リカバリーウエアのベネクス、著名人らと連携しドイツ市場に浸透-日EU・EPAもビジネスに追い風に-

(ドイツ、EU、日本)

デュッセルドルフ発

2017年08月17日

休養用ウエアを展開するベネクスは、スポーツ産業が盛んなドイツを最も重要な市場と捉えており、日EU経済連携協定(EPA)は同社にとって追い風となる。ブランド力など課題を抱える中、同社が知名度と信頼を早期に得るために取った戦略について、ドイツ子会社ベネクスヨーロッパ社長の片野秀樹氏に聞いた(7月21日)。

海外展開の皮切りはスポーツ用品の中心地で

神奈川県厚木市に本社を置くベネクスは、「世界のリカバリー市場を創造し、そこに関わる人を元気にする」をモットーに、休養時の疲労回復を促進する休養用ウエアである「リカバリーウエア」を主力製品とする。ドイツでは既に20を超える店舗でリカバリーウエアの取り扱いがある同社だが、ドイツ進出は2014年11月と比較的最近だ。しかも、ドイツが同社にとって初めての海外市場という。

ドイツは、スポーツ用品の中心地で、世界最大級のスポーツ用品見本市「ISPO」(ミュンヘン)が実施されることもあり、ベネクスは同国を最初のターゲットにした。「新しい市場で製品を売り込むためには、本場の見本市の活用が最も効果的だ」と、ベネクスヨーロッパ社長の片野氏は考えている。

ドイツの著名人と連携し知名度向上図る

ドイツで事業展開をしていく上で、主に2つの障壁があった。(1)商品が知られる必要があること、(2)商品が評価され、企業として信頼されることだ。最初の障壁は、多くのスポーツ用具があふれる中で、商品の知名度を上げていくことだ。同社は、心に留まる分かりやすい商品コンセプトとして、「運動中に着てはいけないスポーツウエア」を打ち立てた。一度見たら忘れないコンセプトだ。また、出展した見本市では、ブースデザインを手掛けたドイツ企業の協力を得て、ドイツの有名なスキー選手と医師を招き、ブースでリカバリーウエアのプレゼンテーションを実施。見本市をツアーで回っていたメディアの一団をブースに誘致することに成功し、その結果、ドイツの新聞2紙に掲載され、ラジオでも放送された。

ドイツの水泳競技のオリンピック選手であるマルコ・コッホ氏が、睡眠に問題を抱え、疲れが取れないという情報をドイツのパートナー経由で入手した片野氏は、コッホ氏のマネジャー宛てに無償でリカバリーウエアを提供した。コッホ氏はリカバリーウエアを気に入り、その後、片野氏が直接連絡を取れるほどまで関係を深めた。リカバリーウエアの評判は、コッホ氏から他の選手やトレーナーに伝わり、ドイツ水泳協会とオフィシャルパートナー契約を締結した。また、プロサッカーリーグのブンデスリーガ1部のチームであるRBライプツィヒにウエアを提供し、選手の評価も良好だという。著名なアスリートに使ってもらうことで、リカバリーウエアはその知名度を高めていった。

現地の科学的データを集めて信頼性獲得へ

2つ目の障壁は、商品が評価され、企業として信頼されることだ。「特にドイツで顕著な障壁だ」と片野氏が語るのは、「ドイツの消費者は世界一疑り深い」といわれる、その保守的な消費行動にある。片野氏はドイツ人を信用させるために、効用を示す科学的データを提示することを考えた。しかし、日本でのデータではなく欧州での科学的データが求められたことなどから、ベネクスはドイツ西部のルール大学ボーフムとの共同研究を進め、ドイツでの科学データを入手し、ドイツ市場向けの説得材料とした。一見、障壁が高そうな海外の大学との連携だが、「各先生の研究内容をしっかりと調べ、当社の商品の機能や効用に関する研究を行っている先生にアプローチすれば、それほどハードルは高くない。その先生に仮に関心がなかったとしても、関心を持ちそうな先生を紹介してもらえる。そして、この紹介を通じての人的ネットワークの構築がドイツでは極めて重要」と片野社長は指摘する。

説得材料を整備した後は、消費者に実際に使ってもらい、納得してもらうための活動が必要だ。片野社長は現在、ドイツの理学療法士にリカバリーウエアの効用を理解してもらうため、積極的にワークショップを実施している。理学療法士が患者にリカバリーウエアの使用を勧めるようになれば、一般消費者がリカバリーウエアを試す機会が大幅に増加する。

日独で補完関係、日EU・EPAはメリットに

リカバリーウエアの肝は、「PHT」と呼ばれるプラチナなどの鉱物を繊維1本1本に練り込んで作られる新機能素材だ。ベネクスヨーロッパは現在、日本で作られたPHT原糸をドイツに輸入し、ドイツの委託工場で縫製・生産をしている。これはドイツ人に適したデザインやサイズのウエアを作るために必要なことだという。一方、リカバリーウエアの肝であるPHT原糸は日本の技術で作られている。技術の根幹は日本で磨き、市場に適した開発を現地で行うという方法で、日独が補完し合っている。現在、EUへの糸の輸入には関税がかけられている。今後、日EU・EPAが発効すれば、その分の関税コスト削減も期待できる。さらに、欧州仕様のリカバリーウエアについては日本での発売の可能性も高まる、と片野社長は抱負を述べた。

写真 ベネクスのリカバリーウエア(同社提供)

(福井崇泰)

(ドイツ、EU、日本)

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