欧州委、違法伐採対策について日EU・EPAでも配慮-国際環境NGOへの回答書で立場表明-

(EU、日本)

ブリュッセル発

2017年07月28日

欧州委員会は7月19日、日本と大枠合意に達した日EU経済連携協定(EPA)でも、森林破壊につながる違法伐採問題の対策について適切に配慮しているとの立場を明らかにした。NGOの環境監視機構(EIA)への回答の中で示されたもので、欧州委は、同EPAには「貿易と持続可能な開発」条項があり、第三国経由の取引を含めた違法伐採への対策も盛り込まれるとしている。ただし、日本の「クリーンウッド法」で導入された「合法伐採木材の取引事業者登録制度」について、最終的に「任意アプローチ」が採用されたことには「誠に残念」と付言している。

違法伐採問題めぐるリスクを指摘するEIA

欧州委は7月19日、日EU首脳会談で大枠合意した日EU・EPA(2017年7月7日記事参照)との関連で、違法伐採問題をめぐるEUとしての立場を明らかにする声明を公開した。この声明は、国際環境NGOである環境監視機構(EIA)のアレクサンダー・フォン・ビスマルク代表に対する回答書の形式で出されている。EIAは米国(ワシントン)と英国(ロンドン)に拠点を置き、森林などの自然保護や絶滅危惧種の保護、気候変動対策などを目的とする国際NGOだが、近年は「自由貿易協定(FTA)と自然環境破壊の関係」「先進国が結ぶFTAに潜む森林伐採問題のリスク」などをテーマに情報発信を行っている。

EIAは日EU・EPAの大枠合意前日の7月5日にも、欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)に「同EPAに違法伐採やその取引を禁止するための両者の取り組みが十分盛り込まれていない」との意見書を提出。日本が2017年5月に施行した「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(クリーンウッド法)に基づき導入した木材を取り扱う事業者の登録制度が任意のもので、罰則を伴うものでない、として問題視している。「EUは欧州木材規制(EUTR、施行:2013年3月)を通じて、違法伐採・輸入に対する規制で世界でも先端的な役割を担っており、日本にも同等(EU水準)の規制導入を求めるべきだ」というのがEIAの主張だ。

日本の「任意アプローチ」採用には「誠に残念」と付言

これに対して、欧州委のマルムストロム委員は、EIAのフォン・ビスマルク代表に回答を送り、「この問題への対応は日本と数年がかりで行っており、違法伐採・取引対策の法制化も日本に働き掛けてきた経緯がある」「日本でのクリーンウッド法の施行は重要な一歩だ」とし、日本のこれまでの取り組みを評価した。しかし、同委員は同時に「合法伐採木材の取引事業者の登録制度」について、同法が「任意のアプローチ」を最終的に採用したことは「誠に残念」とコメントしている。さらに、私見としながら、「日本がこの法令によって違法伐採木材を市場から一掃できるのか、現時点で判断するのは時期尚早」とも述べた。また、マルムストロム委員は「同法が将来の法的な有効性について見直すことを担保している点は認識すべきだ」と述べた(同法は「施行後、5年をめどに施行状況を評価し、必要に応じて基本方針を見直す場合もあること」を認めている)。

将来、問題解決に向けた意見交換の機会も

このほか、マルムストロム委員は「日EU・EPAのテキストでは 『貿易と持続可能な開発』条項が設けられており、第三国経由の取引を含めた違法伐採対策が盛り込まれている」「最近、EUが締結したその他の通商協定の内容とも同様」との考えを示した。また、EPAとは無関係に、今後もEUTRは日本から輸入される木材に適用され、輸入木材・加工品のサプライチェーンに違法伐採木材が入ることのないよう、EU側の輸入者に適正な対応を求めるとも述べた。

最後に、同委員は「『貿易と持続可能な開発』条項が、EU側および日本側の市民団体の代表者による、EPAの運用状況についての評価に参画する機会を想定しており、将来、違法伐採問題についても、政府当局者と意見交換する機会もあり得る」との認識を示し、EIAの理解を求めた。

(前田篤穂)

(EU、日本)

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