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ブレグジット、企業はさまざまな事態を想定して準備を-ラスムセン・グローバルの上級顧問に聞く-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年10月03日

英国のEU離脱(ブレグジット)交渉は、これまでのところEU側の求める優先課題の協議に終始し、通商協定を含むEUと英国の将来関係が見通せない状況が続いている。こうした中、企業としてEUや英国の意思形成に働き掛ける場合、どのようなアプローチがあり、どのような点に留意する必要があるのか、駐英デンマーク大使を務めたラスムセン・グローバルのビルガー・リース=ヨルゲンセン上級顧問に聞いた(9月28日)。

英国をEU単一市場の一部とみてきた全企業に影響

ラスムセン・グローバルは、2009~2014年にNATO事務総長を務めたアナス・フォー・ラスムセン元デンマーク首相が2014年10月に設立したシンクタンク・コンサルティング事業者で、本部はデンマーク・コペンハーゲンに置くが、ブリュッセル、ベルリン、ロンドン、米国・ワシントンなどに拠点があり、ブレグジット問題をはじめとする地政学リスクの分析や戦略提言、顧客への国際ネットワーク形成支援を行っている。欧州、北米など環大西洋の有力政治家・有識者に強力な人脈を有することが強みだという。なお、ビルガー・リース=ヨルゲンセン氏は2006~2011年に駐英デンマーク大使を務めている。

リース=ヨルゲンセン氏は「現在のところ、ブレグジット交渉は(1)英国の財政的責務、(2)双方市民の権利保障、(3)アイルランドと北アイルランドとの国境問題、の基本問題に終始し、第1段階を抜け出せていない」「(英国以外の)EU27カ国首脳がEU離脱に向けた(第1段階交渉の)『十分な進捗』を認めた場合に限り、(通商協定を含む)将来関係に交渉の軸足を移すことができるが、そうした交渉の第2段階が始まるまで、EUと英国の将来関係を見通すことは難しい」と不透明な現状に懸念を示す。

このため、同氏は「ブレグジットがほぼ避けられない今、企業は通商協定を伴わない離脱など不測の事態を含めて全ての状況を想定して準備すべき」と警告する。産業界へのブレグジット問題の影響は「業種により異なるが、英国をEU単一市場の一部として捉えてきた全ての企業に直接、間接に及ぶ」「これには関税同盟のほか、EU単一市場の中での(越境)データ交換、労働者の雇用などさまざまな要素が絡むため、おのおののシナリオが持つ意味を自社の視点で専門家と検討し、何を準備すべきか熟慮しておく必要がある」と指摘する。

分野に応じた有力者への働き掛け方を指南

ブレグジット問題の関係では、EU27カ国と英国双方の有力者とのパイプを持つことがラスムセン・グローバルの強みだとしている。同社は顧客企業のさまざまな状況を想定して、異なるシナリオを提示し、事業戦略への助言を行う。このためには、EU側と英国側双方の専門家の視点が必要だという。また、情報収集・分析、事業戦略立案にとどまらず、こうしたパイプを活用することで、企業として「攻めの展開」を模索することも重要と指摘する。例えば、EU27カ国、英国双方の政府が、産業界の状況を考慮しながらブレグジットに向けたさまざまなシナリオを想定しているが、このプロセスにおいて産業界の声を適切に打ち込んでおくことが企業にとって大事だという。ただし、同社が顧客企業の立場を良い方向に導くためには、分野に応じて「誰が影響力を持つのか」「そのために最も有効なパイプは何か」を検討し、顧客企業に助言することが重要な役割と語る。

国際標準形成をめぐる主導権は難題に

ブレグジットの経済・産業への影響については「製造業は英国のEU単一市場からの離脱で関税復活に直面し、従前のサプライチェーンに変化が生じる可能性があること、金融サービスや航空サービスなどの分野でも、従前の自由なEU・英国間のサービス展開が阻害される可能性があること」などを想定している。ただ、各企業の事業実態により、影響は異なるため、「産業界全体を包括する処方箋は難しい」とし、各社の事情に則した状況分析・戦略立案が必要だとしている。

また、同氏は「ブレグジット以降のEU・英国の将来関係をめぐる議論では、これまでEUとして進めてきた国際標準や技術規格・基準の形成について、調整が難しい状況が懸念される」と指摘し、「EU法を英国法に取り込む離脱協定の効果で、EU単一市場における規制・基準に(英国も)収れんする可能性が高い。英国政府もブレグジットに伴い(英国の)商品規格・基準が脆弱(ぜいじゃく)化することはないと認めている。しかし、これは既存の規制・基準に関することで、今後の新たな規制・基準については英国政府の裁量権は留保される」という。このため、今後、「(EU・英国が)相互に合意できる規格・基準の在り方をめぐる議論が浮上する可能性がある」として、この国際標準形成をめぐる主導権の問題が「ブレグジット交渉・第2段階の難題の1つ」と見立てる。

誰に働き掛け、声を届けるかが大切

またリース=ヨルゲンセン氏は、欧州でビジネス展開する日系企業に対するアドバイスとして「誰に働き掛け、声を届けるかが大事」という。例えば、英国の事例では、ブレグジット問題をめぐってほとんどの産業団体や多くの企業がEU離脱省(DExEU)や国際通商省(DIT)あるいはその他の行政機関に働き掛けを行っている。これらの省庁がブレグジット問題に影響力を持つのは事実だが、「保守党の若手議員が意思決定のプロセスに影響力を持つことも忘れてはならない」と指摘する。「特に6月の英国下院議会の結果(2017年6月12日記事参照)、保守党内でのテレーザ・メイ首相の発言力が弱まっていることにも留意する必要がある」「時には無名議員にしっかりした事情説明を行う方が、閣僚との(表面的な)面談よりも、影響力を持つ場合もある」という。

また同時に、ブレグジット問題をめぐっては「メディア戦略」も検討する必要があるという。EU側でも英国側でも報道機関(メディア)は「ブレグジット問題の産業・企業に対する具体的な影響に関心が強い。報道機関によってスタンスに違いはあるが、ジャーナリストは楽観・悲観の両面から具体的な事例を探している」「報道されることで政治家の意思決定に影響力を持つことにもなる」とし、働き掛けにもさまざまなチャンネルがあることを示唆した。

最後に同氏は、「準備を怠ることは、失敗の準備をすること」との格言を引用し、ブレグジット問題をめぐって「英国政府の発言を額面どおり受け止め、多くの企業が様子見状態」にある現状に苦言を呈する。「無論、私もEUと英国が『特別で包括的な協定』なるものに活路を見いだすことができればよいと思う。しかし、それが失敗するリスクが日増しに高まっている。日系企業も欧州における拠点展開の再編を部分的にでも検討した方がよいと思う。もともと日系企業の欧州の事業拠点は総じて英国に偏り過ぎている傾向がある。デンマーク、スウェーデン、エストニアなど欧州北部には、日本とよく似た透明性の高い、社会基盤の整った国が多い」と語り、拠点再編を含めた取り組みの検討も必要との持論を述べた。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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