認定事業者制度施行から3年、企業への再審査始まる-広州で通関規則に関するセミナー-

(中国)

広州発

2017年12月08日

ジェトロは広州において、中国の通関関連規則に関するセミナーを10月25日に開催した。中国進出支援を手掛ける広東真広企業管理顧問の劉航・副総経理が講演し、2014年12月に導入された認定事業者(AEO)制度の概要や留意点、税関当局による輸入貨物に対する課税強化の動向などを紹介した。

認証企業を貨物検査や通関などで優遇

講演の内容は以下のとおり。

認定事業者(AEO)制度は、国際貿易の安全確保と円滑化を目的とした、貨物の安全管理や法令順守体制が整備された事業者(注1)に対して、税関が利便を与える制度のことだ。世界税関機構(WCO)では、2001年9月の米国での同時多発テロを契機に、2006年にAEOガイドラインを採択した。認証の取得要件、認定手続き、認証を取得した事業者に対する優遇措置、国際間での相互認証などに関する細則が規定されている。

中国では2014年12月1日に税関企業信用管理暫行弁法が施行され、AEO制度が導入された。これ以降、同制度の対象となる事業者は従来のAA~D類の5段階から、高級認証企業、一般認証企業、一般信用企業、信用喪失企業の4段階に分類されるようになった(表1参照)。2017年6月末時点で認証企業(高級および一般認証企業)は全体の5%程度だ(注2)。

表1 中国のAEO認証
従来の分類
(2014年11月30日まで)
新分類
(2014年12月1日以降)
待遇
(2014年12月1日以降)
AA 高級認証企業 最優遇、3年ごとに認証資格を審査、国際相互認証
A 一般認証企業 優遇、随時認証資格を審査
B 一般信用企業 通常管理
C 信用喪失企業 厳格に管理
D

(出所)セミナー配布資料

一般認証企業の場合は一般信用企業と比べて、税関による貨物の検査率が低くなるほか、貨物の伝票審査が簡素化され、通関手続きも優先される(表2参照)。

高級認証企業はさらに、(1)税関によるHSコードの確定、価格査定などの手続きが完了する前に貨物を検査、通関できる、(2)税関が当該企業からの照会に対応する専任担当者を置く、(3)加工貿易取引に対し保証金制度(注3)を適用しない、(4)AEO認証制度を運用する国・地域の税関による通関時の優遇(注4)などのメリットも享受できる。

税金や罰金の滞納歴、過去の密輸行為の内容などによっては、信用喪失企業に分類されることもある。その場合、税関による貨物の検査率が高くなるほか、貨物の伝票を厳しく審査され、加工貿易のプロセスも厳重に管理されるので注意が必要だ。信用喪失企業に分類されて1年が経過しており、かつその間に上記状況の再発がなければ、一般信用企業への登録が可能だ。

初めて登録される企業や、認証基準に合致しないものの信用喪失の状況にない企業は一般信用企業に分類される。一般信用企業は、高級を含む認証企業への登録申請が可能だが、審査に合格しなかった場合、その後1年間は再申請できない。

同弁法の施行から約3年が経過し、税関による認証企業に対する再認証作業が始まった。中国国内の企業には、認証基準を踏まえた点検、改善措置が必要となっている。

表2 認証企業と一般信用企業の待遇比較
項目 内容 高級認証企業 一般認証企業 一般信用企業
検査率 通関時の平均検査率 0.3~0.5% 1~2% 5~10%
一括納税 一般貿易による輸入時に先に通関し、関税と輸入増値税を月末に一括納付。 不可
貨物の通関前の引き取り 通関手続き完了前に輸入者は保証状提出により、貨物の引き取りが可能。 不可
AEO国際相互認証 中国と相互認証を実施する国・地域で通関時の手続き、検査を優遇。 不可 不可
加工貿易時の保証金 免除 原則免除  原則免除不可
税関による専任担当者の配置 企業からの照会に対し、回答・調整を行う。
中国と自由貿易協定(FTA)協定を締結し、かつAEO国際相互認証を実施する国・地域で、原産地証明に代わり輸出者の声明により、FTAの優遇税率を享受。 不可 不可

(出所)セミナー配布資料

審査項目が多く改善作業は長期に

企業は、税関によりa.内部統制、b.財務状況、c.コンプライアンス、d.貿易安全の基礎基準のほか、付加基準(注5)に照らし認証企業に該当するか否かを判定される。

a.内部統制に関しては、(1)税関管理規定に関する内部研修制度、(2)輸出入書類の再確認または校正制度、(3)内部監査部門または職位、(4)情報安全管理体制の有無などが審査項目となっている。うち、(4)では、パソコンのユーザーパスワードの定期的な変更、サーバールームの有無などが審査される。

b.財務状況では、会計資料の真実性、主要業務の利益率を審査される。

c.コンプライアンスでは、(5)過去2年間の密輸行為、(6)過去1年間における税関による罰金処分の有無、(7)営業内容、法定代表者など登録情報の真実性、(8)税関への申告内容などの正確性が問われる。(8)では、申告ミスの発生率が過去1年間の各四半期で全国平均を超えないことが求められる。

d.貿易安全では、(9)輸出入貨物用施設への関係者以外の立ち入りを防ぐために必要な措置が取られていること、(10)サプライチェーンの安全に関する評価・検査制度などがあることが問われる。(9)に関しては、例えば監視カメラによる録画の一時保存期間が審査される。合格とされる期間は税関によりさまざまだが、ある日系企業は「最低45日間の保存期間が必要」と指摘されたという。ほかにも、施設の関係者全員について犯罪歴の有無を問われた企業もある。(10)では、高級認証企業に対して、部材のサプライヤー以外にも運送業者や警備員派遣会社、通関代行業者などの取引先について、安全に関する審査規定の制定が求められる。

企業は認証企業の申請の際、(i)認証基準を踏まえた評価および改善、(ii)評価および改善結果と認証申請書の税関への提出、(iii)税関による立会検査の順に対応する。

税関による審査項目が多く、総務・財務のほか、生産、品質、倉庫など社内の複数部門での対応が必要なため、企業規模にもよるが、一般的に(i)の改善作業だけでも3~4カ月を要する。

税関はロイヤルティーへの課税を強化

中国では2016年に税関総署第20号および第13号公告が施行され、税関では、別途中国側輸入者が海外の輸出者に支払った特許権などの使用料(ロイヤルティー)を貨物の輸入価格に合算し、課税価格を計算すべきとの立場を取っている。

現時点で課税対象企業は、最終的に中国国内で販売される自動車および同部品、HSコードの上4桁が8542で始まる電子製品のメーカーだが、今後は機械設備、服装、医薬品などに拡大される予定だ。

中国側輸入者が海外の輸出者に対しロイヤルティーを送金すると、海外の輸出者には中国の企業所得税を納付する義務が生じる。さらに、前述のとおり税関が貨物の輸入時にロイヤルティー分を合算課税することに対し、特に日本国内の親会社の技術をもとに生産された部品を輸入する日系企業からは、中国当局による二重課税を指摘する声が聞かれる。しかし、企業所得税は技術供与というサービスの対価に課税されるもの、関税は輸入貨物の価格に課税されるものと、それぞれ課税対象が異なるため二重課税には当たらないと考えられる。

(注1)AEO制度は、輸出入者、運送業者、倉庫業者、通関業者などが対象。

(注2)高級認証企業は、認証企業全体の約5%。

(注3)加工貿易に必要な部材や設備を保税で輸入する際、関税および増値税の相当額を保証金として税関に預け入れる制度。

(注4)中国は、シンガポール、韓国、香港、EU、ニュージーランド、スイスとAEOの相互認証を実施している。日本、米国、インドなどとは実施に向け協議中。

(注5)a.保税区や輸出加工区など税関特別監督区域内の企業、b.国が支援するIT、省エネ、環境保護、新エネなどの関連企業、c.全国的な業界組織から優秀通関企業に認定された企業などは、税関による審査の際に加点される。

(粕谷修司)

(中国)

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