ベンガルールで日本食の弁当販売サービスを起業-ペブル・ブランディング創業者・社長に聞く-

(インド)

ベンガルール発

2017年08月10日

ペブル・ブランディングは、インド南部カルナタカ州の州都ベンガルールを拠点に、インド市場におけるブランドマーケティングを行う企業だ。同社は2017年3月から電子商取引(EC)を活用した日本食の弁当販売サービス「InBento」を立ち上げ、日本食の普及に取り組んでいる。創業者の1人である鴛渕貴子社長に同社のビジネスの現状や今後の展望などについて聞いた(7月13日)。

現地の文化に合わせた日本食の弁当を開発

(問)日本食ビジネスに参入した背景は。

(答)インドの食品市場に商機を感じ、以前からマーケティング調査を実施していた。この調査を通じて知ったのが、インドの食品関連ECの大手で、飲食店検索サイトや弁当宅配を手掛けるスウィギーが好調な業績を上げていたことだ。2015年1月時点では、同社が受けた注文数は1日当たりわずか60件だったが、同年8月には7,000件まで拡大したという。中でも、中華料理やイタリアンなどの外国料理の注文が急増していた。この実態を捉え、インドの外食産業の成長性の大きさや食文化の多様化に商機を感じ、日本食の弁当販売サービス「InBento」を2017年3月に立ち上げた。

(問)InBentoのサービスの概要は。

(答)InBentoで販売する弁当には、レトルト食品を一切使用せず、現地で有機食材を調達し、インド人の口に合う健康的でおいしい日本食を提供している。メニューは全部で約30種類あり、半数が菜食主義者向けだ。日本食への抵抗感をなくすために、現地食材を混ぜた調理をしている。メニューのネーミングにも気を遣った。SNSなど口コミでの広がりやすさなどを意識し、「トウキョウ・ベントウ(Tokyo Bento)」「ハラジュク・スシロール(Harajuku Sushi Roll)」「エビス・ドンブリ(Ebisu Donburi)」「バンガ・ロール(Banga Roll)」など、新しもの好きのインド人にも親しみやすい単語を選んだ。

現地食材を利用した30種類のInBentoメニュー(ぺブル・ブランディングのウェブサイトより)

(問)現在の販売動向は。

(答)全体の9割が10~20代のインド人からの注文だ。注文時に料理の辛さに関する問い合わせは意外に少なく、初めて日本食を注文する客も多い。価格(送料を含む)も150~500ルピー(約255~850円、1ルピー=約1.7円)のため、中間所得層にも手頃な値段設定にした。ベンガルールでもインド人の中間層および高所得者層が増え、さらに日本人を含む外国人の数は年々増加しており、日本食ビジネスの拡大の余地は大きい。2017年7月から日本の百貨店の地下食品売り場で売られているような総菜メニューを追加し、ホームパーティーや企業の会議向けのケータリングサービスも展開している。

人手不足を補うため、ECを活用

(問)InBentoの経営に当たり工夫していることは。

(答)インドで創業間もない企業が優秀な人材を安定して雇用することは難しい。良い人材を採用しても、半年で辞めてしまうこともあった。そこで、当社では人手不足を補うため、ECをうまく活用して、弁当の販売やマーケティング、顧客管理などを行うことにした。具体的には、飲食店検索サイトの「ゾマト(ZOMATO)」や「スウィギー」、配達アプリの「ダンゾ(Danzo)」、電子決済サービスの「ペイティエム(Paytm)」と契約しサービスを利用しており、効率的な経営が実現できている。今後、インドでのBtoCを検討する日本の中小企業も、こうしたサービスを使うことの便利さを伝えていきたい。

日本の食品会社のテストマーケティングの場に

(問)InBentoの今後の展望は。

(答)まずは2017年中の黒字化を目標にしている。外国人や日本人など新たな消費者層に向けた販売を通じて1日の注文数を増やす。1日の注文数300件を目指し、インド人に本格的な日本食を提供できる市場が形成されるまでビジネスを継続したい。ホテルや小売店などへ販売拠点を拡大することでインドにおける日本食のファンを増やし、本格的な日本食の味を理解してもらうための橋渡しをしたい。

InBentoの知名度が定着すれば、自社専用の携帯アプリを開発して顧客情報を獲得できるプラットフォームも立ち上げることを検討している。顧客情報を直ちに把握し、より細かく日本食の反応などをヒアリングしたい。インドでは日本食の市場はまだ小さいが、より多くの顧客と接点を持ち、日本食の魅力を丁寧に説明し試食してもらうことが、日本食普及のカギのはずだ。日本の食品会社がインドに進出するためのテストマーケティングとして、InBentoの販売チャンネルを活用してもらうような提案もしていきたい。

 写真 ペブル・ブランディングの鴛渕社長と従業員(ジェトロ撮影)

(土田葉、ディーパク・アーナンド)

(インド)

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