貿易署ウェブサイト

「一帯一路」通じた商機にも意欲

香港政府内で貿易・投資分野を所管する商務・経済発展局の邱騰華局長は「香港が国際経済・貿易分野でより広大な市場空間を切り開くことに資するほか、香港の最も開放的でビジネスフレンドリーな国際都市としての地位をさらに強固にできる」と協定締結の意味を強調した上で、「ASEAN加盟国は『一帯一路』沿線に位置する。協定の締結は、香港のFTAと投資協定のネットワークが東南アジアの全ての主要経済国をカバーしたことを意味する。ASEANとの関係緊密化は、香港の貿易・投資の『ハブ』としての役割を強化するとともに、『一帯一路』を通じてもたらされるビジネスチャンスの獲得にも資する」と、協定が「一帯一路」戦略への参画推進にもつながるとの考えを示した。

邱局長は加えて、「協定は、香港が競争力を有するサービス業の市場を切り開く効果がある。メリットを享受できる分野としては、プロフェッショナルサービス、ビジネスサービス、通信サービス、建設および関連のエンジニアリングサービス、教育サービス、金融サービス、旅行関連サービス、運輸サービス、仲裁サービスなどがある」とも述べた。

(中井邦尚)

(香港、ASEAN)

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