コロンビア、メルコスールとの経済補完協定に署名-自動車業界は輸出拡大に期待-

(コロンビア、ブラジル、アルゼンチン)

ボゴタ発、米州課

2017年08月21日

コロンビア商工観光省は7月21日、南米南部共同市場(メルコスール)加盟国・準加盟国首脳会合が開催されていたアルゼンチンのブエノスアイレスで、メルコスールとの経済補完協定(ACE)に署名したと発表した。同ACEは、2005年に発効したACE59号をコロンビアとブラジル、コロンビアとアルゼンチンの間で更新・拡大するもので、ACE59号で関税撤廃の例外とされた品目について相互に関税を削減・撤廃する内容となっている。新たな恩恵が享受できる品目として自動車があり、コロンビアの自動車業界はメルコスール向けの輸出拡大に期待している。

ACE59号の例外品目の関税を削減・撤廃

今回、コロンビアとメルコスールとの間で署名されたACEは、2005年に発効したラテンアメリカ統合連合(ALADI)をベースとするACE59号(メルコスールとアンデス共同体3カ国との間で締結された経済補完協定)を更新し、自由化の内容を拡充するもの。今後、各国で批准などの法的なプロセスを経た上で発効する。

コロンビア商工観光省のプレスリリース(7月21日付)によると、今回のACEの署名では自動車や繊維製品など、ACE59号で関税撤廃の例外品目とされ、現時点でも関税が残っている品目について新たに関税削減のプロセスを設定する。恩恵を受ける品目は、対アルゼンチンと対ブラジルで異なる。

対アルゼンチンについては、自動車、農薬、繊維製品、プラスチック製品、金属加工品などが新たな関税削減の対象となる。自動車については、ACE59号では発効時から2011年までは関税が段階的に削減されたが、2012年以降は最恵国待遇(MFN)関税率(メルコスールの場合はメルコスール対外共通関税率)から55%削減した税率(MFNの45%、8月14日時点で15.75%)がコロンビア製自動車に対するアルゼンチンの関税率となっている。今回署名されたACEでは、乗用車および小型商用車については年間3万台、大型バス・トラックについては年間1万2,000台の枠内で関税が撤廃されることとなった。

農薬、繊維製品、プラスチック製品、金属加工品などについては、ACE59号では品目別原産地規則(PSR)の合意がなかったため、PSRが合意されるまでは関税削減プログラムの適用が留保されていた。今回、これらの品目についてPSRが合意されたため、関税が撤廃されることとなった。ただし、農薬については年間3万1,000トン、プラスチック製ボトル・フラスコについては年間3,500トンの枠内に限り関税が撤廃される。

対ブラジルについては、基本的に2015年10月9日にサントス大統領とブラジルのルセフ大統領(当時)が署名した覚書の内容を協定化したもので、主に自動車と繊維製品が恩恵を受ける。コロンビア製の自動車についてはアルゼンチン同様、ACE59号では現行MFNの45%(15.75%)が関税率となっているが、年間5万台の枠内で関税が相互に撤廃される。繊維製品も対象となっており、例えば10%のナイロン糸の関税率は協定発効時に0%となる。

国内市場は競争激化、輸出にかける自動車業界

今回のACE締結に期待を寄せているのはコロンビアの自動車業界だ。ルノーの車を生産する完成車メーカーのソファサ(SOFASA)のパブロ・ウレゴ副社長は「コロンビアの自動車産業にとって非常に大きな機会だ。今回の署名のおかげでアルゼンチンに新たに輸出することが可能になる」と語る。シボレーブランドの車を生産するGMコルモトーレスのダニエル・バジョナ副社長も「会社にとってポジティブな影響を持つこれらの協定をフル活用する」と協定の署名を歓迎している(商工観光省8月4日付プレスリリース)。

自動車メーカーが輸出拡大に期待を寄せる背景には、国内市場における輸入車との競争激化がある。コロンビアは7月末時点で49カ国と自由貿易協定(FTA)を発効させている。相手国の中には、米国、EU28カ国、メキシコ、韓国など自動車生産大国も含まれているため、近年は自動車販売台数に占める輸入車の比率が高まり、2014年には過去最高の70.7%に達したが、その後は通貨がドル高ペソ安に進んで輸入車の価格が割高になったため、比率は少し低下している(図参照)。それでも2016年時点で国内販売台数の約65%をメキシコ製や韓国製を中心にした輸入車が占めている。

図 コロンビアの自動車販売・輸入・生産・輸出の推移

国内販売市場の規模は30万台程度で、輸入車との競争も激しいため、コロンビアの自動車産業では規模の経済が成り立たない。完成車の生産規模が13万台程度と小さいためにサプライヤーの進出も限定され、部品の多くを輸入に依存する。輸入部品の組み立てでは製造コストを下げることは難しく、為替の影響も受けやすい。従って、完成車メーカーは輸出を増やすことによりある程度の生産規模を確保し、規模の経済を成り立たせることが重要な課題となっている。コロンビア産業連盟(ANDI)のデータによると、生産台数に占める輸出台数の比率は2016年時点でも30.5%と10年前より低い水準にとどまっており、輸出拡大の余地はあるといえそうだ。

その輸出を近年、積極的に伸ばしているのがソファサだ。同社の輸出を牽引するメキシコ向け輸出は、2016年の台数が前年比31.3%増の2万5,207台に達し、2014年と比較すると75.7%も増えている(表1参照)。メキシコ自動車工業会(AMIA)のデータからルノーのメキシコ市場における販売動向をみると、2016年の販売台数約3万台のうち62.1%がコロンビアで生産されており、コロンビアをメキシコ市場への重要な供給国として位置付けているのが分かる。コロンビアからメキシコへは「サンデロ(Sandero)」「ステップウエー(Stepway)」「ダスター(Duster)」の3モデルを輸入している。

 表1 ソファサの国別輸出台数

他方、GMコルモトーレスの輸出をみると、エクアドル向けがほぼ100%を占め、輸出先の多角化が進んでいない(表2参照)。同社ウェブサイトによると、同社は12のプラットフォームで47の仕様の車を組み立てているため、ブラジルやアルゼンチンで生産していないプラットフォームを中心に今後、両国への輸出を志向するものとみられる。

なお、トラックの分野では日本の日野自動車がコロンビアで生産し、輸出もしているが、同社の輸出(2016年に1,124台)も全部がエクアドル向けとなっている。

表2 GMコルモトーレスの輸出台数

(高多篤史、中畑貴雄)

(コロンビア、ブラジル、アルゼンチン)

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