欧州医薬・バイオ産業団体、「十分な移行期間」を要請-ブレグジットに伴う医薬品アクセスの途絶を懸念-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年12月01日

欧州の医薬品・バイオ産業9団体は11月28日、EUと英国政府に対して、英国のEU離脱(ブレグジット)以降も安全で効果のある医薬品に利用者がアクセスできる環境の保障を求める声明を発表した。それによると、医薬品の許認可など欧州の薬事行政はEUを主軸とした効率的で高度に統合されたシステムであるため、ブレグジットに伴う混乱が懸念されており、これを抑えるには、最終的には「通商協定などを通じたEU・英国間の協力関係継続」が必要で、それが保証されるまでの「十分な移行期間」も認めるべきとしている。

安全で効果ある医薬品の安定的供給・利用求める

欧州製薬団体連合会(EFPIA)、欧州バイオ産業協会(EuropaBio)、欧州セルフメディケーション協会(AESGP、市販・一般医薬品事業者団体)、欧州ジェネリック医薬品協会(Medicines for Europe)、欧州医薬品事業者連合会(EUCOPE、中小医薬品事業者を中心とする産業団体)など欧州の医薬品・バイオ産業関連の9団体は11月28日、EUと英国政府にブレグジット以降も医薬品利用者(患者)の医薬品へのアクセスを保障することを求める声明を連名で発表した。具体的にはブレグジット以降も患者が安全で効果のある医薬品を安定的に利用できるようにするため、十分な移行期間を認め、通商協定などを通じて、医薬品の許認可などについてのEU・英国間の協力関係を構築することを求めており、上記の欧州レベル5団体に加えて、英国の医薬品・バイオ関連の産業団体も声明に名を連ねている。

EU主軸の効率的な薬事行政の混乱を警戒

声明によると、9団体は「ブレグジットに伴う変化に適応するために必要な時間を十分考慮した移行期間について(EU・英国が)合意することを求める。この移行期間は医薬品・バイオ関連企業だけでなく、医療機関や薬事行政の所管官庁・自治体などの事情も含めて検討すべき」としている。また、「この移行期間中はEU・英国間で、医薬品(バイオ製品含む)の許認可、供給についての協力関係を持続し、その後、通商協定などEU・英国間の将来関係を定めた合意成立まで、医薬品などの供給が途絶することがないよう配慮すべき」としている。

9団体はEU・英国間の協力関係持続を強く要請する背景として、欧州の医薬品・バイオ産業がEU法の下で高度に統合されてきた事情があると指摘している。EU域内の薬事行政(規制)はEU法で大枠が規定されているほか、各国で規制レベルに差異が生じた場合は規制協力のメカニズムが働き、それらが医薬品流通を阻害しないように欧州医薬品庁(EMA)をはじめとするEU諸機関と各国の所管省庁の間で調整・協力するため、円滑な薬事行政が実現されてきたとしている。

声明によると、ブレグジットは医薬品ビジネスを支えるさまざまな分野、具体的には医薬品の許認可などの規制手続き、品質検査基準、知的財産権保護、流通システムなどを混乱させる懸念があるという。EUにおける医薬品の審査システムは、EMAが許認可権限を持つ「中央審査方式」と、各加盟国の当局から取得した承認をその他の加盟国が承認する「相互承認方式」などによって運用されている。ブレグジットに伴い、英国はこうした効率的な審査システムから離脱することになり、医薬品企業は英国だけのために膨大な新薬の審査申請を新たに担わなければならないリスクがある。こうした対応には膨大な時間が必要で、9団体は「産業界の処理能力を超えており、2019年3月までに態勢を整えることは不可能だ」としている。

こうした懸念を抑えるためには、産業界ができるだけ早期に必要な態勢整備を行い、新しい枠組みに円滑に移行できるようにする明確な方針・ルールが求められるとコメントしている。

ブレグジット以降もEU産業界の権益は守る

なお、9団体の中でも、バイエル(ドイツ)、アストラゼネカ(英国)、サノフィ(フランス)、F.ホフマン・ラ・ロシュ(スイス)など主要企業40社を正会員とするEFPIA(日本の武田薬品工業やアステラス製薬も正会員として所属)は10月27日にもブレグジットに関する声明を発表し、EUと英国政府が交渉を通じて解決すべき優先課題として、以下の5点を挙げている。

(1)規制関係:「医薬品の承認、検査、調査に関わるEUと英国の協力・相互承認などの確保(維持・継続)」

(2)雇用:「医薬品産業に従事するEU・英国市民に対する(継続)雇用保障」「医薬品産業にとって優秀な人材を世界から雇用でき、EU・英国の熟練労働者が欧州を自由に往来できる雇用環境の整備について合意すること」

(3)研究開発:「科学技術分野のEU・英国の研究協力プロジェクトがブレグジット以降も継続できるようにすることで、生命科学領域でのEUのポジション強化、EUへの投資誘致を目指すこと」

(4)知的財産権:「ブレグジット以降も、英国でEUの知的財産に関わる標準が適用されること」「EUにおける知的財産権に関わる現在の利益水準が維持されること」

(5)貿易:「EU・英国間の包括的通商協定を締結し、双方における医薬品関連法令の整合性を最大限確保すること」「当該通商協定を通じて、現行の品質管理システムや医薬品のサプライチェーンが途絶しないように配慮すること」

(前田篤穂)

(EU、英国)

ビジネス短信 91083222f0f4818d