職業病で雇用者への民事請求も可能-広州で従業員の労災に関するセミナー開催-

(中国)

広州発

2017年10月04日

ジェトロは8月29日、広州で中国での労働災害(労災)の概要と個別事例などに関するセミナーを開催した。講演した弁護士によると、最近では従業員の権利を保護する観点から、職業病と認定された従業員は、労災保険の給付のほか、雇用者に対し民事賠償も請求できるという。

通勤時の負傷も労災に認定

セミナーでは、中倫律師事務所の朴松燦・弁護士が労災の概要、個別事例などについて、次のとおり講演した。

従業員には入社後1カ月以内に労災保険への加入が義務付けられている。保険料率は各地の社会保険部門により決定されるが、おおむね給与の1%程度だ。養老保険や住宅積立金と異なり、労災保険料には従業員個人の負担分がなく、全て雇用者の負担となる。なお、雇用者が労災保険に加入しないまま従業員が労災で死亡した場合、雇用者は労災保険の全ての給付項目を負担しなくてはならない。

従業員が社会保険部門に労災を申請し、認定されるのは以下の事由に該当する場合だ。

(1)勤務時間中かつ勤務場所で、業務上の原因で事故に遭い負傷した場合

(2)勤務時間中かつ勤務場所で、突然発病後に死亡した、または発病後48時間以内に救護のかいなく死亡した場合(持病で死亡した場合を含む)

(3)勤務時間中かつ勤務場所で、業務上の職責を履行する過程で暴力などの突発事故で負傷した場合

(4)勤務時間前後に勤務場所で、業務の準備または終業前の整理の際、事故に遭い負傷した場合

(5)勤務場所に有毒有害物質が存在、または雇用者の食堂で食事後、食中毒にかかり、入院治療の後、県級以上の衛生部門の検査を受けた場合

(6)職業病にかかった場合

(7)業務による外出中に、業務上の原因で負傷した場合

(8)通勤途中に従業員本人に責任のない交通事故(鉄道事故を含む)により負傷した場合

(9)国家、公共の利益の保護に当たり負傷した場合

一方で、上記(1)~(9)に該当する場合でも、次の場合は労災認定されない。

a.故意に罪を犯した場合

b.めいていまたは薬物を使用していた場合

c.自傷または自殺した場合

d.法律・行政法規が定めるその他事由(注1)

(8)の通勤途中とは、通常の通勤経路を指す。業務上の会食後、帰宅途中に事故に遭い負傷した場合も労災と認定される。また、従業員が通勤途中に無免許運転で事故に遭い負傷した場合は、公安部門により労災の原因が第三者と従業員のどちらにあるか、責任認定書を作成してもらう。

労災申請から給付まで2~3カ月

労災認定されるには、事故発生後30日以内に雇用者、または1年以内に従業員本人もしくは本人の近親者が区または県級の社会保険部門に、(1)労災申請書および労災事故報告書(事故の発生日時、場所、原因などを記載)、(2)雇用者との労使関係を証明する資料(労働契約書)、(3)医療または職業病診断証明書など、を提出する必要がある(注2)。

労災認定後は、労働能力鑑定、労働能力障害等級(注3)の確認を受ける必要がある。労災申請後、給付までには2~3カ月を要する。

労働能力鑑定とは、労働機能障害および生活障害の程度を鑑定するもので、治療期間終了後30日以内に労働能力鑑定委員会へ申請する必要がある。雇用者または従業員が鑑定結果に不服な場合は、15日以内に同委員会または上級の鑑定部門へ再鑑定を申請する。それでも不服な場合は、同委員会または上級の鑑定部門を相手に行政訴訟を起こすことも可能だが、勝訴の可能性は低い。

最近の判例から、従業員が同委員会から職業病と認定されると、従業員は労災保険の給付以外に、雇用者を相手に民事訴訟を提起し、障害賠償金、被扶養者生活費、慰謝料、栄養費などを請求できる。2015年の広州市の事例では、雇用者への請求額は計30万元(約510万円、1元=約17円)となるケースがあった。

社員旅行中の事故も労災との判決

近年、会社が福利厚生の一環で開催する社員旅行の際に従業員が負傷し、労災認定されたケースがある。一般的に、認定の際には以下の点が考慮される。

(1)活動での雇用者による組織的行為(主催など)の有無および交通手段の提供の有無

(2)活動が雇用者の福利厚生の一環か否か、また活動に業務効率や組織力向上の目的があるか否か

(3)雇用者が活動費用を提供したか否か

広州市のA社が社員旅行を実施した際、従業員が海で遊泳中に溺死した。遺族は区級の社会保険局に労災を申請したが、「業務による外出」に該当しないため、労災認定されなかった。その後、遺族が社会保険部門を相手に行政訴訟を起こした結果、広州市中級人民法院は、A社が旅行を主催し、かつ費用を負担していることから、旅行はA社の福利厚生の一環と判断し、労災認定すべきとの判決を出した。

上記のとおり、従業員が死亡し労災認定されると、社会保険部門から遺族に(1)葬儀補助金(前年度企業所在地の月額平均賃金6カ月分)、(2)労災死亡補助一時金(前年度全国都市居住者の1人当たり可処分所得の20倍)、(3)扶養親族救済金〔死亡した従業員の給与の一定割合(注4)〕が支払われる。2017年、広州市では(1)(2)を合わせ、給付額が約72万元となったケースがあった。

(注1)具体的な該当事例は、まだ法解釈がないため不明。

(注2)雇用者が30日以内に申請せず、従業員およびその家族が代わりに申請して労災に認定された場合、雇用者側には治療費、入院および食費、リハビリ費用などを負担する必要が生じる。

(注3)等級は1~10級で、労災保険給付額を算出する際の係数となる。昇級に比例して係数も上昇する。

(注4)救済金の申請の際には、(1)遺族に労働能力がない場合、(2)死亡した従業員の配偶者または両親が男性60歳以上、女性55歳以上の場合、(3)子女が18歳未満の場合のいずれかに該当する必要がある。

(粕谷修司)

(中国)

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