ブレグジットに伴う技術標準・型式認証の混乱回避を-欧州農業機械工業連合会、農業生産者のリスク軽減求め意見書-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年11月22日

欧州農業機械工業連合会(CEMA)は11月21日、英国のEU離脱(ブレグジット)に伴う農業機械貿易の混乱や農業生産者の経営リスクの回避を意識した意見書を公開した。(1)EU・英国間の包括的通商協定締結と(2)英国での新たな国家農業政策(NAP)導入が柱だ。農業機械事業者の視点で、EUと欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国との原産地規則の援用や、農業機械の技術標準化・型式認証の在り方についての要望などに踏み込み、(2)としては、EU共通農業政策(CAP)の下、所得補償などの恩恵を享受してきた英国の農業生産者の権益を維持すべく、CAPに代わる農業補助政策の導入も求めている。

原産地規則はEFTA加盟国並みを目指せ

CEMAは11月21日、ブレグジットに伴うビジネス環境の混乱回避を念頭に、「どのような通商協定が必要か」「農業生産者・関連産業に対するリスクは何か」と題する意見書を発表した。同様の声明を欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体COPA-COGECAなど3団体も11月16日付で発表(2017年11月20日記事参照)しているが、英国を含むEU域内貿易に依存してきた農業とその周辺産業の危機感が鮮明だ。

意見書の中でCEMAは、(1)「EU・英国間の包括的通商協定」と(2)バランスの良い英国国家農業政策(NAP)を求めている。CEMAの分析によると、ブレグジットは英国の農業機械市場およびEU27カ国や英国の農業生産者・関係者の所得に悪影響を及ぼすと懸念されており、この対策として(1)および(2)が必要と主張する。(1)「EU・英国間の包括的通商協定」については、(a)EU・英国間の貿易に課される関税回避、(b)通関手続きがEU離脱後に複雑化しないこと、(c)(EUが)欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国と運用している原産地規則と同水準の対応、を確実にすべきと提言している。また、実務的な課題として、ブレグジット以降も、EUと英国政府は規制協力などの枠組みを通じて規制や技術標準などの収束に取り組むべきとも指摘した。

英国は欧州の標準化・型式認証の枠組みに残留すべき

CEMAは農業機械産業を直接的に規制するEU法令などを例示し、開発・検査業務などの混乱を回避するため、ブレグジット以降も同等性が保たれる法令の英国としての導入を求める姿勢だ。特に以下の主要3法令については、農業機械産業にとってのコンプライアンス・コスト(法令準拠に要する諸経費)の85~90%を占めることから留意が必要としている。

○「ガス状・粒子状汚染物質の要件および非道路走行機械用エンジンの型式認証の要件に関わる欧州議会・理事会規則」(EU/2016/1628)

同規則に関してCEMAは、ブレグジット以降も英国政府として同等の法令を整備することを求めている。

○「農業用および林業用車両の認証・市場調査に関わる欧州議会・理事会規則」(EU/167/2013)

同規則については、英国規格協会(BSI)が欧州標準化委員会(CEN)の加盟を継続し、欧州全体のデータアクセスに関する標準策定を所管する欧州電気標準化委員会(CENELEC)や欧州電気通信標準化機構(ETSI)などにも残留することが、ブレグジット以降も欧州標準を英国が共有する上で重要になると指摘している。また、農業機械に直結する課題対応では、英国車両型式認可機関(VCA)が欧州全体の車両型式認証機関のネットワークにとどまり、その一体性を前提として、EU27カ国または英国で型式認証された農業機械が双方市場に流通できることが重要との認識を示した。CEMAとしては、ブレグジット以降も英国が欧州の標準化・認証システムの基盤をこれまでどおり共有することで、EU27カ国と英国の相互流通を担保したい構えだ。

○「欧州機械指令」(2006/42/EC)

同指令について、CEMAは短期的には大きな問題は想定されないとしているが、「ヒトの自由移動に関する特別な協定」や「(関税復活に伴う)取引の断絶を回避するための移行期間」が必要になると指摘している。なお、「ヒトの自由移動」を担保する必要があるとする事由について、CEMAは「農業機械には高度に専門化した機種(例えば、ジャガイモやテンサイの収穫機など)があり、その保守・修繕エンジニアが限られる一方、特定作物の収穫期に人材需要が集中するなどの特殊事情がある」としている。これは、同指令で求められる機械の安全性を確保するためには、EUと英国の間での技能者の柔軟な移動が必要なためと考えられる。

CAPに代わる英国農業生産者の所得補償策導入を

今回の意見書の中で、CEMAが求めている柱に、(2)バランスの良い英国における「国家農業政策(NAP)」導入もある。EUでは加盟国の農業生産者の所得補償を図る共通農業政策(CAP)が長らく運用されており、現時点では英国もその恩恵を享受している。CEMAによると、CAPに基づき、農業生産者の所得減少を補填(ほてん)するためEUが英国の農業生産者に対して行う直接支払いは、それら農業生産者の所得の62%に達するという。このため、ブレグジット以降も、CAPの後継として農業生産者の所得補償を行う新たな国家農業政策(NAP)が必要というのがCEMAの立場だ。

ブレグジット以降、CAPに基づく農業生産者への直接支払いは打ち切られるが、その前に英国政府としてNAPについての展望を明らかにする必要があり、速やかに英国における新たな農業政策の構想が提示されることで、英国の農業生産者は農業機械調達などの投資計画を検討することができるようになる、とCEMAは指摘している。

また、CEMAは英国のNAPに基づく重点支援対象分野として、インターネット技術などを駆使して農業経営の合理化を図る「精密農業」を挙げている。CEMAとしては、最新鋭の農業機械導入に向けた需要刺激の狙いもあるとみられるが、英国の農業の競争力向上や持続可能性確保に貢献できるとしている。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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