首席交渉官、ブレグジット交渉の妥結に期待感-英国に安全保障・防衛政策での協力継続を望む-

(EU、英国、ドイツ)

ブリュッセル発

2017年12月01日

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は11月29日、ドイツ・ベルリンで開催されていた幾つかの会合で登壇し、英国のEU離脱(ブレグジット)交渉の現状と見通しを明らかにした。外交・安全保障も視野に英国は慎重に判断すべきと牽制しつつ、EUとしてブレグジット以降も協力関係を模索する姿勢を示した。また、「今週も3優先課題に関する作業が建設的な意志をもって続けられている」と語り、次回の欧州理事会(EU首脳会議)までに「十分な進捗」が認定されれば、移行期間の協議を開始できるとも指摘。さらに、加盟国は通商協議を含む英国との新しいパートナーシップの枠組みを2018年に特定できるだろうとした。

ベルリンでの会合に相次ぎ登壇

欧州委員会でブレグジット交渉の総責任者を務めるバルニエ首席交渉官は11月29日にベルリンで開催された幾つかの会合で演説を行い、ブレグジット問題や交渉の現状認識と今後の見通しを明らかにした。

バルニエ首席交渉官は「ベルリン・セキュリティー会議(第16回欧州安全保障防衛会議)」に登壇、EUの安全保障・防衛政策の枠組みから英国が離脱することで生じる法的かつ運用上の課題を示した。それによると、ブレグジットの結果、英国の国防相はEUの防衛担当閣僚レベルの会合に参加できなくなるほか、英国は欧州防衛庁(EDA)や欧州刑事警察機構(ユーロポール)などEU専門機関の構成員ではなくなり、EU主導の軍事行動に英国は(意思決定のみならず、計画立案にも)関与できなくなるなど、慎重に検討すべきことが多いという。

EUと英国の将来の関係については、英国の秩序ある離脱についての方針に関する合意ができた後に(可能に)なると前置きしつつ、「2018年には英国との新たなパートナーシップの枠組みについての作業を始める必要がある」と述べた。また、「英国はEUを離脱するが、欧州を去るわけではない」とメイ首相が言ったことと、「ブレグジットにかかわらず、EUと英国は戦略的な関係を維持する。従って、欧州に安全保障上の空白は生じない」との2点を強調した。英国がEU加盟国ではなくなった場合でも、ノルウェーなどのように欧州地域を構成する国として、安全保障上何らかの協力関係を模索する姿勢を打ち出した。

次回欧州理事会での「十分な進捗」認定に含み

他方、交渉の現状認識については、EU側の3優先課題についての(実務レベルの)協議は「建設的な意志をもって、今週、英国政府と続けられている」と語った。また、次回の欧州理事会(EU首脳会議)まで15日残されており、それまでに交渉の「十分な進捗」を認定できれば、移行期間(2017年9月25日記事参照)の協議に入れる可能性にも触れ、2018年には外交・安全保障協力を含むEU・英国間の将来関係についての枠組みを特定したいとの認識を示した。

なお、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長も11月24日に、「われわれは今後10日以内に、北アイルランド問題を含む全ての問題について、英国の取り組みの進展を確認する必要がある」とツイッターに投稿、英国側の前向きな対応に強い期待感を示している。

バルニエ首席交渉官はブレグジット以降の安全保障上の協力関係について、EUとしては、(1)サイバー攻撃なども想定した広範(Broad)な協力、(2)EU・英国双方の安全保障強化に貢献する互恵的(Beneficial)な協力、(3)他の同盟国に差別的にならないバランスの良い(Balanced)協力、の「3B」を原則として掲げたいとしている。この原則を通じて、駐留軍派遣など軍事行動、防衛分野での産業協力や共同プロジェクト運営、サイバー攻撃対策などでの連携、情報共有などに英国の任意参画の可能性を担保する構えだ。

「欧州モデル」からの離反は望まず

このほかバルニエ首席交渉官は、ベルリンで開催された2017年「ドイツ雇用者の日」のイベントでもあいさつに立ち、ブレグジット交渉の今後の道筋について語った。同首席交渉官は、第1に(EU側の3優先課題の解決を進める)秩序ある対応、第2にEU27カ国で今後もEU単一市場の統合を支えること、第3に英国と公平な競争条件を確保するための将来関係の構築、の3点が交渉成功のカギだと述べた。

特に第3のカギについては、英国がEU加盟国として確立してきた「食品安全」「環境基準」「競争政策」「金融市場規制」など広範な分野の欧州の枠組み(欧州モデル)があるが、英国としてそれらをブレグジット以降も継続して準拠する意思があるのか、あらためて問いたいとしている。また、「これらのビジネス基盤の共有なくして、野心的な協力関係を想定することは難しい」とし、これまでEUを軸に確立されてきたさまざまな分野の基準や規制の総称としての「欧州モデル」からの英国の離反を牽制する姿勢を見せた。

なお、11月28日付で一部メディアが、ブレグジット交渉の最大の課題となっている財政問題の解決(英国の対EU債務問題)について、EU・英国で合意(推定清算金額:450億~550億ユーロ)したのではないか、との観測を報じているが、この点についてバルニエ首席交渉官はコメントしていない。同首席交渉官はドイツ訪問の機会にアンゲラ・メルケル首相と会談し、ブレグジット交渉の進捗状況について報告。その後、ツイッター(11月29日付)で「メルケル首相と良い会談の機会となった。EUは12月の欧州理事会に向けて一体だ」と投稿している。

(前田篤穂)

(EU、英国、ドイツ)

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