デジタル経済の促進に向け日本からの投資に期待-日本マレーシア経済協議会が合同会議を開催-

(マレーシア、日本)

クアラルンプール発

2017年12月12日

2020年までの高所得国入りを目指すマレーシアでは、政府がデジタル経済を推進し、経済成長の押し上げを図る取り組みを行っている。日本マレーシア経済協議会(JAMECA)とマレーシア日本経済協議会(MAJECA)が11月23日にクアラルンプール市内で開催した第35回合同会議では、デジタル経済における両国の協力の可能性がテーマの1つに挙げられた。

40周年を記念し、両国のさらなる経済交流を目指す

JAMECAとMAJECAは1977年に設立され、貿易・投資の活性化や両国の経済協力の課題などを議論する合同会議をほぼ毎年、日本とマレーシアで交互に開催してきた。今回は設立40周年を記念する35回目の合同会議となり、クアラルンプール市内で開催され、両協議会のメンバーを中心に約140人が参加した。今回のテーマは「JAMECA-MAJECA~40周年を越え、次の10年へ」で、3回にわたった全体会議では、(1)日本とマレーシアの経済交流の将来、(2)デジタル経済の推進、(3)ハラール商品とサービスのグローバル展開について、プレゼンテーションと討論が行われた。

冒頭の基調あいさつでは、マレーシアのチュア・ティー・ヨン国際貿易産業副大臣が登壇し、2017年第3四半期に6.2%の経済成長を遂げたマレーシア経済の好調さに触れ、日本からのさらなる投資に期待を示した。今回のテーマの1つであるデジタル経済に関しては、2020年までにGDPの18.2%を占める成長分野になると強調した。さらに2017年11月3日から稼働したデジタル・フリートレードゾーンについて、既に1,900社のマレーシア中小企業が参画し、アリババのプラットフォームを利用して輸出を促進していく方針だと述べた。また、今後、越境eコマースのためのインフラ整備を進めていることを紹介した。特に、eコマースに関連する通関、倉庫・輸送、ライトエンジニアリング(発送前に簡単な組み立てや調整をするようなこと)などの分野に対する日本の投資を呼び掛けた。

産業のデジタル化に向けた政府の取り組みを紹介

デジタル経済の推進について議論する全体会議では、管轄機関のマレーシアデジタル経済公社(MDEC)のヒュー・ウィー・チューン副総裁が、国内産業のデジタル化の潜在性、日本からの投資が期待される分野、マレーシア政府の取り組みについてプレゼンテーションを行った。マレーシア政府は、政府が認定するサイバーシティーに立地するITおよび関連企業に対し、マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)ステータスを付与しており、MSCステータスを取得した企業は法定所得100%に対する10年間の免税措置や関連機器の輸入関税免除など各種優遇措置が受けられる(表参照)。2014~2016年の2年間で、日本からマレーシアへの対内直接投資総額110億リンギ(約3,080億円、1リンギ=約28円)のうち、約1割がMSCステータス取得企業によるものだったという。MDECによると、外国企業として初めてMSCステータスを取得したNTTコミュニケーションズ、eコマース向けのBPOサービスを提供するトランスコスモス、ゲーム開発の地域ハブを設けるバンダイナムコをはじめ、日本企業30社がマレーシアにおいてデジタル関連事業に参入しているという。

MSCステータスによる優遇措置(Tier1企業の場合)

  1. パイオニア・ステータスが付与され、10年間にわたり法定所得の100%に対して免税措置が受けられる(パイオニア・ステータス)。あるいは、5年以内に発生した適格資本支出に対して100%の投資控除が認められ、対象当該企業は、この控除額をもって各賦課年度の法定所得の100%と相殺することができる。
  2. 100%の外資保有が可能。
  3. 必要に応じ、外国人知的労働者を雇用できる。就労枠および終了ビザが承認される(Tier1企業は人数に制限なし)。
  4. マルチメディア関連機器の輸入関税が免除される。
  5. 研究開発補助金が受けられる(マレーシア資本がマジョリティーを占めるMSCステータス企業が対象)。

(注)Tier1企業は、MDECが認定するサイバーシティー内に拠点を設けているITおよび関連企業が該当する。
(出所)マレーシアデジタル経済公社(MDEC)

チューン副総裁は、マレーシアでは情報通信技術(ICT)やビジネスサービス、金融部門で既にデジタル化が進んでいるとし、今後デジタル化が拡大する分野として石油・ガス、製造業、卸・小売業の分野を挙げた。また、日本をはじめとする外国投資の進出が期待される分野として、コンピュータで工程などを遠隔制御・管理するインテリジェント・リモート・センター、人工知能やIoT(モノのインターネット)などインダストリー4.0、eコマースおよびロジスティクスハブ、地域的データセンターを挙げた。

同時に、デジタルイノベーションの推進に関するマレーシア政府による以下の取り組みを紹介した。

  1. ASEANデータ・アナリティクス・エクスチェンジ(ADAX):ビッグデータ解析に関する技術発表や企業交流の場の提供を目的とし、マレーシア企業およびマレーシアに拠点を持つASEAN企業向けに人材育成や事業開発などについてのメンタリングを行う。
  2. マレーシア・デジタル・ハブ:デジタルスタートアップ企業に共有オフィスを提供。資金調達支援、人材育成、メンタリング、コーチングを行う。英国のアクセラレーターが参画している。
  3. マイデジタル・メーカー・ムーブメント:次世代のデジタルエキスパートの育成を目指し、小学校および中学校におけるコンピュータサイエンスの授業の導入、高等教育省により8校のデジタルテックユニバーシティーを選定する。
  4. デジタル・フリートレードゾーン:eコマースを通した中小企業の輸出促進、eコマースにおけるASEANでの輸送ハブになることを目指し、税関、電子フルフィルメント、ロジスティクスなどの関連施設を統合し、eコマースにおけるプロセスの簡易化と効率化を図る。

日系企業もマレーシアのデジタル化に期待

スマートフォンによるモバイルマーケティングを行う日系企業A社はプレゼンテーションで、日本において顧客の再来訪を目的として浸透しているアプリケーションを使ったモバイルマーケティングについて、「マレーシアでも大きな潜在性がある」と述べた。特に、マレーシアには多様な食文化やレストランが豊富にある点、MSCステータスによる優遇措置が受けられる点、20年後の人口分布におけるボリュームゾーンがデジタルネイティブである点に市場としての期待を寄せているという。また、MSCステータスを取得し、データセンターサービスの提供を行う日系企業B社は「地政学的にアジアの中心で、自然災害のリスクが少ない点がマレーシアにオフショア拠点を置くメリット」とした。

(田中麻理)

(マレーシア、日本)

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