新関税法が11月13日から施行-東京でタイ新関税法セミナーを開催-

(タイ)

アジア大洋州課

2017年11月13日

タイでは、旧関税法が90年余り前に導入されて以来、改正を重ねながら使われてきたが、その規定内容が実際のビジネス上では不都合があることが指摘されていた。こうした理由から、新たな関税法が2017年に制定され、11月13日から施行された。ジェトロはこれに先立って、11月9日に東京で「タイ新関税法セミナー」を開催し、関税分野の専門家を招いて、新旧関税法の違い、および新法における取り締まりの傾向など、輸出入ビジネスに与える影響について紹介した。

公平な司法判断が選択肢に

タイの旧関税法(以下、旧法)は1926年に施行され、その後20回以上の改正が行われてきたが、関税徴収の公平性や透明性を高めることなどを目的に、新関税法(以下、新法)が11月13日に施行された。

関税制度に係る問題は、企業からアジア各国のジェトロに多く寄せられる相談でもあり、企業の新法に対する関心は高い。セミナーには、企業の業種や規模を問わず、約200人が参加した。

新法には、旧法における各種規定の見直し、および新しく導入された規定の両方が含まれる。講師としてセミナーに登壇したベーカー&マッケンジー法律事務所バンコクオフィス・パートナーの阪本法子弁護士によると、今後ビジネスに与える影響という観点から、旧法からの変更点で特に注目すべきは、以下のとおりだ。

○不服審査期間に上限(企業などから不服申し立て受理後、最長270日以内に審査要完了)

○罰則の一部軽減化(例:脱税の場合、関税不足額の0.5~4倍の罰金)

○報奨金(注1)に上限〔押収品売却額の40%+500万バーツ(約1,700万円、1バーツ=約3.4円)が上限〕

○犯罪の立証責任は、検察側に(有罪と立証するハードルがより高く)

同弁護士によると、こうした変更から、今後、企業とタイ関税局との間で係争が発生した場合、審査などの手続きのスムーズな処理が期待されるほか、企業は必要に応じて裁判所へ提訴し、司法手続きの中で弁明し、公平な裁判所の判断を仰ぐという選択肢が活用され得る。裁判の判例が増えれば、脱税行為における「故意」の有無など、犯罪の立証基準がさらに明確化され、今まで以上に問題が迅速に解決され得るという。

今後は関税の事後監査の取り締まりを強化か

同じくベーカー&マッケンジー法律事務所バンコクオフィス・パートナーのパンヤー・シッティサコンシン弁護士によると、昨今の貿易円滑化に向けた各国の取り組みを背景に、タイも輸出入時の通関手続きを迅速化させている。しかしその一方、事後監査など輸入後の取り締まりを強化する可能性があるという。特に近年は、自由貿易協定(FTA)利用時の関税分類や原産地証明の有効性などに監査の焦点が当てられ、これまでに以上に調査する内容も複雑化、高度化しているという。

日系企業が特に留意すべき関税監査の内容として、親会社へのロイヤルティー、輸入ライセンスの取得漏れ、関税分類(HSコード)の相違が挙げられる。

具体的には、多くの在タイ日系企業が、ロイヤルティーとして日本の親会社に資金・利益の還流を行っていることから、タイ関税局も日系企業への監査において、ロイヤルティーに係る価格の計算方法などを調べる傾向があるという。

また、日本本社のエンジニアが、タイ工場の機械修理のため必要な部品を持って訪れる際も留意が必要だ。当部品が本来輸入ライセンス取得対象品目であるのに、ライセンスを取得せず出入国していることを理由に、タイ関税局から密輸と判断される可能性がある。

さらに、タイでは2017年1月から、採用するHSコードが変更されている(注2)。変更に気付かずそれ以前のHSコードを自社製品に適用してタイに輸入し続けている場合、タイ関税局との間で、HSコード分類に関して認識の相違が発生する可能性がある。

パンヤー弁護士は、日本企業はこうした関税監査の傾向や留意点を踏まえ、事前教示制度の活用によるトラブルの事前防止や、問題発生時の権利や義務の事前確認をすることが必要と指摘する。

タイ政府は、新法の施行後、関連する細則を公布し、各項目についてより具体的に規定していく方針だ。今後の新たな規定の発表などにも注意を払う必要がある。

(注1)報奨金:密輸、禁制品の輸入などの関税法違反を発見した場合、税関職員と情報提供者に対する報奨金が支払われる制度。

(注2)タイでは、2017年1月1日から、2017年版関税分類表であるHS2017(AHTN2017)を運用しており、それまで利用していたHS2012(AHTN2012)から変更されている。

(田口裕介)

(タイ)

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