知名度を向上させ、EC販売の拡大を目指す-ソレノイドメーカーのタカハ機工に聞く-

(日本)

アジア大洋州課、福岡発

2017年09月25日

タカハ機工は、福岡県飯塚市の中小電気部品メーカーだ。米国から撤退したかつての経験を糧に、電子商取引(EC)にも取り組み、欧米などからの受注を増やしている。独自のコンテストや拍手ロボットの生産、SNSでの情報発信といった取り組みを行い、知名度の向上と、オンラインショップを通じた直接販売の拡大を目指す。同社の大久保千穂取締役に話を聞いた(9月1日)。

部品メーカーの枠を超える取り組み

タカハ機工は、ソレノイドを製造する専業メーカーだ。ソレノイドとは、電磁力を利用して、電気エネルギーを機械的運動に変換する部品のこと。オートロックの仕組みに多用され、ホテルのドア、店舗レジ、自動販売機などに幅広く利用されている。

同社の強みは、ソレノイドの一貫生産体制だ。開発・設計から金型製作・メンテナンス、切削加工、プレス加工、プラスチック成形、組み立てまで、全て内製化している。大久保取締役は「ソレノイドの一貫生産ができるのは日本でも当社だけ。世界的にも珍しい」と話す。

2017年に入って、日本の大手メーカーから大口の注文があり、月によっては数量ベースで通常の5倍の量の製造を請け負う。納入先では海外向けの半導体機械の受注が増えており、その機械のセーフティースイッチにソレノイドが使用されている。

しかし、同社は好調な国内事業に安座しない。大久保取締役は「部品メーカーの枠を超え、もっと面白い取り組みをしていきたい」と語る。

写真 大久保取締役(ジェトロ撮影)

越境ECを通じて世界へ直接販売

タカハ機工は、ECを活用した直接販売に早くから取り組んでいる。「国内の部品下請けの仕事では、納入先メーカーからのコスト低減圧力が厳しい。その上、高品質が求められ、原価割れするような価格を求められることもある」と大久保取締役は説明する。

同社は、自社サイト内にネットショップを立ち上げ、260品目の直接販売体制を構築している。昨今、一般的な部品サプライヤーは、事業者向けECサイトに出品することが多いが、自社サイトでの直販にすることで、メーカーとの間で直接、技術的な相談をすることができ、買い手にとってもメリットがある。

海外向けでも、オンラインショップを通じて販売を伸ばしている。ソレノイドは用途が幅広いが、単価が低いため、少量の注文に応じるメーカーは世界でも少ない。タカハ機工は、2012年に海外向けのオンラインショップを自社サイト内に立ち上げ、これまで50カ国の企業から受注した。特にイタリア、オランダ、ドイツ、米国といった欧米諸国からが多い。同社は2017年3月、ドイツ・ハノーバーで開催されたモノのインターネット(IoT)、ロボットなどの先端技術の展示会「CeBIT 2017」の日本館に九州の中小企業として唯一出展し、欧州企業からも高い評価を受けた。また、ベトナムやインドネシアからもネット経由で注文があり、「今後はアジア向けも取り組みたい」と大久保取締役は意欲を示す。

現在は海外向けEC販売の拡大を目指し、英語版のアマゾンでの展開に取り組んでいる。「英語対応は難しくないが、初期登録や商品の登録が煩雑」だとし、「SEO(検索エンジン最適化)対策が不十分で、アクセス数が上がらない」ことも課題だという。

タカハ機工はジェトロの新輸出大国コンソーシアム事業を利用し、ECの専門家から「検索でヒットするよう、できる限り詳細な説明を入れた方がいい」という助言を受けた。大久保取締役は当初、海外ECサイトでは写真が多く、文字は少ない方がいいと考えていたが、「もっと早く専門家に助言を求めれば良かった」と話す。

海外への商品発送は基本的にはEMS(国際スピード郵便)だが、郵便サービスの質が良くない国に対してはDHL(ドイツ)を使う。欧州向けではオランダのTNTエクスプレス、ドイツのDBシェンカーなどを指定されることも多い。また、日本での金融インフラが整っていないことも課題として感じている。同社が利用する決済サービスは現在、PayPal(米国)のみだ。

米国からの撤退経験が糧に

タカハ機工は、過去に米国から撤退した経験がある。同社は1991年に、日本の大手プリンターメーカーの進出に伴い、米国バージニア州に現地法人を設立し、生産を開始した。大久保取締役も、米国子会社の社長だった夫の泰輔氏(現タカハ機工社長)と共に、二人三脚で経営に当たった。

日系企業以外にも販路を伸ばそうと努力したが、販売代理店には営業に力を入れてもらえなかった。商品単価が低いソレノイドの販売は、利益を上げづらいからだ。そこで、大久保取締役は直接販売をするため、当時米国で急速に発展していたインターネットの活用を思い付いた。

1999年に米国法人のウェブサイトを立ち上げたところ、テキサス・インスツルメンツ(米国)やヴァレオ(フランス)など、世界的に有名な大手企業から問い合わせを受けた。スペースシャトル向け部品の発注も舞い込んだ。「ソレノイドの需要は非常に大きかった。ただ、自社に大手からの注文を受けるだけの体制が整えられていなかった」と大久保取締役は振り返る。

その後、2000年ごろからは安価なプリンターが主流となり、中国製の部品が大量に米国に輸入され、納入先のプリンターメーカーのメキシコへの移転が決定。タカハ機工も2002年に撤退を余儀なくされた。しかし、この体験が現在、EC販売に生かされている。

知名度アップにあの手この手

インターネットなどを通じた直接販売のチャンスをつくるには、「知名度を上げることが大事」と大久保取締役は断言する。タカハ機工では、フェイスブックやユーチューブ、ツイッター、ブログといったSNSを活用している。学生などが利用できる工作・開発施設の設置や、ソレノイドを使った発明品コンテスト、ポスターコンテスト、漫画家とのコラボレーション、社員による音楽ユニットの結成、女性社員の増加を狙った化粧室のリノベーションといった新規性、注目度の高い活動を行い、インターネットを通じて動画などを配信している。

外国人観光客向けには、ジェトロの産業ツーリズムのページ(英文)に自社PRを掲載している。同社には、インドネシア、ベトナム、マレーシア、台湾などから技術を学びに視察団が来ることも増えている。

また、ベンチャー支援事業として、拍手ロボット「ビッグクラッピー」の量産も決定した。ビッグクラッピーは、バイバイワールド代表で、クリエーターの高橋征資氏が開発した自律ロボット。人を自動で感知し、拍手する機能や100種以上のセリフを話す機能を持つ。ビッグクラッピーには、タカハ機工製のソレノイドが使用されている。多言語対応も可能となる見通しで、大久保取締役は「2020年東京オリンピックでは、観光客の出迎えなどのシーンで、空港などへの導入を狙いたい」と話す。ビッグクラッピーを通じて、外国人への知名度向上も期待できそうだ。

 写真 タカハ機工が量産する拍手ロボット「ビッグクラッピー」(タカハ機工提供)

タカハ機工では、大久保取締役が先導役となり、女性の活躍も推進している。「海外展開は女性が担当した方がうまくいく」というのが大久保取締役の持論だ。他社をみても、「女性の方が積極的に何にでも取り組む姿勢がみられる」と語る。越境ECや海外展示会への出展も、若手の女性社員が中心となって取り組む。

こうしたさまざまな取り組みの結果、同社には親しみやすいイメージが定着し、国籍、性別、年齢、職業にとらわれず、インターネットを閲覧した多様な人々が訪れるようになった。今後の目標についても、「面白い会社にしていきたい」と大久保取締役。次なるアイデアが楽しみだ。

(北見創)

(日本)

ビジネス短信 1a31e49f6df118e3