日本企業の参考になる事業モデルの可能性-ZPEセアラをめぐる投資環境(3)-

(ブラジル)

サンパウロ発

2017年08月18日

ブラジルの輸出加工区(ZPE)セアラを活用するには、ブラジルに輸出競争力のある原料立地戦略が望まれ、また域内向け売上高は「輸出」としてカウントされることから、ペセン製鉄所(CSP)向けビジネスも検討が可能だ。なお、ペセン港湾工業団地をめぐっては中国企業による製油所プロジェクトへの投資や、韓国ガス公社がペセン港に液化天然ガスターミナルを建設するプロジェクトも報じられている。連載の最終回。

方向性は2つ、原料立地戦略とCSP向けビジネス

連載の1回目と2回目で報告したように、ZPEでは売上高80%以上という輸出義務を負うものの、CSPでは国際競争力を維持するための要素を最大限に活用するかたちでオペレーションが組まれている。その事業モデルを参考にすれば、日本企業にとって、ZPEに関わるビジネスの方向性は2通りある。

基本コンセプトとしてZPEは輸出義務を負うため、ブラジルに国際競争力のある原料立地戦略が主になるだろう。CSPは鉄鉱石を加工する製鉄業だが、それ以外にも農産物や石材、石油派生品を扱う業種が考えられる。その際に、CSPのようにリスクをシェアし、原料を安定的かつ安価に調達するため、現地原料メーカーと共同で事業拠点を設けることも一案だ。

もう1つはCSP向けビジネスだ。同製鉄所の鋼板生産能力は現在、年間300万トンだが、CSP関係者によると、採算性を考えれば、当初の計画どおり年産600万トンに拡大することが必要という。そのため日本企業にとって、今後CSPの投資拡大に伴って発生するニーズを捉えて、ZPE内に裾野産業として進出する可能性も考えられる。ただし、CSPを唯一の顧客とした場合のリスクも存在するため、理想としては、将来的に輸出も可能な事業モデル構築が望ましい。

もしも、輸出義務を負わずに国内向けビジネスを想定するのであれば、ZPE以外でペセン港近くに整備されている工業団地に進出することも選択肢の1つだ。ZPEのような恩典はないが、北東部開発監督庁(Sudene)による法人税軽減措置や加速度減価償却制度の利用が可能で、投資規模によって州税や市税の恩典適用の可能性がある。実際にZPE外のペセン港湾工業団地(CIPP)内には、風力発電機材を製造するドイツ企業ウォッベン・ウィンドパワーや、地場資本アエリス・エナジー、セメントを製造するボトランチンなどが立地している。いずれも北東部市場へのアクセス、港湾に隣接したロジスティクス面での利便性を考慮した結果とみられる。

なお、ペセン港は州内陸および沿海部に伸びる国道(BR116、BR222、BR020)へのアクセスも良く、道路インフラについては労働者党政権時代における成長促進計画(PAC)の下で複線化に向けた改良工事などの整備が行われている。全国交通連盟(CNT)による道路状況調査結果(2016年)をみると、セアラ州の道路評価はブラジル全体平均と比較して見劣りするが、北東部の中では平均的なことが分かる(表参照)。

表 ブラジル全体およびセアラ州の道路評価

また鉄道に関しては、トランスノルデスチーナ鉄道(FTL)がマラニョン州の州都サンルイス市にあるイタキ港からペセン港、フォルタレーザ市にあるムクリペ港までの1,190キロにわたる路線を運行している。貨物は主に燃料やパルプ、セメントなどだ。同路線はコンセッション方式により、地場資本ナショナル製鉄(CSN)を主体とした事業体が運営している。

ZPEセアラをめぐる中国や韓国企業の動き

ペセン港付近への投資をめぐっては近年、CSPに出資した韓国企業に加えて、中国企業の動きも報道されている。セアラ州政府は2016年11月、中国企業の広東振戎能源(Guangdong Zhenrong Energy)と州内の石油精製所建設に関する覚書を締結した。石油精製所に関しては以前、ペトロブラスがペセン港近郊でプレミアムII製油所プロジェクトを推進していたが、2015年1月、同社の経営難を理由に建設が断念されていた。州政府が締結した覚書の製油所案件はその代替に位置付けられるものだが、中国企業以外に、国営イラン石油会社(NIOC)が製油所に原油を提供することとのパッケージで出資する可能性も報じられている(「オ・ポーボ」紙1月28日)。ブラジル政府と中国政府は2017年5月、両国が出資するかたちでブラジル・中国生産能力拡大協力基金(CBC-FUNDO、注1)の設立を発表しており、同案件は基金の活用を見込んでいる。覚書の締結を報じた2016年11月14日付のセアラ州政府プレスリリースよると、製油所の処理能力は日量30万バレルで、投資規模は40億ドルを見込む。

また、もう1つの注目される投資案件は韓国ガス公社(KOGAS)による、ペセン港の液化天然ガス(LNG)ターミナルの建設だ。同案件は2016年9月にセアラ州政府とKOGASが覚書を締結し、その後プロジェクトの具体化に向けた検討が進んでいる。現在、ペトロブラスでは浮体式LNG受け入れ基地(FSRU)を利用し、セアラ州に天然ガスを供給しているが、ターミナル設備を売却する計画が報道されている。同設備の処理能力は日量700万立方メートルだ。これをKOGASが建設するLNG受け入れターミナルで代替する意図がある。投資額は6億ドル、天然ガスの処理能力は日量1,200万立方メートルが想定されている。同プロジェクトには、セアラ州のガス配給事業会社Cegas(注2)に加えて、韓国のポスコE&Cなども参加することが報じられている(「オ・ポーボ」紙3月28日)。

留意すべき点は沿海輸送と安定輸出先

ここまで、ZPEセアラおよびペセン港湾工業団地の投資環境・ビジネス動向を詳述してきたが、最後に投資を検討する際の留意点について触れる。1つは、沿海輸送の問題点だ。ブラジルでコンテナ貨物に関して沿海輸送サービスを行う事業者は主に3社(注3)と寡占状態にある。また、ペセン港に寄港する定期船の便が限られるほか、港に到着するまでに寄港地が複数あるため輸送にかかるリードタイムが読みにくい(注4)。沿海輸送以外に、鉄道や道路などの陸上輸送も選択肢としてはあるが、特に経済の中心である南東部とのロジスティクスで不利なことは否めない。

もう1つは、ZPEに立地した場合の安定的な売り先の問題だ。売上高の8割を輸出に向けるためには、売り先確保が重要といえる。CSPの場合は欧米やアジアに輸出市場を求めているが、関係者によると、長期契約ではなくスポット市場での販売だという。現在の国際的な鋼材市場は、中国での過剰生産問題もあり、余剰を抱えている。その環境下で売り先を常に確保することは容易ではないだろう。

ただし、これらの問題がある中でも、CSPが稼働し順調に輸出を伸ばしているという事実は、ZPEセアラの潜在的な可能性の一端を示すものと捉えられる。沿海輸送の問題は、港湾施設の開発に伴う需要増加に対応するため、近年、沿海輸送事業者が所有船舶を更新・増強しており、過去と比べて輸送サービスは改善傾向にある(注5)。またZPEに立地すれば、売上高の80%以上の輸出義務を負うものの、ZPE域内売上高も「輸出」として算入でき、さらにZPEの恩典を得る上での最低売上高も規定されていない。政府は立地企業の安定的な売り先確保の問題に配慮し、輸出義務比率を現状の80%から60%に引き下げる条項を含めた法案を2013年に議会へ提出し審議している。同法案の成立の可否は不透明なものの、セアラ州政府は企業誘致に向け、連邦政府と連携して各方面に積極的な働き掛けを行っている。

財政健全性で評価されるセアラ州

なお、リオデジャネイロ州工業連盟(FIRJAN)の資料によると、セアラ州政府は2016年時点で、ブラジルの中で最も財政健全性が維持されている州として評価されている。セアラ州政府は純経常歳入に比べて、人件費の割合が49.3%(全州平均58.8%)、負債43.6%(69.5%)、キャッシュフロー14.3%(14.4%)、投資11.1%(5.7%)で、総合点について全州で健全性トップという結果だった。これは、工業団地周辺のインフラ整備に必要な財政的余裕が認められるという点で、重要なポイントだ。

ブラジル経済は、2年連続のマイナス3%台成長からようやく脱し、2017年はプラス成長に転じるとみられる。これまでみてきたように、セアラ州はブラジルにおける新たな投資先としての潜在性を秘めており、景気回復時をにらんだ戦略を検討する上での注目すべき地域の1つといえるのではないだろうか。

(注1)基金は最大で200億ドルの資金規模になることが発表されており、そのうち150億ドルまでを中国が、残りの50億ドルまでをブラジルが拠出する。ブラジル側は資金の拠出機関として、連邦貯蓄公庫やブラジル経済社会開発銀行(BNDES)が見込まれている。同基金の融資や出資に際しての優先分野は、ブラジルにおけるインフラ、ロジスティクス、エネルギー・鉱物資源、アグロインダストリー、製造業、先進技術、農業、農産物貯蔵庫、デジタルサービスとなっている。ブラジル政府は2017年5月30日付法令9063号で、基金の運用に関する方針を定めるブラジル側組織として、「ブラジル・中国生産能力拡大協力委員会」を設置している。

(注2)Cegasには三井物産が2014年12月に出資を発表しており、株式出資比率は子会社の三井ガスが41.5%、ペトロブラスのガス関係子会社ガスペトロが41.5%、セアラ州政府インフラ局が17.0%(2017年7月時点のCegasウェブサイトから)。

(注3)コンテナ貨物の沿海輸送事業者として、主にアリアンサ・ロジスティカ、ログイン・ロジスティカ、メルコスール・ラインの3社が挙げられる。

(注4)沿海輸送サービスを行うログインのウェブサイトで定期船のスケジュールをみると、南東部のサントス港からペセン港までの定期便所要日数は最低でも6日が見込まれている(7月28日時点)。

(注5)水運庁(ANTAQ)の資料によると、2017年6月時点でのブラジル籍貨物船数は169隻で、2010年当時の129隻から3割増加している。

(二宮康史)

(ブラジル)

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