オイルサンドの資産や権益、カナダ企業への売却進む-アルバータ・BC両州にみる石油・天然ガスの開発動向-

(米国、カナダ)

シカゴ発

2017年08月07日

原油価格の低迷で、世界有数の石油生産国カナダの石油業界は厳しい状況が続くものの、将来を見据えた企業間の資産や権益の売却、インフラの整備が進みつつある。主な原油生産地域であるカナダ西部の石油・天然ガス開発の動向を、アルバータ州を中心とするオイルサンドと同州およびブリティッシュ・コロンビア(BC)州にまたがるモントニー地区のシェールガスを中心に報告する。

石油業界の投資は3年連続の減少の見通し

カナダ石油生産者協会(CAPP)が6月に発表した「原油予測、市場、輸送動向」によると、原油価格は2016年初頭の1バレル=20ドル台から50ドル近くまで回復してはいるものの、先行きの不透明さを踏まえたプロジェクトの変更などもあり、石油業界の2017年の投資は3年連続の減少になる見通し。一方で、2017年の在来型原油掘削数は2016年比で70%増加すると予想されることや、2016年のカナダ原油の生産量が日産385万バレル(B/D)から2030年には127万B/D増えて512万B/Dになると予想され、2016年のレポートからは若干上方修正となっていることなどから、明るい兆しもみえている(図参照)。

図 カナダ原油生産量の実績と見通し

カナダの石油生産の主力はアルバータ州のオイルサンドで、今後もその地位は変わらないと予想されるが、一方で、米国と同様にカナダにおいてもモントニー地区に代表されるシェール開発が注目を浴びつつある。ここでは、強弱入り混じるカナダ石油・天然ガス業界の中で、オイルサンドやモントニー地区のシェールガス、そしてそれらを輸送するパイプラインの動向を解説する。

オイルサンドの一部権益がカナダ国内石油企業に

2014年からの原油価格の低迷により、オイルサンドの収益性が悪化している。ロイヤル・ダッチ・シェルは2015年にオイルサンド開発プロジェクトを中止し、20億ドルの評価損を計上した。ノルウェーのスタットオイルも2016年に少なくとも5億ドルの評価損を計上し、エクソンモービルは保有するオイルサンド35億バレルの埋蔵量がもはや「経済的に採掘可能(economically producible)ではない」として、2017年2月に保有埋蔵量から外した。

さらに、財務諸表の改善を目的にオイルサンド資産の売却も進んだ。シェルは評価損を計上したオイルサンド権益を、2017年3月にカナディアン・ナチュラル・リソーシズに売却し、米石油大手コノコフィリップスはオイルサンド権益をカナダ西部の天然ガス権益とともに133億ドルでカナダのセノバス・エナジーに売却した。5月には米マラソン・オイルがオイルサンド権益を25億ドルでシェルとカナディアン・ナチュラル・リソーシズに売却した。米アパッチは6月に、カナダの原油資産をカナダのカーディナル・エナジーに売却した。このように、カナダからみて外資企業による権益の売却が進んだ結果、権益の多くはカナダ国内の石油企業が保有することになった。カナダ石油企業は、ディスカウント価格(基準価格に対する割引)を踏まえ、オイルサンド権益が価値あるものと判断したと思われる。

モントニー地区のシェールは米国マーセラスに匹敵

BC州からアルバータ州にかけてのモントニー地区は、米国のペンシルベニア・ウェストバージニア両州にまたがるマーセラス地区に匹敵する有望なシェール鉱区とみられている。2013年11月にカナダ国家エネルギー委員会(NEB)が発表したレポートによると、市場性のある埋蔵量として天然ガス449兆立方フィート、天然ガス液(NGL)145億バレル、原油11億バレルと見積もられており、天然ガスの埋蔵量に関してはマーセラスの410兆立方フィートを上回っている。近年カナダでの天然ガス価格が上昇基調にあることや掘削コストの低下などを背景に、2017年第1四半期におけるモントニー地区での掘削井戸数は前年同期に比べ80%増の277となっている。ウッドマッケンジーによると、現在は日産4.9Bcf/d(10億立方フィート)の天然ガス生産量が2019年には7Bcf/dに達し、NGLを含む液体燃料も現在の25万B/Dから2019年には47万B/Dになると予想している。モントニー地区の石油最大手エンカナは、三菱商事とパートナーを組み7億5,000万立方フィートの天然ガスと、2万1,000B/Dの液体燃料を生産しており、2019年の生産量について天然ガス1.2Bcf/d、液体燃料7万B/D以上に達すると期待している。シェルやセブン・ジェネレーションズ・エナジーなどの企業もモントニー地区での開発を進めている。

モントニー地区で産出される天然ガスを西海岸にパイプラインで輸送し液化天然ガス(LNG)として輸出する計画は幾つかあるものの、昨今のLNGの供給過剰による影響もあり計画は延び延びになっている。モントニー産のコンデンセートについては、パイプラインやその他の設備は十分に整っていないものの、オイルサンドの希釈剤の需要があることから有望視されている。

大型買収でエンブリッジの天然ガス輸送能力は増強

CAPPのレポートによると、現状のパイプラインでは400万B/Dの輸送が可能だが、今後の生産増(特にオイルサンドの増加)に対しては米パイプライン会社キンダー・モルガンのトランスマウンテン・パイプライン(オイルサンドを太平洋岸に輸送。拡張により59万B/D増加)、カナダ・エンブリッジの「ライン3」(オイルサンドを米国中西部に輸送。拡張により37万B/D増加)、トランスカナダのキーストーンXLパイプライン(オイルサンドを最終的に米国のメキシコ湾岸に輸送。新規で83万B/D)などのパイプライン拡張が必要になるとしている。トランスマウンテン・パイプラインは2019年12月、「ライン3」は2019年、キーストーンXLは早くても2020年の稼働予定となっている。

また、買収という点ではカナダのエンブリッジによる米国スペクトラ・エナジーの280億ドルに及ぶ買収が特筆される。この買収については、2月に米国ヒューストンで開かれたエネルギー関連の「CERAウィーク」の会議でカナダのトルドー首相が、カナダと米国の密接な関係の例として挙げたほどだった。スペクトラ・エナジーは米国・カナダの原油と天然ガスのパイプラインを多数保有し、特にマーセラス地区からの天然ガス輸送ラインを多く保有している。この買収で、エンブリッジの天然ガス輸送能力は増加するとみられる。

モントニー地区に関連する買収としては5月のペンビアによるベレセンの買収が挙げられる。ともにアルバータ州、BC州にパイプラインを保有していることから、モントニーを含むカナダ西部のパイプライン網の整備につながると期待される。また、トランスカナダはモントニー北部から南部のターミナル(貯蔵や輸送量測定を行う設備)まで結ぶ北モントニー・メインライン天然ガスパイプラインの建設を進めている。

米国のシェールオイルの陰に隠れてはいるものの、カナダのオイルサンドやモントニー地区のシェールなども今後の原油供給動向においては目の離せない存在になるだろうと思われる。また、その進展にはパイプラインやターミナルなどのインフラ整備が不可欠だ。カナダの原油生産動向をみる上で、オイルサンドの権益の移動によりどこまで効率的な生産が可能になるのか、パイプラインやターミナルの整備はどこまで進むのか注目される。

(ピン・チー、長尾正基)

(米国、カナダ)

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