高齢者産業に日本企業も参入のチャンス-大連市で座談会を開催-

(中国)

大連発

2017年10月04日

ジェトロは9月7日、大連市で日中(大連市)高齢者産業座談会を開いた。老人ホームを管轄する同市養老福利協会との共催で、同協会の董興華会長が、同市における介護施設の現状と日本企業参入のチャンスについて講演した。

介護サービスの拡充と人材不足が課題

大連市の老人ホーム数は約220カ所、ベッド数は約3万6,000床で、入居率は約45%(約1万6,000床)だ。董会長は施設の主な問題として以下の4点を挙げた。

第1に、要介護者向けの介護サービスが十分整備されているとはいえない。大連市の施設入居者に占める要介護者の割合は、2013年の30%弱から2016年には約46%まで増えているが、専門的な介護サービスを提供する施設は十数カ所にとどまっており、要介護者にとって満足のいく介護サービスが十分普及しているとはいえない。

第2に、施設のハード面の整備やサービスの基準が統一されていない。施設の多くは、大連市の養老サービス市場が拡大し始めた十数年前に建設されており、入居者にとって使いやすい設計になっていない。同様にサービスの基準も統一されていないという問題がみられる。

第3に、施設における人材不足がある。施設で勤務するヘルパーは、40~59歳の女性が70%以上を占めている。そのうち高校卒業後に進学した人は15%ほどで、介護サービスや高齢者のメンタルケアといった専門知識を習得している人材は少ない。また、離職率も高いため従業員教育に消極的な施設が多く、ヘルパー全体のスキルアップができていない。

第4に、社区(注)における介護サービスが整備されていない。大連市には社区養老サービスセンター(デイサービス施設)が約250カ所あるが、主に健常者が麻雀やダンスなどを楽しむ機能しかなく、介護サービスの提供はほとんどない。

介護・医療・社区の老人ホームにニーズ集中

その上で、董会長は「大連市における高齢者産業のニーズは、介護サービス、医療サービス、社区に隣接する老人ホームに比較的集中している」として、次のように話した。

まず介護サービスについては、中国では高齢者のみの世帯(中国語では「空巣老人」)のケアが大きな社会問題となっていることが背景にある。大連市も高齢者のいる世帯の半数近く(48.5%)が高齢者のみの世帯で、家庭の高齢者扶養機能が低下しつつあることから、要介護者向けの施設や介護サービスに対するニーズはさらに高まることが予想される。

次に医療サービスについては、施設内の医療サービスまたは医療機関との連携の有無が、高齢者とその家族にとって入居を決める大きな判断材料となっている。大連市では、医療・介護サービスを総合的に提供している施設への入居率が高く、経営状況も良い。

また社区に隣接する老人ホームについては、高齢者の家の近くにあり医療サービスの利用がしやすいことが背景にあり、今後もニーズが高まるものとみられる。大連市では施設の条件と比べ、立地の利便性や低価格を理由に入居率が高くなる傾向にあるため、日本企業が高水準かつ手頃な価格でサービスを提供できれば参入余地は極めて大きい。

日本製介護用品のリースに商機

最後に董会長は、大連市高齢者産業への日本企業の参入チャンスとして、以下の3点を挙げた。

1点目は、要介護者を主な対象とする介護施設分野への参入だ。大連市の要介護者数は約14万人と見込まれ、今後も要介護者向け介護サービスのニーズは高まるだろう。中国では依然として介護保険制度が整備されていないため、参入をためらう日本企業は多いが、既に一部の都市では介護保険制度の試験導入が始まっており、中央政府も全国展開に向けた検討を進めている。また、中央・地方政府は要介護者に対する補助を強化しており、介護サービスを取り巻く環境は徐々に変化してきている。

2点目は、在宅・デイサービスへの参入だ。大連市では在宅・デイサービスの供給が十分ではない。サービス提供のノウハウも乏しいため、豊富な運営ノウハウを持つ日本企業にとっては商機といえる。

3点目は、介護用品市場への参入だ。中国では日本製の介護用品に対する評価は高いものの、価格が高いために購買層は限られる。一般消費者に手の届く価格帯で商品を提供できれば、介護用品市場で中国企業と互角の勝負ができる。介護用品のリースも大連市においては取り組みが進んでおらず、運営経験が豊富な日本企業の参入可能性は高い。

(注)社区とは地域におけるコミュニティーの単位で、政府の末端の組織となる。地域の治安維持やごみ収集、ボランティア活動の募集などのほか、カルチャー講座、家政サービス、養老サービスなどを住民に提供する。

(呉冬梅)

(中国)

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