USTR代表、中国の脅威を名指しで批判-トランプ政権の通商政策の優先事項について講演-

(米国、中国)

米州課

2017年09月28日

ロバート・ライトハイザー米国通商代表部(USTR)代表は9月18日、ワシントンで行われた戦略国際問題研究所(CSIS)主催のセミナーで講演を行った。同代表は、米国の通商政策の優先事項として、(1)通商政策の転換、(2)貿易赤字の是正、(3)中国の脅威とWTO体制が抱える問題、(4)貿易協定の精査、の4点について説明し、中国を名指しで批判した。質疑応答では、トランプ政権の対アジア通商政策や米国とEUの包括的貿易投資協定(TTIP)、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉などについて答えた。

諸外国の非経済的行為に対し積極的に行動

ライトハイザー代表は、トランプ政権の通商政策の基本理念として、最初に通商政策の転換を挙げた。多くの市場は公平ではなく、各国政府は助成金や閉鎖的な市場、規則による制限といった複数の戦略によって自国に有利な成果を得ようとしており、長年にわたる協議でこうした問題が解決されない中、トランプ政権は「積極的に行動し、あらゆる手段で非経済的行為をやめさせ、国内外の市場で相互性を求めなければならない」と指摘した。

続いて、同代表は貿易赤字について「何十年にもわたり多くの国々に対し巨額の貿易赤字を抱える状況において、現行の貿易制度が問題を引き起こす一因だと考えるのが合理的」と述べ、他の先進国が高関税や国境調整税をかけたり、通貨切り下げを続けており、米国の輸出品に高関税が課されるのは公平とはいえないと指摘した。

中国は世界貿易システムにとって先例のない脅威

ライトハイザー代表は、世界の貿易システムにとって先例のない脅威として、中国を名指しし、「中国政府の助成金による自国企業の育成や技術移転の強要などが中国市場や世界市場をゆがめている」と批判した。そして、WTOやその前身のGATTが、中国のような規模での重商主義に対処できるように設計されていないため、米国企業や労働者、経済システムを守るため、トランプ政権は新たな対応策を講じる必要がある、と主張。また、中国の技術移転策や知的財産権の侵害について、USTRが1974年通商法301条に基づいた調査を開始したことについて、「調査中であり予見できないが、必要に応じて大統領に制裁措置を提案する」「301条を活用するのは米国が有する調査ツールだからで、調査の結果、対象措置についてWTO協定に該当する措置であればWTOに提訴し、WTO協定に該当しない措置であれば制裁措置を検討する」と発言した(2017年8月24日記事参照)。

WTOについて同代表は、「紛争解決制度は不完全で、透明性やスタッフに問題がある」「過去の紛争解決過程で、米国は交渉で得た権利が制限されたり、同意していない義務が課されたりする事例が、アンチダンピング、相殺関税、貿易救済措置などで多数ある」と指摘した。

また同代表は、米国が締結した全ての貿易協定が、米国に利益をもたらしているか精査しているとし、協定の発効から一定の期間が経過した中で、貿易赤字額やその他の要因が不均衡を示す場合は「再交渉を行うべき」と述べた。

2国間協定によりアジア地域への関与を継続

質疑応答の中で、ライトハイザー代表はトランプ大統領のアジア通商政策について、「2国間協定により、アジア地域への関与を続けていく」と答えた。トランプ大統領が複数国間や多国間の貿易協定より2国間の貿易協定を好む理由として、米国の経済規模は18兆ドルあり、個別に交渉した方が米国に有利な協定を締結できるとともに、2国間協定の方が協定の合意事項を執行しやすい点を挙げた。また、英国との2国間協定の締結について、同代表は「両国にとって有益な協定を締結することを確信しているが、英国のEU離脱の方向性が見えるまでは、いつ協議に入れるかは明確でない」と回答した。さらに、EUとの関係については「非常に重要で、TTIPを締結したいが、協議が進んでいない理由は欧州各国で選挙が続いているため」と発言した。

NAFTA再交渉を合意できるかは「分からない」

ライトハイザー代表は、カナダやメキシコとの「NAFTA再交渉は猛スピードで進めているが、合意に至ることができるかどうか、まだ分からない。交渉を急いでいる理由は、来年メキシコや米国で選挙があり、また交渉結果が農畜産業従事者や事業者に影響を与えるからだ」と発言した。2015年貿易促進権限法に基づき、トランプ政権はNAFTA再交渉の交渉目的やカナダ、メキシコとの協議の進捗などについて議会と緊密に協議する必要がある。同代表は「3カ国で同様のプロセスを行う必要があり、非常に困難な作業だが、今のところ非常によくやっている」と述べた。なお、米国がNAFTA再交渉で提案するとしている協定を5年ごとに自動的に見直す「サンセット条項」について、同代表はコメントを控えた。

(中溝丘、須貝智也)

(米国、中国)

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