欧州委、農地取引規制のガイドラインを公表-投機的取引や所有独占を警戒-

(EU)

ブリュッセル発

2017年10月16日

欧州委員会は10月12日、EU加盟国による農地取引規制のガイドラインを公表した。EU司法裁判所の判例などを援用し、加盟国としての農地取引規制の範囲などについて具体的指針を示した。投機的売買や所有独占などからEU域内の農地を守ることが目的だが、新たな農地取得者を長期居住者に限定するなど、中・東欧(旧共産圏)の加盟国の一部が導入していた規制については、域内の資本の自由移動の原則をゆがめ、EU法違反に相当するとの立場を取っている。

EU司法裁判所の判例などを援用

欧州委が発表した農地取引に関わるガイドラインは、過熱する投機的な売買や所有独占などからEU域内の農地を守ることを目的としており、EU司法裁判所の判例などを援用し、EU加盟国として農地取引を規制できる範囲などについて具体的な指針を示している。

それによると、EU司法裁判所の判例に示されているとおり、下記に該当する規制が認められるとしている。

(1)当該国の当局による農地取得に関する事前承認

(2)取得対象の農地面積に対する制限

(3)農地を取得しようとする特定の主体に対する先買権付与を事前に設定すること(要件を満たす取得希望者に優先的に売却できる)

(4)売買価格の国家統制

しかし今回のガイドラインは、自国居住者であることを農地取得の要件と定める(外国投資家は取得できない)などの制限は差別的だとして、EU法に抵触するとの考え方を明らかにした。

今回のガイドラインは、越境投資を不当に阻害する規制についてもEU法違反との見解を示した。例えば、

(1)農地取得者を自作農業生産者に限定すること

(2)農地取得から企業を排除すること

(3)農地取得の前提条件として、農業生産実態の要件を求めること

については、これまでのEU司法裁判所の判例から特に不当性が強いとしている。

EUの大原則「資本の自由移動」を優先

EUでは、農地は地方・農村開発のための希少かつ特別な財産であり特別な保護に値すると考えられ、これまで幾つかのEU加盟国が農地売買に規制をかけていた。他方で、EU域内の資本(取引)の自由移動は越境投資を確保するために極めて重要な(EUとしての)大原則であることから、その両立が課題となってきた。欧州委は、外国投資はEU経済にとって資金・技術・情報などの重要な供給源であり、農業生産性、地域事業融資へのアクセス改善に資するとしている。

しかし、欧州委としてはEU域内の資本の自由な越境移動を保障する立場から、他のEU加盟国の投資家(個人あるいは法人)に対して差別的で、越境投資を不当に阻害する恐れのある農地取引規制について、6月にハンガリー、チェコ、ポーランドを対象とした(EU法)違反調査手続きを開始している。

また、欧州委は2016年5月に、ブルガリア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、スロバキアの農地取引規制の一部がEU法違反に相当すると判断、EU法に準拠するよう規制見直しを要請した。2004年5月以降にEU加盟を果たした中・東欧(旧共産圏)の国々には、農地市場への西欧資本の急速な参入に伴う農業運営の混乱に警戒感が強く、新たな農地取得者を長期居住者に限定するなど独自の規制を設けている国が多かった。またEUとしても過渡的措置として、これらのEU法に反する規制の残存を認めてきた。

しかし、2017年3月に欧州議会が欧州委に対して、土地取引規制の基準の明確化を促す報告書を発表し、EU加盟国としての農地取得規制の在り方に統一方針を示すように求めていた。今回発表されたガイドラインは、この欧州議会の要請に対する欧州委の回答と位置付けられる。

(前田篤穂)

(EU)

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