電子決済システム整備が加速、政府がEC市場拡大を後押し

(タイ)

バンコク発

2017年12月13日

タイでは電子商取引(EC)市場の拡大に伴い、国家電子決済システムが運用開始されるなど、EC用の決済システムが整備されつつある。特に、11月にタイ主要5銀行間で導入された統一「QRコード」は、今後のさらなるEC市場拡大に向けて注目される。

タイの電子マネー市場は6年間で約5倍に

タイのデジタル経済社会省の下部組織である電子取引開発機構(ETDA)によると、2017年のEC決済額は前年比10%増の2兆8,000億バーツ(約9兆8,000億円、1バーツ=約3.5円)になる見込みで、タイのEC市場規模は拡大している。

また、電子マネーの普及も始まっている。タイの中央銀行であるタイ銀行(BOT)の統計によると、普及している電子マネー用のカード枚数(アカウント数)は、2010年に約1,149万枚だったが、2016年には3,915万枚に急増した(図1参照)。同時に、電子マネーによる決済額も2010年に177億バーツだったのが、2016年には909億バーツとなり、タイの電子マネーの市場規模はこの6年間で約5倍に拡大した(図2参照)。

図1 電子マネーカード枚数(アカウント数)の推移
 図2 電子マネ-決済額の推移

政府主導の「プロムペイ」を2016年に導入

タイ政府は、こうしたEC市場の拡大を後押しするように、2016年に「ナショナルeペイメント(プロムペイ)」を導入、政府主導で電子決済の推進に取り組み始めた。プロムペイとは、国民IDや携帯電話(法人はタックスID)と国内の銀行口座をリンクさせ、IDや携帯電話での送金決済を容易にするシステムだ。具体的には、税金の納税や還付、各種料金の支払いにも利用でき、2017年1月27日から正式に稼働している。アピサック財務相は、プロムペイの登録者数が8月時点で3,150万人を超えたと発言しており、当システムの導入以降、順調に利用登録者数が増加していることが分かる。

主要5銀行には統一QRコード決済を認める

さらに、タイ政府は8月30日に「QRコード(注)決済システム導入に向けた連携」というプレスリリースを発表し、国外の大手クレジット会社(アメリカン・エキスプレス、JCB、マスターカード、ユニオンペイ、VISA)や、タイ国内の大手金融機関などと協力して、統一QRコードの導入を進める方針を明らかにした。

そして、BOTは11月13日に、カシコン銀行、サイアム商業銀行、クルンタイ銀行、バンコク銀行、政府貯蓄銀行の5銀行に対し、統一されたQRコードを用いてプロムペイで決済することを承認した。

これにより、事業者はプロムペイを利用して銀行間決済をする際、1つの任意の金融機関からQRコードを取得することで、他銀行とのさまざまな決済に対応できる。一方、消費者はレストランなどでの支払い時に、店舗に設置されたQRコードをスマートフォンなどで読み込み、支払額を入力することで、現金を利用せずとも、自身の銀行口座から引き落しが完了する仕組みだ。一般消費者にとっては、政府主導で推進する電子決済システムの整備であるため、主要5銀行が参画する統一QRコードで、クレジットカードによる不正利用が防げるといったメリットもある。

QRコードは、屋台や小規模店舗でも容易に設置できるため、今後は利用する事業者および消費者ともに大きく増える可能性がある。今回承認を受けた金融機関以外においても今後、統一QRコードが導入されていくとみられる。

(注)QRコード:カメラ付きスマートフォンなどで読み取ることができるバーコードの一種。バーコードは横方向にしか情報を持たないのに対し、QRコードは縦横に情報を持つため、情報量が多い。

(阿部桂三)

(タイ)

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