欧州議会、2017年下期の優先課題17分野を公表-自由貿易に対するEU市民の信頼回復を模索-

(EU、英国、エストニア)

ブリュッセル発

2017年07月14日

欧州議会は7月13日、エストニアがEU議長国を務める2017年下期に各常任委員会で優先的に取り上げるべき17課題を公表した。「国際貿易」から「雇用・社会問題」まで多岐にわたるが、エストニアは11日に、国際貿易委員会で「欧州企業の新市場開拓に貢献する通商交渉について進展を図りたい」と期待感を示す一方、「自由貿易に対するEU市民の信頼回復に努める必要がある」とも提言した。また、機構問題委員会では英国のEU離脱(ブレグジット)について「EU諸機関の活動の透明性確保」「英国の離脱に伴う欧州議会の国別議席の見直し」が協議される見通しだ。

「国際貿易」から「雇用・社会問題」まで

欧州議会が明らかにした2017年下期(7~12月)に同議会・各常任委員会で優先的に取り上げるべきテーマは下記のとおりで、「国際貿易」から「雇用・社会問題」まで17分野にわたる。

○国際貿易委員会(INTA):「自由貿易に対するEU市民の信頼回復」

○運輸・観光委員会(TRAN):「道路網整備」「行政のデジタル化」「航空」

○文化・教育委員会(CULT):「デジタル革命の活用」

○市民の自由・司法・内務委員会(LIBE):「移民・難民・治安問題」

○外交委員会(AFET):「移民・東方パートナーシップ(トルコ関係)」

○農業・農村開発委員会(AGRI):「共通農業政策(CAP)改革」「不公正貿易慣行の廃止」

○産業・研究・エネルギー委員会(ITRE):「第9次研究枠組み計画(FP9)」「デジタル市場」

○環境・公衆衛生・食品安全委員会(ENVI):「EU域内排出量取引制度(ETS)」「土地利用・土地利用変化および林業(LULUCF)分野における排出・吸収量」

○法務委員会(JURI):「著作権」「家族法」「破綻処理」

○漁業委員会(PECH):「北海」「アドリア海」

○女性の権利・男女機会均等委員会(FEMM):「性由来暴力」「所得格差」「育児休暇」

○域内市場・消費者保護委員会(IMCO):「デジタル単一市場戦略」

○地域開発委員会(REGI):「結束政策の未来」

○経済・通貨委員会(ECON):「財政統合」「欧州戦略投資基金(EFSI)」「資金洗浄問題」

○開発委員会(DEVE):「危機回避」「難民教育」

○機構問題委員会(AFCO):「ブレグジット」「透明性」

○雇用・社会問題委員会(EMPL):「派遣労働者」

欧州企業の新市場開拓につながる通商交渉に期待

2017年下半期のEU議長国であるエストニア政府は、7月11日に開かれた国際貿易委員会で、「欧州企業の新市場開拓に貢献する幾つかの通商交渉について進展を図りたい」としている。ただし、同時に「自由貿易に対するEU市民の信頼回復に努める必要がある」とも提言している。また、EU理事会でも既に論議されている、EUとしての新たな「通商防衛措置」の導入についてもめどを付ける考えだ。

航空業界に広がるブレグジット警戒感

他方、機構問題委員会では「英国のブレグジット」が優先課題として取り上げられ、この問題に係る「EU諸機関の活動の透明性確保」や「英国の離脱に伴う欧州議会での国別議席の見直し(英国以外のEU27カ国での再配分)」が主要課題になるとエストニア政府はみている。

ブレグジットをめぐっては、7月12日に開かれた機構問題委員会で論議されており、欧州議会でブレグジット問題の総括責任者を務めているリベラル派「欧州自由民主同盟(ALDE)」代表のギー・フェルホフスタット議員(ベルギー選出)は、英国政府について「2016年の国民投票以降、英国で暮らすEU市民に影を落とす不透明性を払拭(ふっしょく)しようとする姿勢がみられない」と批判している。同議員によると、英国政府の方針では、英国で暮らすEU市民の権利は侵害され、多大な行政コストの負担を強いられるリスクがあるという。

また、7月11日に開かれた運輸・観光委員会では、航空サービス(キャリア)事業者や空港運営企業の幹部が招かれ、ブレグジットに伴う航空・観光産業への悪影響を懸念する声が上がった。特に英国からの観光客が多く訪れていたマルタ、キプロス、ポルトガルの観光産業に強い警戒感が広がっているという。欧州を代表する格安航空会社ライアンエアーのマイケル・オライリー最高経営責任者(CEO)は「離脱交渉が妥結しなかった場合、ブレグジットと同時に英国とEU27ヵ国間の全路線を停止することもあり得る」と述べた。

(前田篤穂)

(EU、英国、エストニア)

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