日EU・EPAの鉄道分野における交渉成果を強調-欧州委、UNIFEに回答書-

(EU、日本)

ブリュッセル発

2017年08月02日

欧州委員会は7月19日、欧州鉄道産業連合(UNIFE)のフィリップ・シトロエン会長宛てに書簡を送り、これまでの日EU経済連携協定(EPA)交渉の取り組みと成果を報告した。それによると、UNIFEの要望事項のほぼ全てについて合意し、同EPAの政府調達分野に関わる合意履行状況を検証する枠組みの導入にも成功したと成果を強調した。中でも、EUが長らく日本の鉄道市場への参入障壁と見なしてきた特例措置撤廃が重要としている。

大枠合意へ、強気の姿勢で迫った欧州鉄道産業界

UNIFEは6月27日付で、欧州委宛てに意見書を提出し、(1)日EU・EPAの最終合意に、鉄道に関する「ワン・イヤー・パッケージ」を取り込むこと、(2)日本の運送事業における運転上の安全に関連する調達契約を政府調達協定(GPA)適用対象から除外できる根拠となっていた「安全注釈(OSC)」(注)の撤廃、(3)本州にあるJR3社などの「資材調達に関する行動基準(調達方針)」(任意基準)を通じて、入札における内外無差別原則を担保すること、(4)交渉妥結以降も、鉄道分野における日本の合意履行状況を検証する体制の導入、を強く申し入れていた。

これに対して、欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は7月19日、UNIFEのシトロエン会長宛てに回答書を出し、「対日交渉開始の当初から、鉄道分野の政府調達における市場アクセス拡大を重要課題と位置付けてきた」と、これまでの交渉の取り組みと成果を報告した。

日本のOSC撤廃は大きな成果

同回答書によると、(1)鉄道に関する「ワン・イヤー・パッケージ」を踏まえて、GPAに含まれる日本の鉄道分野の企業体は調達の透明性を高めていること、(2)安全注釈(OSC)については日本の当局が撤廃の合意に応じ、所定額以上の安全関連調達契約について日本は市場を開く意向であること、また、OSC撤廃は「EPA大枠合意から2年後」または「EPA発効の1年後」を想定していること、(3)JR3社は既に任意の「資材調達に関する行動基準」を今後も採用する意思を各社ウェブサイトで明確にしていること、(4)EPAでは「政府調達委員会」の設置が想定されており、鉄道分野を含めて政府調達に関わるEPAでの合意の履行状況を検証する役割を果たすこと、に合意したとしている。マルムストロム委員は「長らく日本の鉄道分野の調達に(欧州企業が)参入する障壁となってきたOSCの撤廃はEU側にとって新たな市場を開くことになる」として、特にその成果を強調した。このほか、(4)の「政府調達に関わる合意履行状況の検証」については、「政府調達委員会」レベルで解決しない場合、双方の高級レベルの合同委員会を組織し、解決策を協議するとしている。

なお、マルムストロム委員は、EPAでは日本側が「中核市」と呼ばれる48の地方都市での政府調達についても、入札における内外無差別原則を受け入れたことを大きな成果としている。

(注)WTO「政府調達協定(GPA)」付属書1付表2に関する注釈の5によって認められた、「運送における運転上の安全に関連する調達は(GPAの対象に)含まない」とする例外規定。「業務安全条項(OSC)」とも呼ばれる。EU側は、日本国内の鉄道など運輸サービス産業が、これを根拠に特定分野の調達契約をGPAの適用から除外してきた結果、入札要請が極めて限定的だとし、問題視していた。

(前田篤穂)

(EU、日本)

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