税務調査の観点からも労働法令順守に留意を-「ベトナム労務・最新情報解説」セミナーを開催(2)-

(ベトナム)

ハノイ発

2017年12月19日

「ベトナム労務・最新情報解説」セミナーの後編は、労務コンプライアンスと税金に関する解説を報告する。労務に関する違反が発生した場合は、税務調査にも波及する恐れがあるため、各企業では労務コンプライアンスの順守に十分留意する必要がある。

労働法令違反の支払いは損金算入が否認されることも

セミナー後編では、AICベトナムの今村茂ゼネラルディレクターが、労務コンプライアンスと税金について解説した。

財政省が出した通達(78/2014/TT-BTC、96/2015/TT-BTC)では、労働契約書や労働協約、財務規程などにより特定ができない給与、賞与、生命保険積立金は法人税上の損金と見なさないと規定されている。この論理構成を基に、労働法令に違反する支払いに関して、損金算入を税務当局が否認しているケースが見受けられる。

実際の事例として、労働契約書や就業規則などで毎年1カ月分の給与を賞与として支給している企業において、業績好調を理由にある年の賞与支給月数を1.2カ月分としたところ、後日、税務調査において会社規程に根拠のある1カ月分との差額の0.2カ月分について損金算入が否認されたケースがあった。この場合における1つの対応方法として、企業側がその年の賞与を1.2カ月分とする旨の決定書を作成し、従業員に対して通知することをもって支給根拠とする方法がある。ただし、特定部署や特定職位のみを対象とする場合は、その根拠も必要となるため注意が必要だ。

また同様に、労働契約書や就業規則などで毎年給与1カ月分を賞与として支給している企業において、就業規則が当局に登録されていなかったことを理由に、当該規則が無効と判断され、過去に支給した賞与の全額が損金として否認された事例もある。特に2012年の労働法改正以前は、現在ほど就業規則の登録に関する管理が厳しくなかったことから、同年以前に進出した企業で登録漏れが発生している可能性があるほか、登録内容が旧法に基づいた場合には修正が必要となることがある。社会保険についても、当局への賃金テーブルの登録がされないまま支払われていた分がないかなど、各社で再確認を行う必要がある。

個人所得税でも法定時間上限を超える残業代は課税対象に

別の事例では、法定残業時間の上限(原則、年間200時間)を超える残業代が損金算入を否認される例はしばしば指摘されてきたが、法人税ではなく個人所得税上の指摘を受けたケースもある。個人所得税法では、残業代は非課税所得として扱われるため、ある企業では残業代全額を非課税所得として取り扱ってきた。

しかし、税務調査において、労働法令に反して行われた法定時間上限を超える残業代については課税所得だと指摘された事例があり、留意する必要がある。なお、残業の取り扱いについては、労務コンプライアンス違反自体に対する罰則もあり、当該罰則によって発生する罰金は損金には当たらない点についてもあらためて説明された。

写真 セミナー会場の様子(ジェトロ撮影)

(竹内直生)

(ベトナム)

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