韓国との合弁のペセン製鉄所にみる競争力-ZPEセアラをめぐる投資環境(2)-

(ブラジル)

サンパウロ発

2017年08月17日

ブラジルの輸出加工区(ZPE)の中で最も整備が進んでいるZPEセアラでは、韓国の東国製鋼とポスコ、鉄鉱石大手ヴァーレが出資するペセン製鉄所(CSP)が2016年6月から稼働し、順調に輸出を伸ばしている。経済の中心地から離れた北東部に位置することで一見不利に映るが、設備、人材、原料調達・輸出ロジスティクス、税制恩典を活用し、競争力を確保したオペレーションを実現している。

全体の約6分の1を占めるCSP

ZPEセアラは、州都フォルタレーザ市から北西に約60キロ離れたサン・ゴサロ・アマランテ市に立地する州政府が運営主体となる工業用地で、2010年6月に開設された。面積は6,182ヘクタールある。進出企業は2017年7月時点でブラジルと韓国との合弁事業体のペセン製鉄所(CSP)、同製鉄所に鉄鉱石を供給するヴァーレ・ペセン、工業ガスを生産するホワイト・マーチンス(米国プラックスエアー傘下)、CSPで発生した鋼材残渣(ざんさ)の加工を請け負うフェニックス・ド・ブラジル(米国フェニックス・サービシズ傘下)の4社だ。いずれもCSPを取引先として立地した経緯がある。ZPEは域内取引も輸出と同等に見なされるため、CSPに資材やサービスを供給することでZPEの恩典を受けている。なお、CSPだけで全体面積の約6分の1に当たる989ヘクタールを占める。

写真 ZPEセアラの入り口(ジェトロ撮影7月18日)

ペセン港の鉄鋼半製品輸出単価はほかに比べ安価

CSPは韓国のポスコが20%、東国製鋼が30%、ヴァーレが50%を出資する製鉄所で2016年6月に稼働した。最新鋭の設備を有し、現段階で年間300万トンの鋼板生産能力を備える(注)。ZPEでは粗売上高の80%以上を輸出に向ける必要があるが、主な鋼板輸出先はメキシコ、米国、トルコ、韓国、イタリア、タイなどとなっている(図参照)。CSPの関係者によると、輸出加工区という事情もあるが、現状ではブラジル国内の市況が悪いこともあり国内向け出荷はほとんどないという。

 図 ペセン港からの鉄鋼半製品輸出相手国シェア(数量ベース、2017年上半期)

商工サービス省の通関統計をみると、2017年1~6月にペセン港からは米国向けに28万トンの鋼板(HS:7207.12)が輸出されているが、FOB価格で単価を割り出すと1トン当たり382ドルとなる。この価格を、鉄鋼半製品の主要輸出港であるセペチバ港、ビトリア港と比較すると、安価なことが分かる(表1参照)。実際には輸出している鋼板の種類によっても単価が異なるため、これをもって輸出競争力と判断することはできないが、CSP関係者は、国内競合に比較して低コストでオペレーションできているとしている。

表1 米国向け鉄鋼半製品輸出実績に関する港湾別比較(HS:7207.12)

最新の製造設備と低コストかつ質の高い人材を確保

競争力を生み出す要素となるのは、設備、人材、原料調達・輸出ロジスティクス、税制恩典だ。まず設備について、CSPはポスコと東国製鋼の出資を受け、海外のあらゆる顧客ニーズに対応できるような設備が導入されている。さらに、製鉄所内で自家発電システムを備え、余剰電力を北東部の配電網を通じて売電している。また、域外だと容易ではない中古設備の輸入がしやすい環境も、コストを抑えた設備投資を可能としている。

人材に関して、CSPでは7月時点で約2,500人の従業員を抱え、約8割の人材を同地域から雇用している。もともと北東部は、南部や南東部に比べて人件費が安価だ。例えば、セアラ州における平均月当たり実質賃金は2017年第1四半期で1,339レアル(出所:IBGE、約4万6,865円、1レアル=約35円)と、サンパウロ州の2,769レアルの約半額だ。CSP関係者によると、労働組合問題も南部や南東部より少ないという。

現時点で、マネジャーや技術者は地域外から採用しているものの、ZPEの近くに職業訓練教育機関が整備されており、今後は高度人材の地域内での育成も見込まれる。アニジオ・テイシェイラ国立教育調査研究院(INEP)による基礎教育開発指数(2015年)でみると、公立学校の初等教育に関して、セアラ州は北東部にありながら5.7ポイントと、州別で上位5番目につけている(表2参照)。また同年の調査では、成績上位100校のうちセアラ州の学校が77校を占め、北東部に立地しながらもサンパウロやリオデジャネイロなど南東部の経済州と比べて、セアラ州の公的教育レベルは遜色がない。

表2 州別基礎教育開発指数

原料供給を担うパートナーの存在と港湾隣接のメリット

原料調達などに関しては、鉄鉱石大手ヴァーレとの合弁事業であるため安価に鉄鉱石を調達可能だ。また立地上、鉄鉱石の産出地であるブラジル北部のカラジャス鉱山だけでなく、南東部のミナスジェライス州からも沿海輸送で鉄鉱石が調達できる。ペセン港に搬入された鉄鉱石の搬出港は、北部マラニョン州のポンタダマデイラ港が63%、南東部エスピリトサント州ビトリア港が37%となっている(2017年1~6月実績、セアラ港統合公社)。石炭はオーストラリアやコロンビアなどからペセン港に直接輸入されている。いずれも、港からベルトコンベヤーでCSPの工場用地に輸送されている。これらの調達オペレーションはZPEに立地しているヴァーレ・ペセンが行っている。

ペセン港はもともと水深があり、大型船の停泊が可能だ。同港は沖合に建設された桟橋型の港湾で、第1桟橋(水深15メートル、延長350メートル、原料・穀物、一般貨物用)、第2桟橋(水深15.5メートル、延長398メートル、燃料用)、第3桟橋(水深13.5メートル、延長760メートル、原料・穀物、コンテナ貨物用)が運用されている。ちなみに、ペセン港は民間港に位置付けられ、24時間稼働している。

一方の輸出ロジスティクスは、ペセン港までの6キロの道のりをトラックで輸送し、鉄鋼半製品を輸出している。ペセン港の位置は南東部の港に比べ北米、欧州にも近い。例えば定期便でみると、サントス港からニューヨーク港までは17日かかるが、ペセン港からは10日で着く(出所:アリアンサ・ロジスティカ)。また、ばら積み船は特に、パナマ運河の拡張によりアジア市場へのアクセス改善が見込める。

写真 ペセン港湾工業団地内の道路、ペセン港のヤードに置かれた船積み前の鋼板、ペセン港のコンテナターミナル(3点ともジェトロ撮影7月18日)

税制恩典の効果は製品価格の2割弱に

税制恩典に関して、CSP関係者は鋼板価格に対して約2割が恩典によるコストダウン効果があるとしている。鋼板価格の6割が原材料費で構成されていると仮定し、代表的な原材料だけを取り上げて税恩典を試算してみよう。鉄鉱石(HS:2601.11)は国内調達であるため輸入税はかからないが、社会負担金(PIS/Cofin)非累積型税率9.25%、商品流通サービス税(ICMS)18%が課される。また、石炭(HS:2701.12)はコロンビアやオーストラリアから輸入されている。輸入税は0%だが、PIS/Cofin輸入型税率11.75%、さらにICMS18%が課される。つまり、原料価格に対して約3割の税金が通常はかかることになる。冒頭に6割が原材料費と仮定したが、そのうちの3割の税金を支払う必要がないと考えると、鋼板価格の2割弱が税制恩典によるコストダウンが可能なことが分かる。

さらに、ZPEセアラが北東部に立地しているため、北東部開発庁(Sudene)による10年間にわたる75%の法人税減免措置や、自治体の税金(例えばサービス税など)の減免などを享受でき、実際にはさらに高い税制恩典メリットを得られる可能性がある。

(注)ブラジル全体の粗鋼生産量は3,300万トン(2017年5月の過去12カ月累計、ブラジル鉄鋼院)。

(二宮康史)

(ブラジル)

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