債務危機回避を狙い反米左派諸国との連携を強化-経済・外交とも先行きは不透明-

(ベネズエラ)

米州課、ボゴタ発

2017年11月27日

ニコラス・マドゥロ大統領は7月の制憲議会発足後、行政・立法・司法の三権を集約し、国家選挙管理委員会の主導権をも握った。米国や欧州からの追加制裁はベネズエラ経済に打撃を与えるものとなった。政府は対外債務危機の回避を狙って反米左派諸国との関係強化に力を入れているものの、国内経済・外交とも先行き不透明な状況が続いている。

三権を制憲議会に集中

ベネズエラは歳入の96%を原油輸出に頼っており、近年の原油価格下落に伴う外貨不足を背景に、高インフレ、物資不足に見舞われ、物価統制策が続いている。4~7月には反政府デモが活発になり、死傷者は約2,200人、逮捕者は5,000人を超えた。こうした状況の中、マドゥロ大統領率いる与党の統一社会党(PSUV)は7月30日に新憲法制定のための制憲議会(ANC)選挙を強行し、545の全議席を獲得して、8月4日に制憲議会を正式発足させた。またマドゥロ大統領は超法規的に行政・立法・司法の三権を制憲議会に集約し、さらに国家選挙管理委員会(CNE)の主導権も握った。

マドゥロ大統領は制憲議会発足直後に、12月10日に実施予定だった統一知事選挙を10月15日に前倒しすると発表し、短期間で全国レベルでの中央集権化に着手した。同選挙では、事前の通告なしに投票場所を変更する、野党連合の立候補者の選挙ポスターを掲示させないなどの操作が行われたとされる。投票前の予想では野党連合が有利とされていたが、結果は与党が全23州中18州で勝利した。野党はアンテソアギ州、メリダ州、ヌエバエスパルタ州、タチラ州、スリア州の5州で勝利したが、これらの州はコロンビア国境や離島なのでコロンビア側から生活物資などを比較的入手しやすく、伝統的に反政権の地盤となっている。

米国とEUは段階的に制裁を強化

制憲議会選挙が強行されたことを受け、米州12カ国の外相は即座に同選挙を認めないとの声明を発表した。8月5日には南米南部共同市場(メルコスール)の臨時外相会合が開催され、2016年12月に一時的としていたベネズエラへの加盟資格停止状態を無期限延長するという宣言を出し、左派政権から中道右派政権への転換が相次ぐ南米諸国との対立が一層鮮明になった。

7月31日には米国がベネズエラに対する追加制裁措置を発表し、財務省外国資産管理局(OFAC)が米国におけるマドゥロ大統領の全資産を凍結した。制憲議会の正式発足後、米国はベネズエラ政府関係者8人を制裁対象に加え、8月25日には大統領令第13808号により追加制裁を発表し、ベネズエラ政府や国営石油会社(PDVSA)と傘下の米国子会社シトゴ(CITGO)の米ドル建て債権の取引を禁止した。

シトゴはPDVSAの100%子会社でテキサス州、イリノイ州、ルイジアナ州に製油所、米国内に48カ所の石油ターミナル、20州に約6,000カ所の給油所を運営するPDVSAおよびベネズエラ政府の外貨の稼ぎ頭だ。しかし、政府は債務返済資金の調達を目的に、2016年11月に株式の50.1%を担保にクリスタレックス(カナダ)とコノコフィリップス(米国)から2020年返済の34億ドルを、12月には残りの49.9%を担保にしてロシア国営石油会社ロスネフチから15億ドルを調達している。

ベネズエラの原油はオリノコ川北岸流域で産出するオリノコタール(超重質油)で、シトゴの米国3州の製油所で精製しており、米国政府はベネズエラ国内への重大な影響と米国内への原油供給の観点から原油の禁輸は発表しなかったとされている。

10月15日の統一知事選挙においては、運営と発表が公正なものではなかったとして、米国がベネズエラ政府の閣僚および選挙管理委員会幹部の合計10人を制裁対象に追加した。また11月13日にはEUが対ベネズエラ武器禁輸を決定した。

中国やロシアなどにも支援求める

ベネズエラへの各国の制裁発表を受け、左派政権諸国はベネズエラ支援に乗り出すとともに、ベネズエラも中国やロシアなどに支援を求めている。8月8日、反米左派政権国同盟である米州ボリバル同盟(ALBA)の首脳会議で制憲議会の正当性を公式発表し、統一地方選挙後には同じく反米左派のボリビアのエボ・モラレス大統領が、米国のベネズエラ制裁を非難する声明を発表した。

マドゥロ大統領はOPECの会合に合わせ外遊し、10月6日にアルジェリア、ロシア、ベラルーシ、トルコと相次いで首脳会談を開催し支援協力に関する覚書を取り交わした。

物価統制政策や対外債務再編を発表

経済システムや物価統制政策においては、8月25日の米国の追加制裁による米ドル建て債券取引の禁止を受け、8月31日の入札を最後に「補足的なフロート制為替レート(DICOM)」システムでの米ドルの供給を停止した。また、国内のインフレ抑制のため、9月7日に最低賃金と食料補助額を改定(政令3068、3069)し、最低賃金を40%引き上げた(2017年の改定は1、5、7月に続き4回目)。同時に米ドル以外の通貨建て決済システム(通貨バスケット制)の採用や、電子決済時の付加価値税(IVA)を200万ボリバル未満は3%、200万ボリバル以上は5%割り引くことも決定した。また同時にロシア政府が対ベネズエラの債務再編交渉を開始すると公表した。11月14日には協定価格法(Ley Constitucional de Precios Acordados)を制定し、50の財・サービスの価格上昇を凍結した。

マドゥロ大統領は11月7日、国債とPDVSA社債を含めたベネズエラの対外債務残高が約1,200億ドルに達したと述べた。また中央銀行によると、外貨準備高は11月1日に100億ドルを下回り、15日時点では96億8,800万ドルとなっている。10月と11月に国債利子、PDVSA社債の元本と利子の支払いが予定されていたが、期日までに履行されなかった。マドゥロ大統領は11月3日に対外債務の再編を行うと発表し、13日に政府はカラカスにおいて債権者との債務再編交渉会議を開催した。しかし参加者は当初予想の400人を大きく下回り数十人にとどまったもようだ。こうした状況下、11月14日には、スタンダード&プアーズ(S&P)はベネズエラの外貨建て長期国債の格付けを「選択式デフォルト(SD)」に引き下げ、フィッチ・レーティングスは国債2銘柄を「制限的デフォルト(RD)」に引き下げると発表した。また、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)は16日、PDVSA 2017年償還債、2027年償還債(利払い)、2019年と2024年国債償還(利払い)についてデフォルト状態にあると判定したが、投資家はベネズエラ政府およびPDVSAの返済意思を受け入れ、市場に大きな混乱は招かないとしている。

海外の大手格付け会社の引き下げ発表と同日に、ベネズエラに200億ドルの融資を行っている中国は「適切な返済スケジュールにのっとり処理されることを信じる」と静観の姿勢を示した。他方、ロシアが15日に、31億5,000万ドルの融資返済期間を10年間、うち最初の6年間は最小限にするという合意に至ったと公表すれば、14日にはブラジルが2億6,200万ドルの返済を求めパリクラブ(主要債権国会議)への通達意思を発表するなど、ベネズエラとの関係の深さによって債権国の対応もさまざまだ。

(志賀大祐、高多篤史)

(ベネズエラ)

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