積極的なインフラ投資で地域間格差を解消-フィリピン経済ブリーフィングを都内で開催(2)-

(フィリピン、日本)

マニラ発、アジア大洋州課

2017年10月12日

ドゥテルテ政権はフィリピン史上最大となるインフラ関連公共支出をうたっている。トゥガデ運輸通信相は、マニラ首都圏の地下鉄や高速道路網プロジェクトを紹介し、インフラ投資を通して地域間格差を解消していく姿勢を示した。ジェトロが9月26日に東京都内で開催した「フィリピン経済ブリーフィング2017」について報告する後編。

鉄道や高速道路網整備に大型投資

ドゥテルテ政権の経済政策(ドゥテルテノミクス)の中核をなす大規模なインフラ整備計画「ビルド、ビルド、ビルド」について、ディオクノ予算管理相とビリヤール公共事業道路相は、過去50年間のインフラ投資が平均してGDP比2.6%だったことを引き合いに、「現政権で1,600億~1,700億ドルを公共投資に充てる。政府のインフラ関連支出を、2017年のGDP比5.4%から2022年には7.3%へ引き上げる」と積極的な公共投資政策をアピールした。

進行中・計画中のインフラプロジェクトについてトゥガデ運輸通信相は、ツツバン~マロロス間、クラーク~スービック間などの鉄道を整備することで、鉄道の総延長距離は2022年末までに1,900キロになると述べた。また、マニラ首都圏の地下鉄建設計画については、11月にマニラで開催されるASEAN首脳会議の際に調印式を行う。2021年完工予定だが、ドゥテルテ大統領任期中に一部を開通させる。総延長距離31キロの区間に14の駅を建設し、1日当たり37万人の利用を見込んでいると紹介した。

ビリヤール公共事業道路相は、交通渋滞のため毎日24億ペソ(約52億8,000万円、1ペソ=約2.2円)の経済損失が発生している現状を踏まえ、渋滞緩和のために大きな投資を行う考えを示した。渋滞緩和プログラムを行うほか、ルソン島を南北に横断するルソン・スパイン高速道路網プロジェクトでは、300キロの高速道路網を654キロに拡大する。地方経済を活性化させることで、マニラへの経済活動の集中を避けて地域間格差を是正する狙いだ。日本の援助で建設が進められるプラリデルバイパス建設事業については、2車線24キロの道路が2018年にも完成し、その後4年をかけて4車線に拡張されると述べた。

民間は外資のさらなる参入に期待

パネルディスカッションでは、フィリピン側から各大臣、エスペニリャ中央銀行総裁、ディゾン基地転換開発公社最高経営責任者(CEO)に加えて、民間代表としてSMインベストメンツのテレシタ・シー・コソン副会長、GTキャピタルのアルフレッド・ティ副会長兼トヨタモーターフィリピン副会長が、日本側からは三菱商事地球環境・インフラ事業グループ付特命担当の天野善夫氏、ジェトロの佐藤百合理事らが登壇した。

ジェトロの佐藤理事はフィリピンにおける日本企業の現状として、この10年で進出日系企業数は2倍以上に増加しているだけでなく、営業利益の黒字を見込む日系企業の割合が2016年は77.5%に達し、ASEANの中で最も業績は好調だと説明した。他方、フィリピンのビジネス環境については、「英語人材が多いことや税制優遇が評価されている一方、国内の市場アクセス、サプライチェーン、インフラなどが不十分だ」とし、現地企業からの声として、原材料や部品の現地調達が難しい、従業員の質が不十分、品質管理が難しいといった内容を紹介した。これに対しペルニヤ国家経済開発庁長官は、調達に係る規制や規則の見直しなど、ビジネス環境の向上に努めていると述べた。

コソン氏は「外国資本はビジネスパートナーにも競争相手にもなり得る」として、外資規制の緩和に肯定的な姿勢を示した。また、ティ氏は、持続的な経済成長のためにはインフラが不可欠とし、「民間としてインフラの黄金時代を歓迎する」と述べた。ディゾンCEOは、インフラプロジェクトを加速するためには、外資の参入だけではなく、官民連携(PPP)方式を導入し、民間の資金やノウハウを利用することが重要と述べた。メディアルディア官房長官は「政権の支持率は高く、国民は政府のビジョンを支持している。インフラプロジェクトが失敗する理由が見当たらない」と自信を示し、最後にトゥガデ運輸通信相が「この政権は計画したことを着実に実行し結果を出す。何世代にもわたるレガシーを残していく」と締めくくった。

写真 パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

(石原孝志、坂田和仁、渡邉敬士)

(フィリピン、日本)

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