移転価格税制が政令改正で厳格化-ハノイで税務最新情報の解説セミナー-

(ベトナム)

ハノイ発

2017年08月25日

ジェトロは7月14日、ベトナム日本商工会(JBAV)との共催で、「ベトナム税務最新情報および移転価格税制の解説」をテーマにハノイ市でセミナーを開いた。OECDが策定した「税源浸食と利益移転(BEPS)」に係る行動計画の影響により、移転価格税制が厳格化されていることから、進出日系企業の関心も高く、出席者は160人に上った。

ポイントは整合性ある移転価格文書の作成に

移転価格税制については、2017年2月24日付の政令20/2017/ND-CPで改正が行われた。セミナーで講師を務めたフェアコンサルティングの細田明氏は、今回の改正はBEPSの行動計画が背景にあり、進出日系企業にも影響が及ぶとして、以下のように述べた。

OECDは、企業の多国籍化が進展し、所得の不当な圧縮や軽課税国などへの移転による租税回避が進むことを問題視し、この対抗策として、G20諸国と共同でBEPSに関するプロジェクトを立ち上げ、15項目の行動計画を策定した。そのうちの行動計画第13番「多国籍企業情報の文書化」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(日本の国税庁ウェブサイト)では、多国籍企業に対して移転価格に関する「ローカルファイル」(個々の関連者間取引に関する詳細な情報を記載)、「マスターファイル」(多国籍企業のグループ全体の事業概要を記載)、「国別報告書」(国別に合計した所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容などを記載)の文書化(移転価格文書)の義務付けを勧告し、G20諸国を中心とした参加各国が国内法制を整備する動きが広まった。各国の税務当局は移転価格文書を共有し、多国籍企業の事業内容全体を把握することが可能となるため、移転価格税制が厳格化するとみられる。

細田氏は「ベトナムはBEPSの行動計画には正式参加していないが、政府は税収確保につなげるため、今回の政令改正が行われた」と分析している。最近の税務調査は、移転価格を重点とする傾向にあり、大企業だけでなく中小企業も対象とされており、進出日系企業が移転価格文書を作成するポイントとして、これまで以上に本社と連携し、整合性がとれた内容にする必要があると説明した。

3種類の移転価格文書作成を義務化

もう1人の講師であるフェアコンサルティングベトナムの讃岐修治氏は、同政令の主な改正点を次のように解説した。

移転価格税制の対象となる「関連者間取引」について、関連者と見なされる資本比率はこれまで20%以上だったが、今回の改正により25%以上に緩和された。また、全体の販売高または仕入高のうち50%を占めている取引先は、改正前は資本関係がなくても対象とされていたが、関連者から除外された。

関連者間取引がある企業は、従来の「ローカルファイル」に加え、新たに「マスターファイル」と「国別報告書」の3つの移転価格文書の作成が義務付けられた(表参照)。「国別報告書」については納税者の最終親会社(注)が居住国の税法に基づいて国別報告書を提出している場合に限り、ベトナムでも提出が必要となり、移転価格文書は法人税申告時に添付する各フォームの内容に基づいて作成する必要がある。

表 法人税申告添付書類(移転価格文書の概要)

移転価格文書の作成期限は、法人税申告前までとされている。提出期限は、税務当局の要求を受けてから、税務調査中の場合は15営業日以内、税務調査前であれば30営業日以内となっている。ただし、合理的な理由がある場合には15営業日の延長が認められる。

関連者間取引に免除規定設ける

改正政令施行前は関連者間取引があった場合、全てのケースにおいて移転価格文書の作成が必要だったが、今回の改正により免除規定が設けられた。免除規定に該当するのは、(1)納税者の当期売上高が500億ドン(約223万ドル)未満で、かつ当期に発生した関連者間取引の金額が300億ドン未満の場合、(2)納税者が事前確認制度(APA)により価格の算定方法について税務当局と合意し、所定のAPA年次報告書を提出した場合、(3)単純な機能を有し、無形資産の開発や使用による売上高や費用が発生しない納税者が、売上高2,000億ドン未満かつ純売上高に対する利払い前・税引き前の営業利益が販売業5%、製造業10%、加工業15%を上回る場合、となっている。(3)については、「単純な機能」の明確な規定がなく、解釈によっては適用されない可能性があり、注意が必要だ。また、免除規定に該当する場合であっても、改正前については文書化する義務がある(2014年8月19日記事参照)。

このほか今回の改正により、納税者のEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)が20%を超える支払利息については損金算入ができなくなった。

讃岐氏は、税務調査における注意点も説明した。法人所得税において、駐在員給与を労働許可書取得前に支払っている場合、損金に認められない事例が増加している。さらに、外国契約者税は多額の外国送金がある場合には注意が必要とし、契約額がネット金額かグロス金額かを明確にしておく必要があるとした。

セミナー参加者からは「国際課税の取り組みやベトナム税務当局の考え方を理解できた」「移転価格文書の概略、必要性を認識できた」といった声が多数寄せられた。

(注)最終親会社とは、多国籍企業の構成会社のうち、他のどの法人からも所有されない法人をいう。

(杉浦弘展)

(ベトナム)

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