特許審査の迅速化目指す方式審査新規則が発効
(ブラジル)
サンパウロ発
2017年08月07日
特許審査の遅延が大きな問題となっている中、産業財産庁(INPI)は6月、特許協力条約(PCT)に基づくINPIへの国内段階移行手続きの方式審査を迅速化するための規則を公布、発効した。さらに、実体審査の迅速化についても検討を進めている。
出願から審査結果が出るまで平均10年以上
ブラジルでは特許審査の遅延が大きな問題となっている。正確な統計はないが、出願してから審査の結果が出るまで平均で10年以上かかるといわれている。政府も審査迅速化の必要性は認識しており、バックログ(未処理)解消を最優先目標とした「INPI行動計画2017」を5月5日に公表している。この行動計画には、極端に簡素化された審査処理を一時的に行うことでバックログを解消することが記載されているものの、その具体的な方法については明らかにされていなかった。
行動計画の公表から約1カ月後の6月6日、特許協力条約(PCT)に基づくINPIへの国内段階移行手続きの方式審査を迅速化することを目的とした規則(以下、方式審査新規則)が公布された。また、同月13日には実体審査を迅速化するための決議(以下、実体審査新決議)も公布された。
このうち実体審査新決議は、後述するように取り消されてしまったことから、現在のIPNIにおける特許審査処理に対して誤解や混乱が生じやすい状況となっている。
国際出願に係る方式審査に新規則
方式審査新規則は、INPIへのPCTに基づく国際出願の国内移行手続き時の方式審査を迅速にすることを目的としたもので、6月6日公布、6月12日に発効した。これによって2013年1月1日から2016年12月31日の間に国内移行手続きが申請された出願については、方式審査を経ずに自動的にINPIに受理されることになる。ただし、上記期間中に申請された出願であっても、既に方式審査中の出願や配列表を含む出願はこの規則の対象外となる。この規則で自動受理された出願はINPIが発行する産業財産電子公報(RPI)上に4カ月以内に公表される。なお、この規則では、優先権主張や譲渡手続きに関する書類審査は実体審査前に行われ、書類の不足や不備があれば出願人に修正の機会が与えられると規定されている。
INPIは、国内移行申請手続きに対する方式審査で不備が指摘されるケースは非常に少ないと6月1日付ウェブサイト(ポルトガル語)で紹介していることから、方式審査新規則の導入によって大きな混乱が生じる可能性は低いとみられる。またウェブサイトには、2017年以降の出願に対しては従来どおり方式審査が行われることと、2018年以降の申請に対しては120日以内に方式審査処理を終える見通しであることも記載されている。
実体審査新決議は公布後に取り消し
またINPIは、PCTルートによる特許出願の実体審査の迅速化を図ることを目的とした実体審査新決議を6月7日にいったん公布した。この決議により、PCTにおける国際調査機関・国際予備審査機関として認定されている機関(以下、認定特許庁)によって調査報告書が作成されている特許出願であって、INPIへの早期審査が申請されている特許出願については、INPIの特許審査官は追加調査を実施することなく認定特許庁の調査結果のみに基づいて実体審査を行うことになった。ただし、実体審査時にその他の特許庁などの調査結果が利用可能な場合には、それらも参照できる。なお、第三者情報提供のあった特許出願、既に実体審査中の特許出願、早期審査が既に承認された特許出願および不服審判に係る特許出願は新決議の対象から除外される。なお、6月22日付INPIウェブサイト(ポルトガル語)によると、この決議は特許審査の効率を2割向上させるための取り組みの1つと位置付けられている。
新決議は公布日から30日後に発効する予定だったが、6月19日に決議を30日間停止する旨の通知(ポルトガル語)が、そして同月26日には決議を取り消す旨の通知(ポルトガル語)がINPIウェブサイト掲載された。新決議が取り消された理由についてINPIに取材したところ、実務上の観点からさらなる検討が必要となったため無期限で取り消した、との回答だった。
INPIの上位官庁である商工サービス省、INPIとブラジル全国工業連盟(CNI)が7月13日に開催した特許審査ハイウエー(PPH)のワークショップで、CNIの政策・産業分析官が「特許出願のバックログを減らすためには思い切った方法を採用する必要があるが、外国の特許庁の審査結果のみに基づいて特許審査を行うというのは少し乱暴だった」と発言していたことなどから、ブラジル産業界からの反発が新決議取り消しの一因となっている可能性もある。INPIは行動計画に掲げた目標を達成するため、実体審査の迅速化方法について引き続き検討を進めており、今後もその動向を注視していく必要がある。
(岡本正紀)
(ブラジル)
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