NAFTA再交渉、米側に代替案を提示-第5回会合は目立った進展なく終了-

(メキシコ、米国、カナダ)

メキシコ発

2017年12月05日

北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の第5回会合が11月17~21日にメキシコ市で行われた。正式会合に先出ち、専門家レベルの準備会合が15~16日に行われていた。今回は閣僚が出席しなかったこともあり、目立った進展はなく終了した。会合終了後にはグアハルド経済相が訪米し、これまでの米国側の提案に対する代替案を提示した。

米通商代表はカナダとメキシコの姿勢に不満

メキシコ経済省の発表によると、30ものワーキンググループに分かれて行われた再交渉の第5回会合が11月21日に終了、「さまざまな章において進展があった」としている。一方、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は「これまでのところ、公平な協定にするためのメキシコとカナダの真剣な姿勢がみられない」と述べ、「このままでは合意はできないだろう」と両国の姿勢を批判している(「エル・フィナンシエロ」紙9月22日)。この発言に対し、グアハルド経済相は「メキシコの再交渉に対する姿勢は、域内貿易を拡大することを目指すものであり、貿易を制限することを目指すものではない。従って、この姿勢の違いをもって『メキシコに交渉する意思がない』という批判をすることはできない」と反論した(「レフォルマ」紙9月22日)。

「サンセット条項」など3項目に対し代替案

11月30日付のメキシコ主要紙「エル・エコノミスタ」によると、グアハルド経済相は第5回会合終了後に訪米し、ウィルバー・ロス商務長官らと会談した。第4回会合後に米国側から提案のあった、(1)5年ごとに協定の継続を判断する「サンセット条項」の導入、(2)投資家対国家の紛争解決手段手続き(ISDS)に係る選択制の導入、(3)政府調達市場の開放基準の変更(2017年11月8日記事参照)などに対する代替案や見解を提示した。

(1)の「サンセット条項」については、NAFTAの成果を厳格に見直していくことは必要だとし、5年ごとの見直しには賛成するが、長期的な投資を不可能にすることから、自動失効を可能にする条項には反対の立場を表明した。(2)のISDSについては、EUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)で採用されている投資裁判所制度の導入を提案している。3カ国から独立した裁判所を設けることで、裁判に透明性を持たせる狙いだ。また、ISDSでは判決に不服であっても控訴はできなかったが、投資裁判所制度では控訴可能となる。(3)の政府調達市場の開放基準の変更については、政府調達市場の加盟国に対する開放の水準は、それにより当該政府調達が(応札価格面および応札される財・サービスなどの品質面で)効果的になるかどうかで決められるべきと提案している。

なお、域内原産割合(RVC)85%以上、うち米国産比率50%以上を満たすよう米国が求めている自動車の原産地規則の厳格化については、当該要求の詳細や85%および50%という数字の根拠について米国側からの説明があり次第、代替案を検討するとしている。

再交渉は米国の政治動向次第との見方も

NAFTA再交渉の第5回会合に先立ち、11月15日にメキシコ自動車部品工業会(INA)が主催したセミナーで、元メキシコ経済省次官のルイス・デ・ラ・カジェ氏がNAFTA再交渉の動向に関するプレゼンテーションを行った。デ・ラ・カジェ氏は、米国の優先順位が最も高いのは税制改革だとし、その動向によってNAFTA再交渉に与える影響も異なると述べ、税制改革の議会審議が長引いた場合は、税制改革成立のために議会との関係を良好に保つ必要があり、NATFA再交渉に反対する議員との関係も大事になるため、メキシコにとっては最も好ましいシナリオだとした。また、税制改革が成立すればトランプ政権にとって大きな成果となり、NAFTA再交渉の重要性は小さくなるため、米国の要求も弱まることが予想されるが、税制改革が頓挫した場合にはNAFTA再交渉での要求はさらに強まるだろうと指摘した。

続いて登壇した経済省のベハール北米局長は「米国の交渉団は、交渉妥結のため非常に真剣に働いているが、実際に交渉に参加しているスタッフのレベルでは多くの場面で米国政府の幹部と意見が異なっていることが見て取れた(交渉スタッフのレベルではより現実的な姿勢を示している)。このことからも、NAFTA再交渉が政治問題化していることがうかがえる」と語った。

NAFTA再交渉は12月中旬に非公式協議は行われるものの、次回の会合は2018年1月23日から28日までカナダ・モントリオールで行われる見込み。

(岩田理)

(メキシコ、米国、カナダ)

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