自然災害防止・管理基金の徴収が強化-11月施行の新政令の罰則規定に要注意-

(ベトナム)

ハノイ発

2017年10月26日

ベトナムでは昨今、日系を含めた進出企業に対して、自然災害防止・管理基金(以下、自然災害基金)の徴収が強化されている。同基金については法令上の根拠が既にあるものの、実際の徴収は地方ごとに行われ、タイミングにばらつきがみられた。一方、2017年11月から施行される政令において、同基金に未納の場合の罰則が明記されており、今後、全国的に徴収強化が予想されることから注意が必要だ。

企業が従業員分も徴収・納入する必要

自然災害基金は、2014年5月1日施行の災害防止法(33/2013/QH13)第10条、および2014年12月8日施行の政令94/2014/ND-CP(政令94号)が根拠となっており、各地方の人民委員会レベルで設置、管理される(同政令第4条)。基金の主な使途は、(1)自然災害発生時の救援、復旧活動支援(被災者への食料、飲料水、医薬品の援助や家屋・病院・学校の修復支援など)、(2)災害対応活動の支援(避難活動や災害警戒活動への支援など)、(3)防災活動の支援(防災計画作成への支援など)とされる(同第9条)。基金への拠出(注1)は、「企業(注2)貢献分」と「従業員貢献分」などに分けられている。

「企業貢献分」は、ベトナムにおける年間財務報告に基づく資産価格の0.02%分〔ただし、最低50万ドン、最高1億ドン(約2,500円、約50万円、1ドン=約0.005円)〕を年間で納めることになっている。同費用は、経費算入が可能だ(同第5条)。ただし、自然災害の被害を受けたことにより、総資産の0.02%以上の資産・設備を購入、補修した場合や、5日以上の操業停止を余儀なくされた場合は、支払いが免除される(同第6条)。また、法人税の減免を受けている企業に対しては、自然災害基金への支払い免除または延期を考慮すると規定されているが(同条)、具体的な対象や方法は不明だ。

「従業員貢献分」は、満18歳以上、定年年齢までの労働者が対象で、年間1人当たり各地域の最低賃金日割額を納める(同第5条)。同貢献分については、企業が徴収して納入する必要がある(同第8条)。また、自然災害、感染症、火災、事故の被災者は免除対象となっている(同第6条)。

支払期日については、「企業貢献分」は支払総額の少なくとも50%を毎年5月30日までに、残額を毎年10月30日までに納付すること、また「従業員貢献分」は毎年5月30日までに一括で納付することとなっている(同第8条)。

11月以降は未納の場合の罰金も規定

2017年11月1日から施行される政令104/2017/ND-CPの第11条において、自然災害基金に対する未納の場合の罰則が規定されている。同条では、「企業貢献分」と「従業員貢献分」のそれぞれに対して、期日までの支払い状況に応じ、年間貢献分と同額、1.5倍、2倍までの3段階(ただし、最低5万ドン、最高5,000万ドン)で罰金を支払うこととされている。

例えば、「企業貢献分」については、10月30日までに最初の支払いがされず、12月31日(当地会計年度の終了時)までに残額が支払われなかった場合や、「従業員貢献分」が12月31日までに全額支払われない場合には、それぞれ年間貢献分の2倍に相当する罰金を支払わなければならない。

社会保障費の場合、当局に指摘を受けて納付した費用および罰金に対し、税務当局から経費算入を否認されている例があるが、自然災害基金に対しても同様の運用がされる可能性も否定できず、注意が必要だ。

近隣企業との情報共有に基づく対応を

政令94号の発効後、地方省ごとに基金への拠出を企業に求める公文書が順次発行されており、2015年以降、日系企業が進出している各省市でも発行が確認されている。一方で、公文書の内容が不明確な場合もあり、当局に確認が必要なケースもあるようだ。

当地日系企業の中には、基金への拠出に関しては法令上の規定であるため順守の必要があるとしつつも、「従業員貢献分」を企業側が徴収することに対する従業員や労働組合からの理解を得るのが難しいと戸惑いの声が出ているほか、法令で明確になっていない「企業貢献分」の減免・延期手続きや対象について明確化すべきだ、との意見も聞かれる。進出企業においては、同じ省・市内でも地区によって徴収状況に差があるため、近隣の企業同士で情報共有を行いつつ、対応方針を検討していくことが求められる。

このように当地では、企業側に金銭的負担を伴うような法令改正について、事前に行政側から十分な周知がなく、突如、対応を迫られるケースがしばしば見受けられる。行政による法制度の不透明な運用については、当地に進出する際の投資環境上のリスクとしてあらためて認識しておく必要があるといえるだろう。

(注1)条文上は「貢献」と規定されている。

(注2)条文上は、「独立会計を持つ経済組織」と規定されている。

(竹内直生)

(ベトナム)

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