米ITC、カナダ産針葉樹材の輸入による損害を最終認定-木材価格高騰でカナダ林産業界への影響は当面限定的-

(カナダ、米国)

トロント発

2017年12月27日

米国際貿易委員会(ITC)は12月7日、米商務省が最終決定したカナダ産針葉樹材への相殺課税(CVD)およびアンチダンピング(AD)関税について、米国内産業への実質的な損害の最終認定を下した。カナダ政府は両関税適用について、既に北米自由貿易協定(NAFTA)とWTOの紛争解決手続きに基づく協議を要請し、米国との対決姿勢を明らかにしており、全米住宅建築業者協会も住宅価格上昇を招くとして反発している。制裁関税によるカナダの林産業界への影響は、木材価格の高騰により当面は限定的とみられるものの、長期的な展望は明るくない。

米国の制裁関税適用にカナダはNAFTAとWTOの協議を要請

米ITCは12月7日、米商務省が政府の補助金を受けて公正価格以下で米国で販売されたと最終決定したカナダ産針葉樹材が、米国内業者への実質的な損害を与えているとの最終認定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行った。ITCの4人の委員が採決を行い、4人全てが賛成票を投じた。この結果、米商務省が11月2日に最終決定した計9.92~23.76%のCVDとAD関税の発動が決定した。なお、米商務省はレゾリュートやトルコ・マーケティングなど一部のカナダ製材企業からの輸入について「緊急事態」の最終決定を行っていたが、ITCは緊急事態については否決した。カナディアン・プレス(12月7日)によると、カナダの針葉樹材生産者は、2017年に両関税合計で約5億ドルを米税関国境警備局に預託しており、2016年のカナダから米国への針葉樹材の輸出額は56億6,000万ドルに上る。一方、カナダ連邦政府は、米商務省の11月2日の最終決定を受け、11月14日と28日にそれぞれNAFTAとWTOの紛争解決手続きに基づき協議を要請していた。

カナダ政府のほか、全米住宅建築業者協会も反発

ITCの最終決定を受けて、カナダのジム・カー天然資源相は12月7日に、「カナダの林産業界を全面的に支援する。米国とこれまでも戦ってきたが、カナダの国益を守るために今後も戦い続ける」とコメントし、対象企業への債務保証や新たな海外市場開拓などで林産業界を支援する方針を示した(カナディアン・プレス12月7日)。

また、全米住宅建築業者協会のグランジャー・マクドナルド会長は「米国消費者の負担により、国内針葉樹材生産者の利益を守ろうとする保護主義政策だ。両関税は、米国の住宅購入者および針葉樹材消費者に課される『税金』として機能している」と非難した(全米住宅建築業者協会プレスリリース12月7日付)。同協会では、関税適用により2018年の新築戸建て住宅平均価格は1,360ドル上昇するとみており、2015年10月に失効した米国とカナダによる針葉樹材協定の早急な再締結を強く望んでいる。

両関税の増加分は高騰する木材価格に転嫁

全米住宅建築業者協会のコメントにあるように、カナダの林産業界では両関税分を米国への輸出価格に転嫁しているが、供給の逼迫に伴い、木材価格が高騰しても買い手が見つかるという状況が続いている。シンクタンクのコンファレンス・ボード・オブ・カナダの報告書「カナダ産業見通し:木材商品-2017年秋期」(2017年12月18日発表)によると、2017年の針葉樹材価格は2004年以来の高水準となり、前年比5.6%増の見通しで、生産量は0.4%増にとどまるものの、売上高は8%増となり税引き前利益は26億カナダ・ドル(約2,314億円、Cドル、1Cドル=約89円)が見込まれている。価格上昇の要因は、針葉樹材の主要生産地であるブリティッシュ・コロンビア州での森林火災による供給量の逼迫や、米国住宅市場の回復、米国におけるハリケーン被災地域での復興需要などだ。ただ、向こう5年間の見通しは明るくない。木材価格高騰に伴う米国内の針葉樹材生産の活発化や、米国がCVDおよびAD関税を課していない欧州諸国からの輸入増の影響を受け、2018~2022年の売上高は年率1.8%増、税引き前利益も2022年には17億Cドルにとどまるとみている。

(飯田洋子)

(カナダ、米国)

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