日EU・EPAを国際的な規制・標準作りのプラットフォームに-「新しいアイデアに関する欧州会議」で議論-

(ポーランド)

ワルシャワ発

2017年11月22日

ポーランド最大の経済会議の1つ「新しいアイデアに関する欧州会議(EFNI)」にて9月29日、ジェトロが協力した日EU経済連携協定(EPA)に関するパネルディスカッションが開かれた。同EPAの経済効果だけでなく、国際標準作りの基盤などの戦略的重要性が強調されたほか、中・東欧諸国で聞かれる、EPAによる投資減少の懸念は当たらないとの発言があった。

7回目を迎えた会議に国内外から850人が参加

ポーランドの経済団体レビアタンが主催する「新しいアイデアに関する欧州会議(EFNI)」は、毎年北部のリゾート地ソポトで開催されている。7回目を迎えた9月27~29日の会議には約850人が参加した。2016年に参加した欧州委員会のフランス・ティマーマンス副委員長のほか、今回はエルジビエタ・ビエンコフスカ委員(域内市場・産業・起業・中小企業担当)ら欧州の主要政治家や、歴史家のノーマン・デイビス氏、ジョージ・フリードマン氏らも参加した。また、飛行機が遅れビデオ参加にとどまったものの、英国とのEU離脱交渉を終えたばかりの欧州委のミシェル・バルニエ首席交渉官も参加予定だった。

「グローバリズム、2国間主義、経済愛国主義」と題した会議の会期中には、数多くの貿易関連のパネルディスカッションが開催され、その1つとして、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)が主催し、ジェトロが後援したセッション「欧州・日本-経済秩序への共通のビジョン」が9月29日に開かれた。ビジネスヨーロッパのマルクス・バイラー事務局長がモデレーターを務め、パネリストとしてブリュッセルの通商シンクタンクECIPEのホースク・リー・マキヤマ氏、欧州委通商総局極東課次長マルコ・チルッロ氏、駐ポーランド日本大使松富重夫氏、経済開発省国際協力部長ウカシュ・ポラジンスキ氏、ワルシャワ経済大学教授ヤン・ボサック氏、経団連国際経済本部長の原一郎氏の6人が参加した。

写真 パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

日EU・EPAの戦略的重要性に言及

パネルディスカッションでは、日EU・EPAの戦略的重要性に言及があった。松富大使が、共通の基盤を持つ日本とEUのEPAは野心の水準が極めて高く他のメガ自由貿易協定(FTA)のフォーマットにもなること、日本は環太平洋パートナーシップ(TPP)を決して諦めておらず、(11から始まり、その後12、13とシリーズ化された)米国映画「オーシャンズ11」ならぬ「TPP11」〔包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)〕での発効も十分視野に入っていると述べると、マキヤマ氏から「日本は(主演の)ジョージ・クルーニーの役割」とのコメントがあり、会場から笑いが起こった。

マキヤマ氏は、日EU・EPAの内容はEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)よりも良いと評価、原氏からも高い水準のEPAは他のEPAのフォーマットになるとともに、自由貿易への懐疑が広がる世界に対して、特にG20首脳会議開催直前のタイミングで良いメッセージになったとの指摘があった。日EU・EPAでは規制協力が重要な要素となっており、国際的な規制・標準を作っていくプラットフォームとなり得る。一方でボサック教授は、日EU・EPAと日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)の内容を高く評価しつつ、「EUと米国の包括的貿易投資協定(TTIP)での反対運動などを踏まえ、日EU・EPAがTTIPと比べても労働基準、消費者保護、食品安全といった、日本とEUが共有する社会的価値に基づいた『公正な』貿易(フェアトレード)に重きを置いた協定であることを訴えていく必要がある。日EU・EPAとSPAの迅速な発効に向け、社会の幅広い支持を得ていくことが重要」と指摘した。

またチルッロ次長は、日EU・EPAは7月の大枠合意の段階で市場アクセスを含めかなり細部まで合意に至っており、まだ問題点は残るものの年内に交渉を終え、条文の法的精査と翻訳を経て、仮調印、批准まで持っていくことは十分可能との見通しを示した。

日本からの投資減は無用の心配

ポラジンスキ部長は日EU・EPAのポーランドへの影響として、EU韓国FTAの結果、ポーランドから韓国への輸出が2倍以上増え、投資も拡大したことを引き合いに、日本向け輸出も少なくとも10%以上増える見込みを示すとともに、現在も最大の投資家である日本からのさらなる投資に期待を示した。

マキヤマ氏は欧州から日本への貿易・投資について、日本市場はこれまで欧州から過小評価されてきたと指摘した。「日本はGDP規模でみると米国、中国に次ぐ世界3位だが、日本は消費がGDPの約8割を占めており(その多くは民間消費)、消費が5割程度かつ政府支出がほとんどを占める中国より、市場としての潜在的魅力は高い。加えて、日本は消費の23%を輸入品が占め、この割合は米国よりも大きく、海外製品への受容性も高い。こうした日本市場の魅力はEU企業にはこれまであまり知られてこなかった」と話した。また、日本企業のビジネスモデルは現地に投資をして市場を開拓することだが、こうした国がFTAのパートナーとなることはEUにとって初めてで、日本とEUの経済的補完性に鑑みれば、日EU・EPAはEUにとってTTIP以上に重要との見方を示した。

最後に、ジェトロ・ワルシャワ事務所の牧野直史所長は「特にこの中・東欧地域では投資が輸出に代替され、日本からの投資が減るという懸念が聞かれるが、これにどう答えるべきか」と質問した。マキヤマ氏は「日本企業は市場に近いところに立地するローカリゼーションを進める方向にあり、また投資に当たっては輸送コストも重要。これまでにFTAやEPAを理由に輸出に切り替えた企業の事例はみられない」と回答。また、松富大使からも「投資は貿易に代替されない」という強いメッセージがあり、統計上の把握が難しいことが多いが、日本企業による中・東欧への投資は自動車分野などで今後も増えることは間違いない、との発言があった。また、同所長は、EPAの直接的な効果だけでなく、アナウンスメント効果も無視できないと指摘した。

(牧野直史)

(ポーランド)

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