「クールジャパン」を活用して急成長するルートクレイト-北米におけるEC利用事例-

(米国)

ロサンゼルス発

2017年11月30日

アニメやポップカルチャーグッズの定期宅配ボックスビジネスを展開するルートクレイト(LOOTCRATE、本社:ロサンゼルス)は2012年に設立後、アメリカンコミック関連グッズを主力商品として、国内で急速に業績を拡大してきた。2014年までの2年間で定期購買者は20万人を超え、2015年に日本のアニメ関連グッズも主要商品に追加されて、2017年には65万人となった。2016年まで外部資本に一切頼らず、定期宅配ボックスビジネスの豊富な資金を使い、全米の熱狂的なファンを取り込むことに成功している。米国人の視点からみたクールジャパンビジネスの成功の秘訣(ひけつ)について、同社の宮崎むつみ氏とエリック・レイノルズ氏に話を聞いた(10月12日)。

何物にも代え難い「体験」を箱に詰め込むことで成功

(問)アメリカンコミックやアニメ関連グッズの定期宅配ビジネスを始めた経緯は。

(答)創業者のクリス・デイビス氏は、数年間スタートアップ企業で働いた後、2012年にビジネスコンテストで、コミコン(注)に参加しているような気分になれるものを箱(クレイト)に詰めて自宅に届ける「Comic-Con in the Box」というアイデアを披露した。定期宅配ボックスというコンセプト自体は目新しさに欠けていたため、ビジネスコンテストでは入賞はできなかった。

ビジネスコンテスト後にデイビス氏とパートナーの2人はたった3日間で、ルートクレイトのウェブサイトを立ち上げた。デイビス氏はアメコミファンやゲームファンに、秘密のボックスを毎月届けるといった、何物にも代え難い「体験」を箱に詰め込むことができると構想していた。会社設立後はコミコンで一気に知名度を上げ、2015年以降はアニメエキスポやアニメ文化が根付くロサンゼルスを拠点に受注を拡大、インフルエンサーがユーチューブ(YouTube)でルートボックスの中身を毎月定期的に紹介する動画が人気となり、全世界から定期購買者が増えた。2012年から2014年の2年間で、定期購買者は20万人を超えた。2015年には日本のアニメ関連グッズも主要商品に追加され、定期購読者は2017年に65万人に達し、売上高は165億ドルとなった。現在では240人の従業員を抱え、2つの配送拠点をカリフォルニア州とペンシルベニア州に持つ企業に成長した。

写真 宮崎氏(左)とレイノルズ氏(ジェトロ撮影)

(問)成長の理由とは。

(答)当社は、アメコミ関連グッズを定期宅配化したビジネスの先駆者だ。定期宅配ビジネスにクールジャパン商品を活用して、さらに成長することができた。急成長できた理由は、アメコミやゲームなどのファン層に情熱(Passion)が詰まった商品を届けるという、今までにない価値を提供していることだ。ファンにとっては、手にしたことがない商品を受け取ること自体が貴重な体験となっており、これらを毎月楽しみにしている。ファンの期待以上の商品を届けることで、「驚き」を「体験」としていることが成功の秘訣だと考えている。

ルートクレイトの商品は全部で27種類あり、いずれも通常の小売価格の2倍以上の価値があるグッズ5点が箱に入る。グッズはフィギュア、キャラクター小物アクセサリー、単行本、小物入れ、Tシャツや靴下などさまざまだ。これらのグッズの宅配を新作映画の公開イベントに合わせることで、受け取るファン自らが行事に参加している優越感を与えている。例えば、「Deadpool」「Walking Dead」「Halo」など新作映画やゲームの公開に合わせたり、新作アニメのスタートに合わせて主力商品の内容を決めるなど、タイムリーな商品開発を心掛けている。

価格帯は、ルートクレイト(LOOT CRATE、月額15.99ドル)、ルートゲイミング(LOOT GAMING、26.95ドル)、ルートアニメ(LOOT ANIME、26.95ドル)から、ルートクレイトデラックス(LOOT CRATE DX、47.99ドル)まである。当社は65万人以上の定期購買者を有しているため、大規模受注生産によるコスト削減ができる。また、まだ有名でない漫画を世の中に流布することで新しいトレンドを生むことができると考えている。「Ready Player One」などは、当社のクレイトに入れたことで人気になり、「ニューヨーク・タイムズ」紙のベストセラーに選ばれたこともある。ニッチなビジネスではあるが、量を確保することで、個人や企業のプロモーションに活用できると考えている。世の中に出回っていない新しい商品を提供することは、いち早く入手したい熱狂的なファンの心をくすぐる。

(問)アニメで特に好評だった商品は。

(答)My Hero Academia(僕のヒーローアカデミア)、DEATH NOTE(デスノート)、Attack on Titan(進撃の巨人)、ONE PIECE(ワンピース)、DanMachi(ダンまち)が人気だ。

自社製品を増やすことで事業拡大を目指す

(問)自社生産はしているのか。

(答)知的財産権(IPR)所有者と共同して自社商品を開発し、生産するようにしている。自社開発の商品を増やすために、IPRを取得できるところは取得し、自社で独占販売権を確保している。例えば、ハローキティなどサンリオの商品を宅配するルートサンリオ(LOOT SANRIO)シリーズは、サンリオから許可を取り、ルートクレイト製品として100%自社生産している。2012年の設立当初は全て他社製品を商品として扱っていたが、自社商品を増やし、ルートクレイトでしか手に入らない特別な商品を提供することで、さらにファンを獲得し事業拡大を目指している。

 写真 ルートサンリオ(ルートクレイト提供)

(問)海外展開の予定は。

(答)2016年11月に英国に初めての海外拠点を設けた。欧州は、フランス、英国、イタリアを中心にアニメやゲーム文化が浸透しているため、さらなる市場拡大が見込まれる。当社の商品は海外34カ国に展開しているが、IPRの問題で、アニメ関連グッズを詰め込んだルートアニメは、日本、韓国、シンガポールに展開できていない。

今後もさらに事業を展開していくためには、常にさまざまな企業と連携しながら拡大していくことを検討している。海外展開においては、マーケット調査、IPRの確認、市場規模、アメコミファンやゲームファンの嗜好(しこう)など、考慮すべきことが多い。また、言語の問題もある。

(注)毎年カリフォルニア州サンディエゴなどで開催される、マンガなどの大衆文化に関するコンベンションの大規模イベント。

(堀口晋、サチエ・ヴァメーレン)

(米国)

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