ペルーとオーストラリアが2国間FTAに署名-ペルー側は衣類などの輸出拡大を期待-
(ペルー、オーストラリア)
米州課
2017年11月28日
ペルーとオーストラリアは11月10日、2国間自由貿易協定(FTA)に署名した。発効すれば、ペルーとして17番目、オーストラリアとして11番目のFTAとなる。発効時に95%、5年以内に99%の品目で関税が撤廃される。またオーストラリアにとっては、中南米地域国ではチリに続く2番目の2国間FTAの締結相手国となる。
ペルー産のアルパカ毛などの輸出競争力に寄与
ペルーとオーストラリアの2国間FTAは、第1回交渉会合(7月5~7日)と第2回交渉会合(8月28日~9月1日)を経て、APEC首脳会議(11月10~11日)に合わせて署名された。
ペルーは、メキシコとチリに次ぐ中南米におけるFTA先進国で、2017年11月現在で16の2国間および多国間通商協定が発効している。また、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の原署名国であり、ならびにメキシコ、コロンビア、チリとともに太平洋同盟の加盟国だ。2016年におけるペルーのFTAカバー率(貿易総額に対してFTA締結国との貿易額が占める割合)は90%と高率で、2016年に誕生したペドロ・クチンスキー政権はウマラ前政権に引き続き、自由貿易を主導している。今回のオーストラリアとのFTA締結により、若干ながらもカバー率は上昇する。
ペルー・オーストラリアFTAでは、発効と同時に95%の品目、5年以内に99%の品目の関税が撤廃される。ペルーのオーストラリアへの主な輸出品目は現在、3つに大別される(表1参照)。1つ目が亜鉛や鉛、銅などの鉱物資源。2つ目はペルーが輸出競争力を持ち、農業肥料や家畜飼料用に利用される魚粉やその油脂。3つ目がコーヒー、アスパラガス(生鮮および加工品)、キヌア、マンゴーといった農産品だ。オーストラリアからの輸入品目も3つに大別され、1つ目が化学品、2つ目が穀物類、3つ目が建機およびその部品類だ(表2参照)。貿易収支は、2015年まではおおむねペルーの輸入超過だったが、2016年と2017年は大幅に輸出額が拡大し、ペルーの貿易黒字になっている(図参照)。ペルーの輸入額には大きな変化はなく、2015年末からの鉱山開発・鉱区拡張によって銅、亜鉛、鉛の生産量と輸出量が増大したことなどが、大幅な貿易黒字に寄与した。
No | 品目名 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 亜鉛鉱 | 13,493.4 | 31,128.1 | 5,665.4 | 2,920.3 | 64,152.3 | 66,275.9 |
2 | 鉛鉱 | 2,137.3 | 0 | 0 | 0 | 38,664.6 | 35,635.1 |
3 | 銅鉱 | 0 | 0 | 0 | 1.7 | 22,659.7 | 9,832.4 |
4 | 魚粉 | 13,177.3 | 8,712.1 | 27,160.5 | 6,353.9 | 12,229.8 | 8,859.3 |
5 | 魚の油脂およびその分別物 | 7,224.1 | 11,149.7 | 11,919.0 | 9,202.3 | 11,077.8 | 11,452.9 |
6 | コーヒー | 3,280.0 | 2,946.6 | 3,219.6 | 3,499.1 | 5,408.1 | 3,982.2 |
7 | アスパラガス(生鮮) | 4,906.2 | 5,931.6 | 7,688.8 | 5,034.9 | 4,114.1 | 2,880.0 |
8 | アスパラガス(加工品) | 3,230.2 | 3,282.3 | 2,581.0 | 1,658.9 | 1,602.9 | 2,347.4 |
9 | キヌア | 1,250.4 | 3,981.0 | 8,539.1 | 3,583.5 | 1,925.4 | 2,287.9 |
10 | マンゴー | 800.1 | 418.7 | 449.5 | 381.4 | 1,023.8 | 1,658.3 |
※ | その他 | 41,741.0 | 49,100.6 | 36,938.5 | 32,005.0 | 31,350.3 | 30,634.7 |
合計 | 91,240.0 | 116,650.8 | 104,161.6 | 64,640.9 | 194,208.7 | 175,846.0 |
(注)2017年は1~10月。
(出所)ペルー輸出業協会(ADEX)
No | 品目名 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | シアン化物およびシアン化酸化物(ナトリウムのもの) | 35,389.0 | 50,174.8 | 43,164.9 | 38,869.6 | 33,406.0 | 49,093.2 |
2 | 化学品(その他のもの) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 12,909.1 |
3 | 合金鋼の棒 | 0 | 0 | 0 | 72.2 | 0.0 | 3,545.7 |
4 | 穀粉、ミールまたはでんぷんの調製食料品 | 0 | 0 | 1,209.9 | 2,666.4 | 2,804.9 | 2,844.2 |
5 | 穀物(オート) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2,364.9 |
6 | ダンプカー | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2,172.2 |
7 | 選別機、ふるい分け機、分離機および洗浄機 | 5,573.4 | 4,828.2 | 6,958.6 | 1,931.7 | 2,412.5 | 1,807.9 |
8 | 建設機器用バケット、ショベル、グラブおよびグリップ | 648.2 | 1.2 | 1.6 | 869.6 | 132.7 | 1,488.6 |
9 | その他の機械 | 107.6 | 394.5 | 49.0 | 313.7 | 0 | 1,141.9 |
10 | ポンプ部品 | 2,587.3 | 1,174.4 | 1,177.9 | 801.1 | 557.9 | 962.4 |
※ | その他 | 74,192.6 | 57,656.1 | 63,021.7 | 65,213.2 | 44,900.6 | 30,840.9 |
合計 | 118,498.1 | 114,229.1 | 115,583.6 | 110,737.6 | 84,214.7 | 109,171.0 |
(注)2017年は1~10月。
(出所)ペルー輸出業協会(ADEX)
ただし、現在の輸出品目のほとんどで、オーストラリアの最恵国税率(MNF税率)は0%となっており、貿易面におけるFTA発効後の恩恵は限定的とみられる。他方、Tシャツ(HS6109)やニット生地以外の衣類(HS6201~10)はMFN税率が5%で、FTA発効により無関税となることで、ペルーからの輸出競争力強化に寄与するだろう。なお、2017年のオーストラリアの輸入国別のシェアは、HS6109で中国が52%(中国・オーストラリアFTAで無関税)、バングラデシュが23%(MFN税率5%)となっている。HS62類では中国が65%(中国・オーストラリアFTAで無関税)、バングラデシュが7%(MFN税率5%)、ベトナムが4%(同)となっており、ペルー産のアルパカ毛など衣類に輸出競争力をもたらすものとみられる。
オーストラリアは食肉や酒類で恩恵
現在、ペルーへの輸入時にMFN税率(11%)が適用されているオーストラリア産の牛肉(HS020110~30)は、発効後6年目に無関税となり、米国(輸入先国1位)やボリビア(2位)と同条件となる。3位のアルゼンチンには、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)地域協定(PAR 4)税率(10.34%)が適用されているため、発効初年度(9.1%)においてそれを下回ることになる。
ワインは、発効時に無関税となる。ペルーのワイン輸入先国上位3カ国はアルゼンチン(2.1%)、チリ(無関税)、スペイン(2.25%)で、チリ産ワインがオーストラリアのライバルとなりそうだ。
また、今回のFTAには、オーストラリアの鉱山・石油開発関連のサービスプロバイダー(コンサルティング、調査開発、エンジニアリング、環境保全、技術指導)の参入に際して、ペルー政府は他国の同種企業との差別化を行わないことや、作業員に対して1年間の滞在許可を発行(延長可能)することが盛り込まれた。
(志賀大祐)
(ペルー、オーストラリア)
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