税制改革法案が上下両院を通過-大統領の署名で成立へ-

(米国)

ニューヨーク発

2017年12月22日

米国議会は、税制改革の統一法案を上下両院で可決した。議会を通過したことで、税制改革法案はトランプ大統領が署名すれば成立する状況となった。両院案を擦り合わせた最終版の統一法案には、源泉地課税方式への移行や法人税率の21%への引き下げなどが盛り込まれており、31年ぶりの大型税制改革となる。

源泉地課税方式への移行盛り込む

下院は12月20日、税制改革法案(Tax Cuts and Jobs Acts)の統一法案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を再可決(賛成:224、反対:201)した。下院は19日にも一度同案を可決しているが、上院が採用した投票ルールの条件を一部の条項が満たしていなかったことから、法案からこれら条項を取り除き再び投票を行った。上院も12月20日に同法案を可決(賛成:51、反対:48)しており、今回の下院での再可決をもって、税制改革法案の議会審議が終了した(注1)。大統領が署名すれば、税制改革法案が発効する。

最終版の統一法案には、企業税制に関して、(1)国際課税の源泉地課税方式への移行、(2)法人税率の一律21%への引き下げ(2018年1月1日から)、(3)パススルー事業体に対する税控除適用(31万5,000ドルまでの事業所得に対して20%)、(4)設備投資費用の即時償却(5年間)、(5)法人代替ミニマム税(注2)の撤廃などが盛り込まれている(添付資料の表1参照)。

国際課税については「全世界所得課税方式」から「源泉地課税方式」に移行する。全世界所得課税方式は、米国企業の全世界所得を課税対象とする制度で、外国税額控除制度により海外で支払った税額分は控除できるが、それ以外は利益を海外から米国に還流させた時点で課税される。共和党は、国内所得のみを課税対象とする「源泉地課税方式」へ移行することで、米国企業が海外に保有する資金を米国内に還流させ、国内の事業活動を促進することを目指してきた。

源泉地課税方式への移行措置として導入される企業の海外留保利益に対する一度限りの課税に関しては、税率が両院案から引き上げられ、現金および現金同等物の場合は15.5%、それ以外は8%と規定された。

法人税率は2018年から一律21%に引き下げへ

法人税率については、最大35%の現行の累進税率を変更し、一律21%とする。各院案の段階ではそれぞれ一律20%になっていたが、最終的に税率を引き上げた。一方、税率の変更時期は2018年1月1日とし、財政赤字の拡大を抑制するために2019年以降としていた上院案を見送った。条件を満たす特定企業を対象とした国内生産活動控除措置などは廃止する。

パススルー事業体(株式会社以外の事業体)への課税については、累進課税の個人所得税を適用する現行制度を維持しつつ、31万5,000ドル(合算所得ベース)までの事業所得に対して20%まで税控除する措置を導入する。ただし、この措置は2025年末までの時限的措置となっている。

そのほか、統一法案には5年間にわたり設備投資の即時償却を認める措置(2023年からは償却率逓減の上で2027年まで継続)の導入や法人代替ミニマム税の廃止、支払利子の損金算入制限などが盛り込まれている。

下院案の20%の物品税は見送り

海外関連会社との取引や事業収入が一定規模以上ある多国籍企業グループを対象とした課税制度に関しては、上院の税源浸食税(BEAT:Base Erosion and Anti-Abuse Tax)が採用された。税源浸食税は、通常課税所得に対して国外関連企業への支払いが多い企業に追加課税(2018年のみ5%、その後10%、2026年以降は12.5%)する制度となっている。ただし、過去3年間のグループとしての売上高の平均総収入が5億ドルを超え、海外へのロイヤルティーや支払利子が特に高い企業を対象にしており、仕入れも含めた国外関連企業との取引に20%の物品税を課すとした下院案と比較して、影響は小さいとの指摘がある。

このほか、企業が無形資産を利用して課税ベースを国外に移動することを抑制するため、特定外国子会社(CFC)のグローバル無形資産低税率所得(GILTI:Global Intangible Low-Taxed Income)に対して、親会社を含む米国株主側で課税する条項や、特許などの無形資産を所有する米国企業が海外で稼いだ国外無形資産所得(FDII: Foreign-Derived Intangible Income)に対して軽減税率を適用する条項も盛り込まれている。

米国商工会議所のトーマス・ドナヒュー会頭は「産業界は長い間、全ての企業に対する法人税引き下げや、完全かつ即時の投資費用の償却、源泉地課税方式への移行を訴えてきた」として、税制改革法案の議会通過を歓迎する声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出している。

個人税制部分は上院案に沿い時限的措置

個人税制部分は、上院案に沿って2025年末までの時限的措置となっている。議会がこれら措置を継続しなければ、2026年以降は現行の規定が復活する。

個人所得税は、現行(10%、15%、25%、28%、33%、35%、39.6%)と同様に7段階となるが、税率(10%、12%、22%、24%、32%、35%、37%)が変わる。

控除措置に関しては、基礎控除を現行の約2倍(独身者:1万2,000ドル、夫婦合算:2万4,000ドル)に拡大する一方で、項目別控除の多くが撤廃される。高所得者層が多く利用する州・地方税の控除措置については、1万ドルまでであれば所得税・固定資産税・売上税の控除が認められる。そのほか、下院案で撤廃が規定されていた医療費控除の拡大や、寄付控除の維持が盛り込まれた。

また、オバマケア関連法(Affordable Care Act)に規定されている保険未加入者に対する罰金を、ゼロにする規定が盛り込まれた。トランプ大統領は「オバマケアを本質的に撤廃した。より良い制度を今後検討していく」と述べている(ブルームバーグ12月20日)。

世論調査では低い法案への支持率

議会の投票結果の内訳をみると、上下両院ともに賛成票を投じた民主党議員はいなかった。政治専門紙「ポリティコ」が12月14~18日に行った世論調査では、法案に賛成すると回答した人は全体の42%(反対:39%、判断保留:18%)にとどまった(「ポリティコ」紙12月19日)。CNNが12月14~17日に行った世論調査でも、法案に賛成すると回答した人は全体の33%にとどまっている(反対:55%、判断保留:11%)。

ポール・ライアン下院議長(共和党、ウィスコンシン州)は、この税制改革法案により増税されると考えている人が多くいるようだがそれは間違っているとし、税制改革による減税が実現して人々が収入増を実感すれば、法案に対する認識が変わると確信している、と述べている(「CBSニュース」12月20日)。

(注1)税制改革法案は各院でそれぞれの案が可決され、両院協議会で両院案を擦り合わせた統一法案が作成された。今回の両院での投票は、この統一法案に対する賛否を問うもの。

(注2)高所得企業にも一定の税負担を求めるという趣旨の下、1969年に創設された制度。納税者は、各種控除を考慮して算出した通常の所得税額と、各種控除を排除して一定の計算方式で算出した代替ミニマム税額とを比較し、高額な方を支払う。

(鈴木敦)

(米国)

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