日欧市場での米国企業の競争力低下を有識者は懸念-日EU・EPAに対する米国の反応-

(米国、日本、EU)

ニューヨーク発

2017年07月10日

日EU経済連携協定(EPA)の大枠合意が7月6日に発表されたが、米国産業界は目立ったコメントを発表していない。一方、有識者からは、日EU・EPAの関税撤廃により欧州や日本市場で米国企業が劣後することのほか、地理的表示(GI)保護制度や自動車安全基準などで米国が望まない基準が採用されることへの懸念の声が聞かれる。

主要メディアは保護主義的な動きに対するメッセージと評価

日EU・EPAの大枠合意の発表について、米国商工会議所や全米製造業者協会(NAM)、米国自動車工業会など米国の主要ビジネス団体は今のところ、コメントを発表していない。

他方、「ウォールストリート・ジャーナル」紙(7月6日)や「ニューヨーク・タイムズ」紙(7月6日)などの当地主要メディアは、安倍晋三首相とドナルド・トゥスク欧州理事会常任議長が、保護主義的な動きが広がる中で日EU・EPAが大枠合意に達した意義を強調したことに触れ、G20サミット(7月7~8日)を前に、トランプ大統領に対して日本とEUが示したメッセージとして報じている。

「ワシントン・ポスト」紙(7月6日)は「この協定は、他国がトランプ政権の保護主義的なレトリックに対して同様の政策を取るのではなく、グローバル化と協力における別の取り組みを追求することで応えようとしていることを示した」との、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)シニアフェローのチャド・バウン氏の発言を引用している。

TTIPやアジア諸国との貿易協定の起爆剤に期待も

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の交渉を手掛けた元米国通商代表部(USTR)代表補のウェンディ・カトラー・アジア・ソサエティ政策研究所副所長は「フォーチュン」誌電子版(7月6日)に寄稿し、「日EU・EPAは、日本と欧州の企業や消費者に多大な利益をもたらす」とした上で、「日本や欧州市場でのビジネスにおいて、米国の農家や製造業、サービス企業は不利な立場に置かれる」との懸念を示した。特に、米国から日本への牛肉輸出のほか、化学、機械、電気機器、金融やその他のサービス企業への影響が大きいと指摘している(注1)。

さらにカトラー氏は、米国とは異なるEUの自動車安全基準や、欧州産チーズなどの地理的表示(GI)を日本が受け入れた場合は、米国の企業や酪農家の海外ビジネスに影響が及ぶとの懸念を示した。欧州委員会が発表した資料によると、今回のEPAの下で、日本はEU側の200を超える食品・飲料に関して、日本でも同等の保護を認めることに合意している(2017年7月7日記事参照)(注2)。カトラー氏は、2011年に発効したEU韓国自由貿易協定(FTA)が米韓FTA(KORUS)の議会批准の後押しとなったとし、「日EU・EPAが、米国とEUの包括的貿易投資協定(TTIP)や日本を含むアジア諸国との貿易協定にトランプ政権が取り組む起爆剤になることを望む」と述べている。

(注1)外務省発表資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、日本からEUへの輸出において、一般機械は輸出額ベースで86.6%、化学工業製品は88.4%、電気機器は91.2%で関税が即時撤廃される。

(注2)上述の外務省資料によると、今回のEPAでは、EU域内における日本産酒類の地理的表示の保護についても合意している。

(鈴木敦)

(米国、日本、EU)

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